神殺しの花嫁

海花

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青く美しい鳥が天高くから現れ、蒼玉と蛍の頭上をぐるりと何度か飛び回ると、絹の織物が風に靡く様にふわりと二人の目の前に舞い降りた。
すると小さな竜巻の様な風が起こり、その風がぼんやりと人の形になり、やがてそれが瑠璃へと変わっていった。

「二人で遊んでるなんて珍しいね。……幸成殿は中かな?」
蒼玉と螢に笑顔を向け頭を順番に撫でると、瑠璃は母屋へ視線を向けた。

「……翡翠に……連れて…………かれた……」

「翡翠に?」

「……琥珀……が…呼んでるって…………」

いつも冷たいくらい冷静な蛍が不安がっているのが分かり、瑠璃は眉間に皺を寄せた。

「琥珀様が……?そんな筈ないよ……。今琥珀様と共にいる紫黒様から伝言が届いたばかりなんだから……」

訝しげに話す瑠璃に、蒼玉と蛍は顔を見合せた。

「……でも………厠に行った…翡翠が…琥珀から使いが来た……って……」

「…………厠?」

蛍の話に瑠璃の顔が余計に歪んだ。
琥珀が使いを出すにしても、翡翠に向けてというのがおかしい。
幸成を呼ぶなら直接本人へ出す筈だ。

「それは……本当に翡翠だった?」

「───え…………」

冗談を言ってるとも思えない瑠璃の顔に蛍が不安そうに俯いた。
蛍の目には間違いなく翡翠に見えた。
顔も声も疑う余地など無かった。

「ちゅがッ」

小さな声でしかしはっきりと口にすると、蒼玉は蛍の着物の袖をギュッと握りしめた。

「匂い……ちゅがう……翡翠と匂い……ちゅがった……」

「……匂い……?」

そう言われれば、僅かに嗅ぎなれない匂いがした気もする。

「翡翠は最初厠に行くって行ってここを離れたの!?」

その問いに大きく頷く二人を見ると、瑠璃の顔色が変わった。
この半月で、琥珀の元に人間が囲われているのは、山の狼だけでは無く、最早獣以外にも知れ渡っている。
そして物怪や妖の類が、誰かに化けて悪さをするというのは常套手段だ。

「…………幸成殿の事は紫黒様に知らせるから…私たちは先ず……翡翠を探そう……」

───悪さをする程度なら……良いけど……

瑠璃の顔が今まで見たこともない程険しく見え、蒼玉と蛍は互いの手を強く握りしめた。




目の前に立つ“者”の姿を、幸成は瞬きもせずに見つめていた。
はじめ声から男だと思ったものの、目の前に立つ姿は男とも女とも見える。
と言うより、腿の半ばまで有るか無いかの深紅の女物の着物を、肩が見える程胸元を広げ着ている様は、遊郭の女郎を想像させた。

美しい足と肩は色香を漂わせているが、女にしては骨っぽい様に感じられ、女なのか男なのか、はたまた人間であるのかすら分からなくさせる。

「こんなに傷だらけになっちゃって…………“琥珀様”が見たら……大騒ぎだね」

口に手を当てクスクスと笑う姿が、ひどく妖艶なのに、何故か幸成をゾッとさせた。

「別にさ……あんたに会ったこともなけりゃ……何の因果も無いんだけど……」

笑いながらそう言うと、何とか上半身だけ起こしている幸成の身体を跨ぎ、細く長い足を片方下っ腹に乗せた。

「おれの為に…………死んでくれない?」

冗談とは思えない冷たい瞳が、幸成を見下ろした。


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