神殺しの花嫁

海花

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どんよりとした雲が空を覆い、今にも降り出しそうな湿った空気が肌に纏わりつくようで、翡翠はイラつきをそのままにプルプルッと身体を震わせた。

少し前に黒曜が来るのが見え、遊んでもらおうと近寄ったら紫黒に止められた事にも腹を立てていた。

「大人の話があるんだよ。餓鬼は引っ込んでろ」

笑いながらそう言われた事が気に入らない。
翡翠は顔を顰めると足元の小さな石を足で蹴飛ばした。

「翡翠ッ!」

すると勝手口から幸成が顔を出した。

「雨降ってきそうだから、もう中に入りな」

空を見上げ、翡翠に笑顔を向けたその人を翡翠はじっと見つめた。

「……翡翠?」

名前を呼ばれてもずっと見つめ続ける翡翠に、幸成が首を傾げると、やっと勝手口から入り

「幸成も子供なんだな」

そう言って嬉しそうにニッと笑った。




急須から湯呑みにお茶を注ぎ、盆に乗せるとそれを手に幸成は立ち上がった。
朝、黒曜の家へ行った瑠璃から、黒曜が来たらお茶を出してくれと頼まれていたからだ。

───さすがに……どんな顔していいか………

小さな溜息を吐くと、三人がいる座敷へと向かった。
黒曜が自分を殺そうとしていたとは思わない。しかし自分がいるせいで笑えなくなる程、辛い思いをさせていたのだと、気付きもしなかった。
自分には僅かにしろ笑顔を見せてくれていたのは、ただの気遣いに過ぎなかったのだ。
障子の手前で膝をつき、自分では気付かないうちにまた溜息が漏れた。

すると中からボソボソと話し声が聞こえ、その中に「神殺し」と言った紫黒の声が耳に届いた。




「───遅くなりました」

座敷に入るなり黒曜は深く頭を下げた。
朝、訪れた瑠璃から琥珀の元に行くように伝えられ、月夜を瑠璃に任せ屋敷を訪れていた。

「よお、あの狐はどうだ?」

軽く声を掛けた紫黒へ顔を向けると

「……瑠璃が今…癒してくれています」

俯き、もう一度頭を下げた。

「いつまで立ってるつもりだ?座れよ」

すると慣れ親しんだ声が耳に届いた。
愛しい筈のその声に身体が緊張したのが分かったが、何とか表面には出さずに済んだ事にホッとしながら、黒曜は何も言わずに腰を下ろした。
しかし障子を開けてから、まだ琥珀の顔を見られずにいた。
昨日月夜が幸成にしたことも、『退け』と言った琥珀の言葉に背いたことにも『眷属』としてあってはならないことだと、身体の中の琥珀の血が騒ぎ立てるのだ。

「……で、人間等やつらどうするつもりだ?」

黒曜が、座るなり紫黒が早々に口火を切った。


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