神殺しの花嫁

海花

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「───何を言って……」

「おれの“連れ”がさぁ……あんたを気に食わないらしいのね?……元々そんなに笑う奴じゃなかったけど、あんたが来てから益々笑わなくなってさ…………最近じゃニコリともしなくなった訳」

腹に乗せられた細い足が有り得ない程重く、幸成の身体を地面へ縫い付けた様に動けなくさせている。

「やっぱさ……笑っててほしいじゃん?……惚れた奴にはさ…………例えそいつが…おれを見てくれなくてもさ…………」

憂いを含んだ声に、幸成は唾をゴクリと飲み込んだ。

───連れ……!?……その人に笑って欲しいから死んでくれって…………

言っている事はめちゃくちゃなのに、その瞳に迷いは一切感じられない。
しかも抗おうとするのに、身体が動かない。
不意に腹に乗せられていた足がどかされ、紅い着物の裾が揺れると、男が幸成の上に馬乗りになった。
ビクッと震えた幸成の細い首に長い指が伸ばされ、一気に力が加わる。

「───こ……琥珀………………」

幸成の形の良い唇が愛しい名を絞り出すように口にした。



今まで人を騙したり、嵌めたりしたことはある。
それによって怪我をさせる位のことは何とも思わない。
しかし、殺したことなど無かった。
人を騙して楽しんで、人に化けて一夜を共にする。
気が向けば傍に留まり、飽きれば離れる。
黒曜のことも、当然そのつもりだった。
助けてもらった恩を少しの間返し、飽きればまた姿を消す。
いつもと何も変わらない“筈”だった。
それが……いつの間にか離れたくないと思う様になっていた。

時々見せる笑顔が可愛い。
拗ねるのも可愛い。
すぐ怒るところも、その癖寂しがりのところも全てか可愛い。

情など無いという癖に、優しく触れる熱い唇が
…………愛しい…………。



強がっていても震える手に、月夜は目一杯の力を加え幸成の首を絞めた。
見開かれた瞳が、紅く染まり出す肌が、怖くて顔から目を逸らし瞼をきつく閉じた。

黒曜が琥珀と人里に行くと聞いてから、この日をずっと待っていた。
二人が共にいれば黒曜が疑いを掛けられる心配が無いと思ったからだ。
そして事が済んだら姿を消すつもりでいた。
例え傍にいるのが自分ではなくても、前のように笑っていてほしかった。
時々見せるはにかんだ笑顔を、本当はもう一度見たかった……。

「……黒曜……」

月夜の口から小さな声が辛そうに漏れた瞬間、幸成に馬乗りになっていた細い身体が宙を舞う様に飛ばされ、形の悪いうねった巨木に叩きつけられると、辺り一面に鈍い音を響かせた。

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