神殺しの花嫁

海花

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中に入る前から翡翠たちの賑やかな声と美味そうな味噌汁の匂いが琥珀と紫黒を出迎え、その帰りが分かったのか幸成が奥から姿を見せた。

「おかえりなさい」

「おう。……瑠璃はどうした?」

いつもなら出迎える瑠璃の姿が見えない事に顔を顰めながら草履を脱ぐ紫黒が、妙に落ち着きが無い様に見えて幸成は僅かに顔を曇らせた。

「瑠璃殿は今ちょうど湯の具合を見に行ってくれてますが……」

「そうか!湯か!」

そう言いながら嬉しそうに急いでそちらへ向かった紫黒の背中を、戸惑いながら見送った幸成の頭に不意に琥珀の手が乗せられた。

「……気にするな。あれはただ団子を瑠璃に渡したいだけだ」

呆れたように笑ってから、琥珀は幸成の頭を撫で手に持っていた包みを差し出した。

「これは……?」

「団子だ。……紫黒が瑠璃に食わせてぇ食わせてぇうるせぇから……」

そう照れたのを誤魔化す様に言ってから

「……お前も甘いもん好きだろ……」

微かに頬を染めた琥珀はそう続けた。
きっと……紫黒にかこつけて買ってきてくれたのだと分かる。

「…ありがとうございます」

山に行けば花を詰んでくるように、人里へ行けば“団子”だ“饅頭”だと、やはり土産を買ってくる琥珀がくすぐったくなる程愛おしい。
そして自分が喜んで受け取ると、琥珀も必ず嬉しそうに笑ってくれる。

「なにかあったか……?」

しかしその日は幸成の笑顔が僅かに違うことに琥珀は敏感に気付いた。

「──え…………あ……いえ……なにも……。ただ…………いつも土産を買ってきてくれるから…申し訳なくて」

幸成が困ったように笑ったのと同時に、帰ったことに気付いた翡翠と蒼玉が奥から走ってくるなり琥珀へ抱きついた。
しかし後から来た蛍は琥珀の側まで行かず、その視線を幸成の手元に留めた。

「おせーじゃんかょー!」

文句を言う口が嬉しそうに笑い、琥珀も笑いながら二人を抱き上げた。

「悪かった悪かった。団子買ってきたから許せ」

「団子ー!?──食う!食いたい!」

帰った時よりまだ嬉しそうに笑う翡翠に苦笑いすると、琥珀は幸成へ視線を戻した。

「ああ。今幸成に……」

しかしそう言いかけて幸成の手に何も無い事に気付いた。
つい今しがた渡した包みが、幸成の手から跡形もなく消えているのだ。

「あ…………今……蛍が…………」

するとさっきよりまだ困ったように笑う幸成の後ろから、ひょいと蛍が顔を覗かせた。
そしてその口にはちゃっかり団子を咥えている。

「あー!蛍ッ!ズルすんなよ!」

琥珀の腕の中から慌てて飛び降りる翡翠に笑いながら、子供たちの後を追うように居間へ向かう背中を幸成は見つめた。

昼間……突然感じたあの匂いが何だったのか、結局分からなかった。
まさか兄が来たのではないかと、家の隅々まで探しもした。
しかし、当然の事ながら兄の姿もなければ、あの後あの匂いがすることも無かった。
しかも別段自分の身体に異変がある訳でもない。

───きっと………気のせいだったんだ……

琥珀の顔を見るまで正直不安が残っていたが、今はあんなに慌てた自分が可笑しくさえ思え、幸成もひとり自嘲気味に笑うと琥珀たちの後を追った。

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