記憶の海

海花

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叔母の電話を切ると早速美朝希からのメッセージを開く。
内容は友達と遊んだ事や、バイト先での愚痴が取り留めなく書かれている。
冬音夜は苦笑いしながら、ひとつひとつの話に丁寧に返事を打ち始めた。

───昔から変わらないな……。

幼い時から美朝希は学校であったことをまず冬音夜に話す。そして冬音夜はそれについて全てに返事をして、美朝希が望めば助言をした。
そして父が仕事から帰ると全く同じ話を繰り返すのだ。

メッセージを送信すると、1分と経たないうちに返事が返ってくる。

《お兄ちゃん返事遅すぎ!今日バイト終わったら電話するから絶対でてね‼︎ 》

───怒ってるし………ちゃんと返したのに………

冬音夜はため息を吐くと

《俺もバイトあるから出られないかも。そしたらかけ直すよ》

そう返した。今日もあの“涼太”と名乗った男と会わなければいけない……。
しかしさっきよりまだ早く返事が返ってきたと思ったら

《ダメ!少しでも良いから出て‼︎》

そう書かれている…………。そしてまたすぐメッセージが届いた。

《声聞きたいよ……》

冬音夜はしばらく考えてから

《分かったよ》

そう返した。



冬音夜は約束通り8時少し前にホテルのロビーにつき、並べられているソファーに浅く腰掛けた。
それなりに高級そうなホテルのロビーはビジネスマンや旅行者で賑わっている。
冬音夜の客には金持ちが多くこの手のホテルに来る事も少なくない。しかしいつまで経ってもこの独特な雰囲気に慣れない……。
自分が酷く不似合いな気がして、どうしても落ち着けないのだ………。
小汚い場末のラブホに連れていかれた方が余程も気が楽だった。
8時を20分程過ぎた頃涼太が部屋の鍵を手に姿を見せた。

「じゃあ、行こうか」

遅れた事には一切触れず歩き出す。
冬音夜は俯きながら後について歩き始めた。

───ホテルの従業員から見たら……一体どんな風に見えるんだろう……。

時々フッと頭を過ぎる。

『自分が売っているのは果たして…身体なのか……プライドなのか……』

今朝叔母と話し、美朝希とメッセージのやり取りをした事が余計気持ちを重くさせた。



冬音夜はオーバーサイズのパーカーを脱ぐと、そこで手を止めた。
部屋に入り当然の様に服を脱ぎ始めた冬音夜を、涼太はソファーに座り、ただ黙ったまま見つめているのだ。

「どうした?早く脱げよ」

大きめのパーカーの中から現れた細く白い身体から目を離さず涼太が薄笑いを浮かべる。
冬音夜は微かにイラつく自分に気付き、涼太から目を逸らすと服を全て脱いだ。

「お前……痩せすぎじゃないか?ちゃんと飯食ってんのかよ」

少し呆れた様に言う涼太に

「……太れない性質タチなんです」

少しムッとしたように答えた。
すると涼太が一瞬目を見開いてからニヤッと笑った。
それにまた冬音夜のイラつきが増す。

───なんなんだ……この人は…………。

一切何も身に纏わない冬音夜をニヤつきながら眺める涼太にイラつきだけが増していく。
今までに決して無い経験ではなかった。裸の冬音夜を前に自慰行為に耽る客をただ見させられている時もあった。
それなのに、いつもなら大して苦にならない事が何故か堪らなくイラつかせた。
それが涼太の小馬鹿にした様な視線のせいなのか、それとも朝の家族とのやり取りのせいなのか解らないが、全てがバカらしく思えてくる。
30分程その嘲弄ちょうろうした視線を睨んでいたが、冬音夜はベッドの上に放り出していた自分の服に手を伸ばした。

「……何をしてる?」

涼太のやはり嘲る様な言い方に

「……何もしない様なので帰ります。金ならいりません」

イラつきを隠しもせず冬音夜が答えた。
その言葉にクスッと笑うと

「なら、俺をその気にさせろよ。それもお前の仕事だろ?」

一層バカにしたような言い方に冬音夜の手が止まる。

「それとも……全部お膳立てして股を開いてやらないと……何も出来ないか?」

無意識に冬音夜の奥歯がギリッと音を立てた。
客相手にここまでイラついたことは無かった。
金の為だと思えば全て諦められたからだ。
それなのに……今だけは本気でイラついていた。
しかし冬音夜はイラつきを抑える様に小さく深呼吸すると涼太の元へ行き、そのシャツに手を伸ばした。
シャツのボタンだけを見つめひとつひとつ外していく。
自分を侮蔑するような、その目を見たらせっかく抑えている感情を吐き出してしまう様な気がしたからだ。
ボタンを全て外し現れた肌に口付け、舌を這わせながらスラックスのベルトを外しファスナーを下ろす。
微かに反応し始めた涼太のそれを指で弄びながらゆっくりと口の中へと飲み込んでいく。
無言でそれを見つめる涼太からなるべく気を逸らし、イカせることと自分を殺すことに集中した。

───……こんなこと…………どうってことない…………。

するとまた涼太の手が冬音夜の髪を撫でた。
優しく…愛おしむように……何度も……。
口の中で涼太のそれが昂りじんわりと快感を滲ませる。
すると今度は冬音夜の頬に手を当て自分のモノを吐き出させた。
この先は言われなくても解る。なんの準備もできていない自分の中に無理やり捩じ込まれる。

───自分で少し広げておけば良かった………

頭の隅で後悔する。大概の客は自分が昂ぶればすぐに入れたがった。慣れているとは言ってもそれなりの痛みが伴う。そのうちに冬音夜は口でする時は客に気付かれない様に自分で広げる術を覚えた。万が一バレたとしても「自分も感じて弄ってしまった」と言えば、逆に喜ばせる分でも咎める客はいない。

───イライラしてそこまで考えなかった……。

しかし……涼太は冬音夜に向かい側のソファーに座るように言うと、充分過ぎる程反応しきったそれをそのままに、スラックスのボタンを閉めた……。




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