神殺しの花嫁

海花

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眠る幸成を起こしてしまわないように抱き上げると、琥珀は行灯の灯りが柔く照らす布団の上にそっと寝かせた。
淡く染った血色の良い頬を温かい指が撫でると、心地良いのか僅かに笑ったように見えた。
こうして穏やかな寝顔を見るのは、どれくらいぶりだろうか……。
最後に眠る姿を見たのは、傷だらけの怖い程白い肌だった。
目を離せば呼吸をやめてしまうのではないかと、怯えながら見つめていた。
そんなことは無いと理解っていても、ただ怖かった。

暫くその寝顔を見つめていた瞳が、幸成の胸元から僅かに顔を覗かせた“何か”を不意に捉えた。
先程抱き上げた時も、胸にある固さを感じたが、さして気に止めていなかった。
しかし目に映った見覚えのある“それ”に思わす指を伸ばすと、少し躊躇ってから琥珀は幸成の胸元からそれを取り出した。

琥珀色の鼈甲べっこうに、美しく彫られた彼岸花………
紛れもない、自分が幸成へ贈った櫛だ。

───どうして…………?……

確かに……幸成を眷属にしたあの日…………
眠る幸成の枕元に置いておいたのを覚えているが、それ以降見た覚えが無かった。
こんな物を、何故幸成が後生大事に持っているのか解らない。
記憶を無くした幸成が、この櫛のことを覚えているとは到底思えない。

───何故………………

今までとは少し違う鼓動の高鳴りを感じながら、琥珀は以前よりは遥かに大人びた、しかしまだ微かに幼さの残る寝顔を見つめた。





月の明かりが少しづつ薄くなり東の空が薄らと白み始める頃、普段感じることの無い心地良い熱が自分の身体を包んでいることに気付き、幸成は瞼を開けた。

「…………あ………」

目の前の見慣れない光景に思わず声が漏れた。
必要最低限の肉と、美しくついた筋肉……
僅かにはだけた胸元から覗く琥珀の肌に、鼓動が『トクトク』と強く音を立て始めた。
昨夜琥珀に抱きしめられながら、ただ泣いていたのを覚えている。
優しく髪を撫でる手が心地好くて
愛しい声が何度も名前を呼び、「すまなかった」と繰り返していた。

──それに───

幸成は自分の唇に猶予いざよう様に指を当てた。

───何度も…………口付けた…………

思い出しただけで肌が熱くなる。
何度も触れた唇が柔らかくて、何故かそれにも泣きたくなった。
何度も何度も……触れるだけの唇が、とにかく愛おしく感じた。

こんな風に目覚める朝が来ることなど、夢の中だけだと思っていた。
こんな風に…………触れる日が訪れることなど無いと思っていた……。

幸成の手がゆっくりと揺蕩たゆたうように琥珀の肌に触れた。

───あたたかい…………

「……目が覚めたか?」

すると頭のすぐ上から、昨夜何度も甘く自分の名を呼んだ声が耳を撫でた。



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