神殺しの花嫁

海花

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永遠に

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「ほら、玻璃はり……琥珀おじちゃんに“こんにちは”出来るか?」

デレデレの笑顔で舐めんばかりに頬に口付けると、紫黒は抱いていた男子おのこを琥珀の腕の中へそっと預けた。
銀の髪が余程珍しいのか、抱かれるなり腕の中で小さな指が琥珀の長い髪を掴み、口に運ぼうとするのを紫黒は慌てて止めた。

「そんな汚いもの口に入れちゃダメだ、玻璃」

「……汚かねぇよ……」

“心外だ”とでも言うように顔を顰め、それでも髪を背中へ流すと髪の代わりに小さな手に指を差し出した。
すると小さな温かい手が琥珀の指を握った。

「………………ますます瑠璃に似てきたな」

青みがかった黒い大きな瞳が、琥珀を見上げている。

「だろ!?もう、可愛いのなんのって……」

「……良かったじゃねぇか……お前に似なくて」

「それな」

皮肉を言っても相変わらずデレデレと笑う紫黒に苦笑いすると、琥珀は腕の中の澄んだ瞳を見つめた。

あれから半年以上の時間が経っていた。
翡翠は左目の下に傷跡が残ったものの、物を見るのには支障は無い。
蒼玉も、瑠璃のお陰で同じように脇腹に傷跡が残っただけで済んだ。
人間の焼いた山は元に戻るのにまだまだ時間は掛かるが、護る神がいる為に少しづつだが緑を戻し始めている。

「瑠璃はどうした?」

琥珀の指をどうにか口に運ぼうとする玻璃から目を逸らさず言った口元が笑っている。

「来る途中翡翠達を見つけて、そっちに行った。今夜の肴を取ってくるってよ」

外を見ながら軽く言った紫黒が、玻璃を抱く琥珀を見つめた。

「…………お前はどうなんだよ……?……琥珀…」




梅雨前の湿気を含んだ暑さから逃げる様に瑠璃も水に足を入れ、楽しそうに魚を追う翡翠と蒼玉を見つめた。
たった半年の時間が蛍を少し大人に変えたのか、以前の様に裸になって川に入る様なことはせず、一人で瑠璃と同じ様に岩場に座り足だけを水に浸けている。

この半年、本当に色んなことがあった。
ここから戻った後、身重な身体での無理がたたったのか、予定より早く産気づき、紫黒と瑠璃の赤子は不安な程小さく産まれた。
それでも紫黒の献身的な助けもあって、玻璃と名付けられたその赤子はすくすくと育ってくれた。
今ではこうして紫黒に預け、息抜きすら出来る。

「……たくさん捕れましたね」

瑠璃はやはり同じように水に足を浸ける幸成へ振り返った。

「はい。きっと……紫黒さまも琥珀さまも喜ばれますね」

そう言って笑う、以前と変わらない優しい笑顔を見つめた。

あの日───
駆け付けた瑠璃の瞳に映った、幸成を抱きしめながら震える琥珀の姿を、恐らく一生忘れないと思った。
子供のように震えながら声を上げて泣いていた。
そして腕の中の幸成は酷い怪我をしていたが、しっかりとした呼吸が聞こえ、その時は本当に安堵した。
しかしそれは、記憶と引き換えに琥珀が与えた長い時間だったのだと、後に知った。

「そろそろ戻りましょう。俺も早く玻璃の顔を見たい……。きっと大きくなったんでしょうね」

子供好きの幸成らしく、ここに連れて来る度によく面倒を見てくれる。
生まれて間もない頃は、おしめひとつ替えるにしても父親の紫黒より余程手馴れたものだった。
しかし今となっては、何故幸成がそこまで幼子に慣れているのか、知る術さえ無くなっていた。

「幸成殿は?どうなんですか?」

「…………俺…ですか?」

瑠璃の言葉の意図が解らず首を傾げる幸成に、瑠璃はクスッと笑った。

「琥珀さまと……子の話はされないんですか?」

「……子の………話…………」

それでも解らないと言うように、口の中で瑠璃の言葉を繰り返すと、幸成の顔が瞬く間に紅く染まった。

「───しッしませんッ!……そんなッ子の話なんて…………」

「そうなんですか?でも……せっかく眷属になったのに……」

恥ずかしそうに俯く紅く染まった顔を瑠璃は覗き込んだ。
二人とも子供が好きで、あれだけ想い合っているのだから当然そんな話くらいしているだろうと思っていた。
すると少し困ったように幸成は顔を上げ笑った。

「それに…………琥珀さまは……俺にそういう意味では………………指一本お触れになりませんから……」




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