記憶の海

海花

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昼の時間になり一層騒がしくなったキャンパスの中を涼太は友人と学食へ向かっていた。
いつも通り友人たちの「あそこの病院は若くて可愛い看護師が多い、ここの病院は人使いが荒くて給料が安い……」など、くだらない会話に付き合いながらポケットからスマホを取り出した。
するといくつかの着信があったことを知らせている。

───静流さんの病院からだ………長倉さんからも…………。

胸の中に嫌なざわつきが生まれる。
静流の勤務先から電話が来たことも無かったし、まして長倉が自分に電話をしてくる事など今の状況を考えれば有り得ない。
涼太は一瞬迷ってから長倉へと掛け直した。
長倉と話すのは気に入らなかったが、病院に掛け直し事情を聞くより確実に早い。

「───涼太か?」

数回コール音が聞こえた後長倉の声が耳に届いた。

「……着信が残ってたので………」

涼太の声に電話の向こうが一瞬無言になってから

「…………静流が倒れた」

長倉の冷たい声が再び涼太の耳に届いた。

「必要な物は俺が用意する。…お前は大人しく家にいろ」

先の言葉に何も返せないでいる涼太に長倉は怒りを含んだ声で無遠慮に話し続けた。

「………静流さんは!?……倒れたって…………」

「……診察が終わった途端その場で倒れた。今は点滴をしながら眠ってる」

「───すぐに行きます」

「さっきも言ったがお前は家にいろ。病院には来るな」

「──は!?……病院には来るなって…………何言ってるんですか!? 静流さんは俺の家族ですよ!?」

「そうだ。……お前は静流の唯一の家族で、この状況を作り出した張本人だ」

吐き捨てる様に言った長倉の言葉に涼太の身体が凍りついた。

「今静流に必要なのは、安静とストレスから遠ざけることだ。少なくともお前じゃない」

長倉の淡々とした、しかし怒りを帯びた口調に涼太は言葉を無くした。
確かに長倉の言う通りだった。
今の静流に必要なのは自分では無いと誰の目にも判る。

「お前に知らせない訳にもいかないから連絡はした。ただそれだけだ」

「……そんな…」

思わず口をついて出ていた。
長倉の言っていることは理解出来る。正しいとも思う。
しかし、いきなり静流と会うなと言われても、まして倒れたと聞かされて「はい、そうですか」と納得できる訳がなかった。

「……長倉さんに…そんな事言う権限は無いはずです」

涼太にすれば精一杯の威嚇だった。
全てにおいて自分の方が劣っていると、間違っていると分かる。
長倉が本気になれば静流を自分から引き離す事など容易い事だと言うことも。
電話の向こうで長倉が大きなため息を吐いたのが涼太の耳にも届いた。

「……お前はどこまで静流を追い詰めるつもりだ?……それに俺は静流の主治医だ。──静流の治療の為に家族との面会を禁止する。言ってる意味は解るな?」



切れた電話をずっと耳に当てたまま涼太は動けずにいた。
ずっと解っていた。
こんな日が来るのを……。
きっと長倉はこのまま静流を帰すつもりはないはずだ。

ずっと恐れていた。
静流がいなくなる日を…………。



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