神殺しの花嫁

海花

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朝のひんやりとした、しかし清々しい産まれたての様な空気が頬を撫で、幸成は目覚めたばかりの少し重たい瞼を開けた。
すぐ目の前にある唇から、穏やかなゆっくりとした息が漏れ、幸成の前髪がそれに遊ぶように微かに揺れている。

昨夜は琥珀の腕に抱かれ眠った。

何処よりも安心させてくれる、お互いの愛情を確かめ合える場所。
昨夜も何度も口付けを交わし、自分が眠りの淵へ落ちるまで髪を撫でてくれていた。

「やっと……オレの元へ帰ってきた」

そう嬉しそうに呟いた声が今でも耳を擽る。



自分が目覚めてから、離れようとしない翡翠達を必死で引き離そうとしていた琥珀を思い出し、思わず笑みが漏れた。
その必死さと言ったら、瑠璃や紫黒が呆れ返る程だった。

まだ眠りから覚めない穏やかな寝顔を見つめる瞳から不意に笑顔が消えた。

───まだ……薬が抜けないのだろうか………

幸成は昨日目が覚めてから、瑠璃に聞かされた話を思い出していた。
自分が盛った薬の所為で、琥珀が深い眠りから中々戻れなかったこと。
そして目覚めてからは、必死で自分を探してくれたこと…………。

───瑠璃殿も詳しくは教えてくれなかったが……恐らくこの傷も……

頬に残る、跡のようになった傷を幸成は指でそっと触れた。
昨夜着替える為に着物を脱いだ琥珀の肌には、塞がってこそいるが、これよりずっと酷い傷が幾つもあった。
そして以前瑠璃と話した時に「折れた骨や、酷い傷を治しきる事は出来ない」と言っていた。

それはつまり……瑠璃の治せない『酷い傷』だったのだと物語っている。

───俺のせいで…………。

「…………ん…………」

触れて起こしてしまったのか、瞼が薄く開き美しい琥珀色の瞳が幸成を捉えた。

「……起きてたのか?」

言葉と共に心地よく乗せられていた琥珀の腕が、その存在を確かめるように幸成の身体を抱きしめた。

「───あ…………」

「……夢じゃねぇな……?」

確かめる声が心細く聞こえ、苦しい程抱きしめる温もりに、幸成も愛しい背中に腕を回した。

「……はい」

「二度と……オレの傍から離れるなんて考えるなよ…………?」

「はい」

優しく離れた身体と引き換えに、満月のような瞳に見つめられ、唇がゆっくりと重ねられた。
温かい舌が伝える温度が心地好く甘く絡まり、それに幸成も自然と応えた。
朝の静けさに絡まるふたつの舌の音さえ、耳に甘く届く。

しかしそれは突然終わりを告げ、抱きしめる腕が一層強くなった。

「………………琥珀……?」

幸成の胸に僅かな不安が覗く。

───やはり……俺の身体が汚れているから……


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