神殺しの花嫁

海花

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山間のそう小さくは無かった村に恐ろしい悪神が住んでいる。

その噂は少し前から天上にも届いてはいた。
しかしそれが『神』である者の所業という事実が神々の腰を重くした。
『神』は時として残虐にもなる。
余程“度を越さない限り”他の神々は手を出さない。
それは神々が争えば地が荒れる。
皆それを解っているからだ。
荒らすのは一瞬だが、再築するのは手も暇も掛かる……。

しかし、琥珀は人の血で己の手を染めすぎた。
しかも若い女ばかりを攫い、犯して子を産ませ、それを喰らうなどと言う所業は聞いたことも無い。
しかもそれが十や二十などと言う数でも無い。
地も護らず、残虐非道を繰り返す。
お陰でここ数年、琥珀の地は痩せこけ芽吹きも少なく実りも少ない。
それは全ての生き物の死を意味している。

そこまできてやっと数人の神が『真神』を捕らえる為に動き出した。
そしてこの地を作り、数多の神を作り出したその顔ぶれの中に、“あの晩”琥珀に真実の名を教えた男の顔も含まれていた。


荒れ果て血に染った地で、大勢の神使に囲まれ、その後ろに控える『大御神』達にも怯む事無く琥珀は牙を向いた。
自分を捕らえようとしている者たちが、人では無いことも、自分など足元にも及ばない程の“力”があることも、見てすぐ理解った。
しかし琥珀は躊躇うこと無く、手が届く神使から片っ端に殺し始めたのだ。

その度に僅かに歪む『大御神』達の顔に気付き、爪と牙、時には炎を使い戦い続けた。
大御神の神使と言えど、神である琥珀に適う者はそうそうおらず、次々に倒れていく神使に琥珀は嬉々として笑った。
神と呼ばれる者たちが心を乱し、怒りに染まり始めているのが手に取るように解ったからだ。
しかしたった独りの琥珀に対して、増え続ける神使やっその眷属達に、やがて琥珀の身体は傷だらけになっていった。
初めて自分から流れる血で身体を深紅に染め、しかしそれでも動く限り歯向かった。
一人でも多く殺し、一度でも多く『神』の怒りに触れたいが為に、自分の身体がどれだけ傷付こうが、血を流そうが、構わずに神使達の腹を爪で抉り、首を噛みちぎった。
痛みなど感じなかった。

神使を殺す度に歪ませる神どもの顔が、怒りを育てて行く瞳が“大切な者を奪われた”と言っているようで、それが堪らなく心地良い。

この世の全ての者から『大切な者』を奪いたい───。

ボロボロになった身体で、それでも薄笑いを浮かべている琥珀に、黒く大きな羽を持つ男が漸くとどめを刺した。
胸を槍で突き抜かれ、正に血の海と言っても過言では無い中で、琥珀は倒れ動けなくなった。
朦朧とする意識の中でそれでもまだ、口の中で小さく舌打ちした。

───もっと………殺してやればよかった………

すると自分の胸を突き抜いた男が、傷だらけの身体を引き摺る様にして傍に来たのが分かり、紅い瞳がその姿を捉えた。
閉じそうになる重い瞼をどうにか堪え、男の顔を見つめる。
数え切れない程の仲間を殺した自分に、どんな眼差しを向けるのか知りたかった。

嘲るのか、蔑むのか……それとも怒りだけなのか……。

しかし自分を見下ろす男の目は、怒りでも、蔑むでも無く、ただ悲哀に満ちている。
ただ……哀れんでいる

同じ様にボロボロの身体で、それでも止をさした男の手が、不意に頬に触れた。
慰める様にただ触れている。





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