神殺しの花嫁

海花

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目の前で火花が飛び散るように光り、そのチリチリとした光が消えると一瞬で暗闇に包まれた。
突然頭が朦朧として何が起こったか理解出来ない。
月夜は何とか瞼を開け、掠れる視界に目を凝らした。
すると自分が殺そうとしていた幸成を抱きかかえる一人の男が見えた。
何度か遠くから見た姿。
吐き気がする程近づき難い『神』と呼ばれる男の姿だ。

───あー…………バレちゃった………

琥珀が必死で幸成に呼びかけている傍で、黒曜が呆然と自分を見ている。

───……おれって本当に役立たずだ………最後くらい……あいつの役に……立ちたかったのに…………


「……何故こいつを狙った…………?」

腕の中の幸成が意識を取り戻すと、突き刺さる様な怒りを孕んだ瞳が月夜に向けられた。
恐怖から勝手に震えだす身体を無理に起こそうとして、動かないことに気付いた。
動かないどころか、身体中が熱い。

───さっきの嫌な音は……おれの身体から出た音か……

昔何度も聞いた“骨が砕ける音”だ。
悪さがバレた時だけでは無い、ただ妖狐だと気付かれただけですきくわで動けなくなるまで殴られた。

黒曜に助けられたあの日も、それが元で血の匂いを嗅ぎつけた妖に追われていた。




誰かが傍で動く気配で、月夜は重い瞼を開けた。
すると見慣れない部屋で布団に寝かされ、見慣れない男の背中が見える。

「…………お前……誰…………?」

「───ん……?……ああ……目ぇ覚めたのか?」

月夜の声に男が振り返った。
やはり初めて見る漆黒の瞳が見つめる。

「……………誰だよ……お前…………」

「お前なぁ……助けた奴にその言い草かよ」

笑いながら布団に近付いてくると、男の温かい手が額に触れた。

「………まだ熱あるな……もう少し寝てろ……」

「……もしかしてあんた……助けてくれたの?」

「………まぁな……放っておけねぇだろ……目の前で……ボロボロの奴が妖に食われそうになってりゃぁ……」

「……そうなんだ…………あり……がとう……」

男の手がイヤに照れくさくて、布団に鼻までもぐりこみ礼を言った月夜の髪を、今度はその手が優しく撫でた。

「今度はイヤに殊勝だな……。気にすんなよ…ただの真似事だ」

そう言ってまた笑った男の背中を見つめる。
妙に照れくさくて、それなのに居心地が良くて……月夜は男の言う通り、そのままゆっくりと瞼を閉じた。



肌を何かが擦る感触で深い眠りから引き戻される様に月夜は薄らと瞼を開けた。
無理に呼び戻された意識が重く、頭にもやが掛かっている様にぼんやりとする。
しかしそれでも、何も掛けられていない自分の肌が晒され、すぐ傍に行灯の灯りに照らされたあの男がいるのが分かった。

───ああ…………やっぱ……それか…………

自分に優しくする理由など知れている。
おもちゃの様に扱われ、欲望を吐き出される為以外何も無いと、自分が一番解っている。

「───やっと目を覚ましたか?」

月夜の目が開いていることに気付き男が呆れた様に声を漏らした。

「……何か食えるか?……傷の手当てが終わったら、粥を持ってきてやる」

「…………傷…の……手当て………?」

「そうだよ。全く……三日も目ぇ覚まさねぇから放っておく訳にもいかねぇだろ……」

文句を言いながらも丁寧に傷を拭くと、手早く着替えさせ、男は椀に匙を入れ持ってきた。

「普段そんなもん作らねぇから……味の保証はねぇぞ……」

怒っている様にも見える不貞腐れた顔で、月夜の身体を起こすと手に椀を持たせた。
しかしそれが恐らく照れ隠しなのだと、何故か分かる。
月夜は男の優しさに応えたくて、痛む身体で何とか匙を持ち口に運んだ。

「………………美味しい……」

「───そうか!」

月夜の一言に男は嬉しそうに笑った。
少し不似合いな、はにかんだ笑顔だ。

「お前……妖狐か?……名前は?」

「……月夜……」

「月夜……良い名だな。それ食ったらまた寝ろ。傷が治るまでいたって構わねぇから」

「…………あんたの名前は……?」

「俺か?……俺は───」



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