神殺しの花嫁

海花

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もうどれ程こんな事を繰り返しているのか、既にそれすら覚えていない。
今では当たり前の様に人を殺し、それを喰らっていた。
そこには快楽がある訳でも無く、憎しみすら見えない。
産まれてきてからずっとそうしていたように、ただ当たり前にそれを繰り返していた。

まだ息をしている男の身体から内蔵を引き摺りだし口にすると、眉を顰め琥珀はそれを吐き出した。
あの“赤子”を食べてからと言うもの、大人の、まして男の肉では満足出来なくなっていた。
硬く何処か臭みがある肉も血も気に入らない。
赤子を見つけると真っ先に食べたが、大人の数より遥かに少ない。
ここでも数人口には入れてみたが、どうにも喰う気になれない。

部屋の隅に置かれた長持ちの上に勢いよく腰を下ろし、琥珀は苦しんでいる男の様子を面白く無さそうに見つめた。
腹は減るが、どうしても赤子が喰いたい。
せめて若い女だったら…………
組んだ足の上に肘をつき、手の上に顔を乗せると手持ち無沙汰に指が頬をトントンと叩き始めた。
若い女であれば、赤子では無いにしろ肉も柔らかく臭みも少ない。
それに乳の肉は赤子に近いモノもある……。
すると不意に頬を叩く指が止まった。

───そうか……若い女だったら…………

何か思いついた様に口の端が僅かに上がった。
しばらくすると男の呻き声も小さくなり、部屋に静けさが訪れ、そこでやっと男の苦しげな息遣いとは別の、微かな息遣いが琥珀の耳に届いた。
どうやら長持ちの中から聞こえる。
男が苦しむ様を見ているのにも飽きていた琥珀は長持ちの蓋に手を掛けた。
ただの気紛れだったが、中に赤子でも隠していれば……そう思いながら長持ちの蓋を開けた。
しかし中には赤子ではなく、若い女がブルブルと震え、涙を流しながら身を隠していたのだ。
恐らくあの男の娘で、どうにか娘だけでも助けたかったのだろう。
怯えながら自分を見つめる瞳に、ニヤリと笑うと琥珀はその娘を長持ちの中から抱き上げた。
死を待つだけの男が首を振り何か言おうとしているが、もう声にすらなっていない。

「あんたの娘か?」

腕の中で動けず震える女から男へ視線を向けた。
すると返事を聞くまでもなく男の目が見開かれ、何かを願う様に見つめている。
赤子を食べた時の“母親の目”とよく似ていて、琥珀はニヤッと笑った。

「助けて欲しかったんだろ?……あんたの願い通り、この女は殺さないでやるよ」

そしてもう一度女を見つめた。
余程自分が恐ろしいのかガタガタと震えている。
自分の“大切な者”を守りたいのに、無力で守れない男も、恐ろしさの余りに動くことさえ儘ならない娘も……酷く滑稽に見える。
しかも先程思いついた事を試してみるには充分過ぎる程の状況に声を上げて笑いたくなった。

「───この女には俺の子を産んでもらう」

新しい玩具を与えられた子供の様に愉しげな声が告げると、紅い舌がぺろりと唇の血を拭った。
そして死に行く男の目の前で、琥珀は女の着物を脱がせ始め

「……そうしたら簡単に赤子が手に入る………」

ゾッとする笑顔を女に向けた。

有難いことに子種はすぐに根付き、三月とせずに子供は産まれた。
それからはひとつの村に居着き、若い女だけを攫っては犯し、子を産ませた。
ただ自分が喰らう為だけに女達に子を産ませ、乳を飲ませる間もなく喰らう。
だいたいは上手くいっていた。

琥珀の種はよく根付き、次々に子が産まれた。
しかし一度産ませると、次に産める様になるまで時間が掛かる。
それにイラつくと、子を産んだばかりの女を喰らった。
しかしそれでも気が済まず、産まれるのが待ちきれない時は女の腹を裂き、無理に赤子を取り出し、臍の緒さえそのままに喰らう。
甘い血肉と、女と赤子の叫び声に酔いながら、もう自分がまともでは無いことにすら気付かない。
血腥い部屋で女を犯し、産まれた子を次々に喰らう。
もうこの頃の琥珀は、何故自分が人を殺したいと思っていたのか、それすら解らなくなっていた。
人に対する怒りと憎しみと、赤子の肉を食べたい……その欲望だけが琥珀を支配していた。

そしてもう自分が『琥珀』と言う名だったことすら忘れていた。
この血腥い恐ろしい男の名を呼んでくれる者など、ただの一人としていなかったからだ。




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