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医院長室のソファーに背中を預けると、涼太は大きなため息を吐いた。
診察も終わり、ここへ呼ばれてからから30分程経っている。
先日の学会での報告なら電話で済ませてあり、呼び出される憶えなど無い。
特に予定がある訳では無かったが、冬音夜の元を訪れてもいい……そんな事を考えている最中だっただけに余計涼太をイラつかせた。
再びため息を吐きながら左手の腕時計を見ると、冬音夜と買ったブレスレットが目に入りそれを右手で何となく弄った。
───もういい加減いいだろ………。
30分以上待ったのだから、帰ったところで文句も言われまいと、涼太はソファーから立ち上がりドアへ向かった。
するとタイミングが良いのか悪いのかやっと長倉が姿を現した。
「悪い、悪い……看護部長に捕まっちゃってさ……」
苦笑いしながら入ってきた長倉はドアの真前に立ってる涼太とぶつかりそうになり
「……お前…帰ろうとしてたろ……」
「……当たり前じゃないですか。もう30分以上こんなところで意味の無い時間を過ごしたんですから」
「………俺……一応、お前の雇い主な……?」
「今の俺は時間外で職務中じゃ有りませんよ」
不機嫌さを隠そうともしない涼太と、どうにも不毛な会話を交わすと
「悪かったよ………取り敢えず座ってくれ……」
諦めた様にため息を吐き、涼太の肩を叩いた。
駐輪場に自転車を停めると冬音夜はスーパーの自動ドアへと入っていった。
───今日……涼太さん来るのかな……?
カゴを手にすると、京都で買ってもらったブレスレットが視界に入り頬が熱くなるのが分かった。
人前で涼太に抱きつき、抱かれながら何度も『自分は涼太だけのモノ』だと告げた。
───あれは…………ちょっと……恥ずかしいかも………。
思い返すと顔から火が出そうになる。
しかし、それでもあれから何度も手首を確認していた。
涼太の手首にも同じ物があるのだと思うと、それだけで嬉しく思えた。
───来ても良いように……夕飯……少し多めに作っとこうかな…………。
そう思いながら冬音夜はもう一度愛しそうにブレスレットを見つめ、赤く染った頬のまま野菜売り場へと向かった。
「向こうで甘利先生とお会いしたって?」
長倉はソファーへ腰を下ろすなりタバコに火を点けながら口を開いた。
「…昼に電話をもらったよ…。久々にお前と会うことができたって……」
京都で会った、この界隈で相当権力を握る者の名前を出され、涼太は黙ったまま長倉の様子を伺う様に見つめた。
「夕食に誘ったがフラれたと、笑っておられたよ。甘利先生の誘いを断るのは、本当…お前くらいなもんだよ」
長倉はクスッと笑うと自分を見つめる涼太へと視線を合わせた。
「………それと…お前が若い男にご執心だったとも言っていたよ……」
「───……………」
「良いことじゃないか……。お前もまだ若い……いつまでも静流に───」
「そんなことで呼んだんですか?」
顔色ひとつ変えず涼太は長倉の言葉を遮った。
「そうだ。悪いか?」
「長倉さんには関係の無いことです」
「そうでもないさ……。俺は、静流にお前を頼むと言われている。───お前も静流が全てだったように………俺も静流が全てだった………。そんな人の“最後の言葉”を無下には出来ないだろ?」
そう言ってタバコを消し微笑む長倉の瞳を涼太は瞬きすることなく見据えた。
長倉が自分を許さないことなど承知しながら、静流が望んだようにずっと長倉の元で生きてきた。
『死ぬのは許さない』と言った静流の言葉に縛り付けられた自分に、もし死を与えてくれる者がいるとしたら唯一長倉だけだと解っている。
いつ死んでも構わなかった。正確に言えば一刻も早く静流の元へ行きたかった。
そう………『行きたかった』
───今は…………?…………
涼太は重い空気を壊すように立ち上がると
「静流さんは───今でも俺の全てですよ」
それだけ言葉にしてドアへ向かった。
「それ………良いじゃないか……。京都で買ったのか?」
振り返らなくても長倉が左手のブレスレットの事を言っているのだと分かった。
「………長倉さんには関係ありません」
感情の無い声で言い捨てると涼太は長倉を残し部屋を後にした。
「……そうでもないさ………」
一人ソファーに背中を沈めると、長倉は新しいタバコへと火を点けた。
診察も終わり、ここへ呼ばれてからから30分程経っている。
先日の学会での報告なら電話で済ませてあり、呼び出される憶えなど無い。
特に予定がある訳では無かったが、冬音夜の元を訪れてもいい……そんな事を考えている最中だっただけに余計涼太をイラつかせた。
再びため息を吐きながら左手の腕時計を見ると、冬音夜と買ったブレスレットが目に入りそれを右手で何となく弄った。
───もういい加減いいだろ………。
30分以上待ったのだから、帰ったところで文句も言われまいと、涼太はソファーから立ち上がりドアへ向かった。
するとタイミングが良いのか悪いのかやっと長倉が姿を現した。
「悪い、悪い……看護部長に捕まっちゃってさ……」
苦笑いしながら入ってきた長倉はドアの真前に立ってる涼太とぶつかりそうになり
「……お前…帰ろうとしてたろ……」
「……当たり前じゃないですか。もう30分以上こんなところで意味の無い時間を過ごしたんですから」
「………俺……一応、お前の雇い主な……?」
「今の俺は時間外で職務中じゃ有りませんよ」
不機嫌さを隠そうともしない涼太と、どうにも不毛な会話を交わすと
「悪かったよ………取り敢えず座ってくれ……」
諦めた様にため息を吐き、涼太の肩を叩いた。
駐輪場に自転車を停めると冬音夜はスーパーの自動ドアへと入っていった。
───今日……涼太さん来るのかな……?
カゴを手にすると、京都で買ってもらったブレスレットが視界に入り頬が熱くなるのが分かった。
人前で涼太に抱きつき、抱かれながら何度も『自分は涼太だけのモノ』だと告げた。
───あれは…………ちょっと……恥ずかしいかも………。
思い返すと顔から火が出そうになる。
しかし、それでもあれから何度も手首を確認していた。
涼太の手首にも同じ物があるのだと思うと、それだけで嬉しく思えた。
───来ても良いように……夕飯……少し多めに作っとこうかな…………。
そう思いながら冬音夜はもう一度愛しそうにブレスレットを見つめ、赤く染った頬のまま野菜売り場へと向かった。
「向こうで甘利先生とお会いしたって?」
長倉はソファーへ腰を下ろすなりタバコに火を点けながら口を開いた。
「…昼に電話をもらったよ…。久々にお前と会うことができたって……」
京都で会った、この界隈で相当権力を握る者の名前を出され、涼太は黙ったまま長倉の様子を伺う様に見つめた。
「夕食に誘ったがフラれたと、笑っておられたよ。甘利先生の誘いを断るのは、本当…お前くらいなもんだよ」
長倉はクスッと笑うと自分を見つめる涼太へと視線を合わせた。
「………それと…お前が若い男にご執心だったとも言っていたよ……」
「───……………」
「良いことじゃないか……。お前もまだ若い……いつまでも静流に───」
「そんなことで呼んだんですか?」
顔色ひとつ変えず涼太は長倉の言葉を遮った。
「そうだ。悪いか?」
「長倉さんには関係の無いことです」
「そうでもないさ……。俺は、静流にお前を頼むと言われている。───お前も静流が全てだったように………俺も静流が全てだった………。そんな人の“最後の言葉”を無下には出来ないだろ?」
そう言ってタバコを消し微笑む長倉の瞳を涼太は瞬きすることなく見据えた。
長倉が自分を許さないことなど承知しながら、静流が望んだようにずっと長倉の元で生きてきた。
『死ぬのは許さない』と言った静流の言葉に縛り付けられた自分に、もし死を与えてくれる者がいるとしたら唯一長倉だけだと解っている。
いつ死んでも構わなかった。正確に言えば一刻も早く静流の元へ行きたかった。
そう………『行きたかった』
───今は…………?…………
涼太は重い空気を壊すように立ち上がると
「静流さんは───今でも俺の全てですよ」
それだけ言葉にしてドアへ向かった。
「それ………良いじゃないか……。京都で買ったのか?」
振り返らなくても長倉が左手のブレスレットの事を言っているのだと分かった。
「………長倉さんには関係ありません」
感情の無い声で言い捨てると涼太は長倉を残し部屋を後にした。
「……そうでもないさ………」
一人ソファーに背中を沈めると、長倉は新しいタバコへと火を点けた。
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