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出発
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はやく、無人島を出よう。と言ってたものの、長旅への備えをしているうちに、無人島上陸から3日が経とうとしている。
「そろそろ、交代だ」
テントを覗きこんで蒼士が、翠と琥珀を起こす。
「うぅん、もう?」
琥珀は上半身を起こしてノソノソと、テントから出てくる。
「ほら、起きろよ翠。」
琥珀は、翠の手を引いて、ちょっと強引に翠を外に連れ出す。
「きっと、今出てていっても、僕は寝てしまう」
「それは俺もだ。」
紅葉はちょっと後ろめたさを感じつつ、横になる。驚くほどに、あっさりと眠れてしまう。
反対に、翠と琥珀は徐々に頭が冴えてくる。
「琥珀、トイレに行ってきてもいい?」
「どーぞ」
翠は懐中電灯を手に、トイレに向かう。トイレといっても囲いがついているだけの砂浜の一角で、囲いの中には深い穴があるだけ。毎日、囲いの場所を少しずつ変えて穴はちゃんと埋める。手は、海水で洗う。
「おかえり」
「ただいま、特になにも現れなかった?」
「何か現れたら大急ぎで、呼びに行く」
「確かに、それもそうか。」
二人は、海を見つめながら、三角座りをする。
「あ、そうだ!」
「どうした?」
「椅子を作ろうと思って。」
「椅子?」
「大きめのスコップ、確か、琥珀が持ってたよね」
琥珀は、静かにテントに入って、スコップを取り出す。翠にそれを渡すと、翠は足元を堀始めた。走り幅跳びの土を掘り返すような要領で。
「こんな感じでどうだろう?」
翠は、足元に深さ70センチ、たて30センチ、横50センチくらいの穴を二つ掘る。
「なるほど、椅子というよりも掘炬燵みたいな感じだな」
「確かに、そっちの方がしっくりくる」
二人は、その穴に足を入れる。中は、ヒンヤリとしていて気持ちいい。
「あのさ、翠はなんでこんなに色々なことを思い付くの?」
「僕の家、ド貧乏だから、多分それでね。ちょっとでも快適に暮らすための工夫が染み付いちゃったんだよ。家にいると暑いから、ずっと湖のほとりに妹と居たこともあったし、その時、これをやったんだ」
「そうなんだ。大変だろうな」
「まぁ、高校生らしい生活をしているとは言えないね。妹と二人で暮らしてて、僕はずっとバイトをしてる。」
なんと言葉を返すべきか、琥珀には分からなかった。高校生なのに妹と二人暮らしで、働きづめ。想像することすら、容易ではない。
「なんか、変な事聞いちゃってごめんな」
「いいんだ、いつか、琥珀には言うつもりだったし、隠してたわけでもないし。まぁ、貧乏っていうのは、唯一の悩みみたいなものかな」
「今、妹は?」
「施設にいるよ。そこで、寝てるんじゃないかな」
翠はうっすらと笑みを浮かべる。
「誰にでも、悩みはあるんだな」
琥珀は大きな溜め息をつく。
「琥珀にもあるのかい?」
「そんな、俺は記録が伸びないくらいだ。たいした悩みでもねーよ」
どうせ、大会にも出させてもらえないし。
「そうかな、僕なら、すごくもどかしくて大きな悩みになりそうだよ。」
寄り添うような声に、視線を海から翠に移す。彼なら、もしかすると。
「ね、あの」
「うん?」
打ち明けてしまおうか、一瞬の迷いが生じる。
「そろそろ、時間だ」
結局、ダメだ。
「そうだね。ようやく、眠れる。」
翠は、紅葉と蒼士を起こすと、さっさと眠りについてしまった。
翌朝、朝一番に水をつくって、全員が一口ずつ飲む。干物になった、魚を食べる。蒼士が干物というアイデアを出した。
「いよいよだな」
「うん。今日から海上で過ごすことになるんだね。」
紅葉は、テントを琥珀と畳ながら楽しそうに笑う。
「僕は、少し、不安だけど。太平洋の真ん中って正式に、南極点みたいにある訳じゃないし、それに、僕の予測なんてあてにならないかも。」
四人の名前にはそれぞれ、赤、青、翠、黄を指す音や漢字があるという安直な理由で、いろ丸と名付けられた船の最終点検をしつつ翠は深呼吸をして肩を落とす。それを、見かねた蒼士。
「この中で、意見出しあって一番よかったんだ。自信を持って翠。」
翠は、図書室に置いてあった地球儀に半紙を当てて、正確に太平洋を描いた。太平洋は湖のようになっているわけではなく、他の海洋と繋がっている。そんな、太平洋の範囲をご存じだろうか?答えは、北極のベーリング海から南緯60度。これは、南極の北端。特に知っている必要は一般人にはないのだが、彼らには大いに関係ある。半紙に丁寧すぎるまでにかかれた、太平洋。翠は、その中に、小さな正方形をくまなく書き込み、それを均一な数に四つに分ける線を二本書き入れる。そして、その二つの線の交点が太平洋の真ん中とした。
「でも、曲面を平面に無理やりしてるんだ。だから、歪みが生じている可能性が高いよ」
「でも、他の三人と比べてダントツで、信憑性が高いんだ。紅葉のとか見ただろ?範囲が、オーストラリアくらい大きいし。琥珀は、東西を半分に割ってるだけだし。俺は、普通の世界地図で考えてた。」
蒼士に言われて、恥ずかしくなった琥珀と紅葉。
「ネットで検索してみても正確なのは出てこなかったし、いいと思うな、私も」
「俺も」
紅葉と琥珀は翠の決めた中心に一切、不満はない。というよりも、尊敬。みんなに背中を押されるような感じがして、翠は少し自分の意見に自信を持てた。
「じゃぁ、そろそろ、行こう!」
小型の船には、それに似つかわしい小さなキッチン、細身の二段ベッドが屋根のあるところ。キッチンとベッドが一つの部屋みたいな感じで、独立していてドアもある。部屋にはきっと分類できないだろうが、舵をとる所は、屋根のみある。漁船のモニターとか舵とかがある場所と思っていただければ結構。紅葉たちは、操舵室と呼ぶことに決めた。何でも、船で舵をとるところはそういう言い方もするらしい。
政府のプロジェクトということで、選考会通過が決定してすぐに、船の操縦を仕込まれた。簡単ではないし、ルールも色々あったし、ややこしかったが、どうにかして特別認定資格を得たことで最低限の操縦は、四人全員が可能だ。言うなれば、新幹線は運転できないけど、電車は運転できるような感じだ。
「おーい、紅葉、乗るぞ」
「うん!」
大きな大きな鞄をドサッと船に乗せてから、我が身も乗る。
「えっと、入力済みだよな目的地は」
操舵室の中に入り、モニターを確認する蒼士。
「うん、僕がさっき入れておいたよ」
「蒼士、無人島に忘れ物はない?」
「多分な、救命ボートとかライフジャケットはあるか?紅葉」
「大丈夫、確認済み。そっちにライフジャケット持ってくね」
「サンキュー」
一人一人に腰巻きタイプのライフジャケットを手渡す。
「一応つけておかないとダメなんだったなコレ」
琥珀は特に嫌がる素振りもなく、腰に巻く。他の人も同じだ。
「ロープを外してほしい」
操舵室から紅葉の声が聞こえる。
「いよいよなんだね」
「もう、船上にいるのに翠はそんなこと言ってんのかよ」
琥珀と翠がロープを外す。すべてのロープが外れたことを確認すると、紅葉は、舵を桟橋と反対側にきる。そして、エンジンを前進にいれる。
「くれぐれも、そのまま進まないでくれよ、キックが起きるから」
「分かってる。気が散るから、蒼士は黙ってて」
キックというのは、船尾が反対側に振られることで、今、それが起きれば桟橋に衝突だ。
「蒼士、どう?」
「ゆっくり、舵を桟橋側にきれ!」
紅葉の背中側から蒼士の声が聞こえる。
「アイアイサー」
紅葉はゆっくりと桟橋側に舵を切る。そして、だんだん中央に戻す。
ホットした気持ちでいっぱいだ。まだ、スタートラインだけど、達成感。とりあえず、これで、四人は大海原へ乗り出した。
「そろそろ、交代だ」
テントを覗きこんで蒼士が、翠と琥珀を起こす。
「うぅん、もう?」
琥珀は上半身を起こしてノソノソと、テントから出てくる。
「ほら、起きろよ翠。」
琥珀は、翠の手を引いて、ちょっと強引に翠を外に連れ出す。
「きっと、今出てていっても、僕は寝てしまう」
「それは俺もだ。」
紅葉はちょっと後ろめたさを感じつつ、横になる。驚くほどに、あっさりと眠れてしまう。
反対に、翠と琥珀は徐々に頭が冴えてくる。
「琥珀、トイレに行ってきてもいい?」
「どーぞ」
翠は懐中電灯を手に、トイレに向かう。トイレといっても囲いがついているだけの砂浜の一角で、囲いの中には深い穴があるだけ。毎日、囲いの場所を少しずつ変えて穴はちゃんと埋める。手は、海水で洗う。
「おかえり」
「ただいま、特になにも現れなかった?」
「何か現れたら大急ぎで、呼びに行く」
「確かに、それもそうか。」
二人は、海を見つめながら、三角座りをする。
「あ、そうだ!」
「どうした?」
「椅子を作ろうと思って。」
「椅子?」
「大きめのスコップ、確か、琥珀が持ってたよね」
琥珀は、静かにテントに入って、スコップを取り出す。翠にそれを渡すと、翠は足元を堀始めた。走り幅跳びの土を掘り返すような要領で。
「こんな感じでどうだろう?」
翠は、足元に深さ70センチ、たて30センチ、横50センチくらいの穴を二つ掘る。
「なるほど、椅子というよりも掘炬燵みたいな感じだな」
「確かに、そっちの方がしっくりくる」
二人は、その穴に足を入れる。中は、ヒンヤリとしていて気持ちいい。
「あのさ、翠はなんでこんなに色々なことを思い付くの?」
「僕の家、ド貧乏だから、多分それでね。ちょっとでも快適に暮らすための工夫が染み付いちゃったんだよ。家にいると暑いから、ずっと湖のほとりに妹と居たこともあったし、その時、これをやったんだ」
「そうなんだ。大変だろうな」
「まぁ、高校生らしい生活をしているとは言えないね。妹と二人で暮らしてて、僕はずっとバイトをしてる。」
なんと言葉を返すべきか、琥珀には分からなかった。高校生なのに妹と二人暮らしで、働きづめ。想像することすら、容易ではない。
「なんか、変な事聞いちゃってごめんな」
「いいんだ、いつか、琥珀には言うつもりだったし、隠してたわけでもないし。まぁ、貧乏っていうのは、唯一の悩みみたいなものかな」
「今、妹は?」
「施設にいるよ。そこで、寝てるんじゃないかな」
翠はうっすらと笑みを浮かべる。
「誰にでも、悩みはあるんだな」
琥珀は大きな溜め息をつく。
「琥珀にもあるのかい?」
「そんな、俺は記録が伸びないくらいだ。たいした悩みでもねーよ」
どうせ、大会にも出させてもらえないし。
「そうかな、僕なら、すごくもどかしくて大きな悩みになりそうだよ。」
寄り添うような声に、視線を海から翠に移す。彼なら、もしかすると。
「ね、あの」
「うん?」
打ち明けてしまおうか、一瞬の迷いが生じる。
「そろそろ、時間だ」
結局、ダメだ。
「そうだね。ようやく、眠れる。」
翠は、紅葉と蒼士を起こすと、さっさと眠りについてしまった。
翌朝、朝一番に水をつくって、全員が一口ずつ飲む。干物になった、魚を食べる。蒼士が干物というアイデアを出した。
「いよいよだな」
「うん。今日から海上で過ごすことになるんだね。」
紅葉は、テントを琥珀と畳ながら楽しそうに笑う。
「僕は、少し、不安だけど。太平洋の真ん中って正式に、南極点みたいにある訳じゃないし、それに、僕の予測なんてあてにならないかも。」
四人の名前にはそれぞれ、赤、青、翠、黄を指す音や漢字があるという安直な理由で、いろ丸と名付けられた船の最終点検をしつつ翠は深呼吸をして肩を落とす。それを、見かねた蒼士。
「この中で、意見出しあって一番よかったんだ。自信を持って翠。」
翠は、図書室に置いてあった地球儀に半紙を当てて、正確に太平洋を描いた。太平洋は湖のようになっているわけではなく、他の海洋と繋がっている。そんな、太平洋の範囲をご存じだろうか?答えは、北極のベーリング海から南緯60度。これは、南極の北端。特に知っている必要は一般人にはないのだが、彼らには大いに関係ある。半紙に丁寧すぎるまでにかかれた、太平洋。翠は、その中に、小さな正方形をくまなく書き込み、それを均一な数に四つに分ける線を二本書き入れる。そして、その二つの線の交点が太平洋の真ん中とした。
「でも、曲面を平面に無理やりしてるんだ。だから、歪みが生じている可能性が高いよ」
「でも、他の三人と比べてダントツで、信憑性が高いんだ。紅葉のとか見ただろ?範囲が、オーストラリアくらい大きいし。琥珀は、東西を半分に割ってるだけだし。俺は、普通の世界地図で考えてた。」
蒼士に言われて、恥ずかしくなった琥珀と紅葉。
「ネットで検索してみても正確なのは出てこなかったし、いいと思うな、私も」
「俺も」
紅葉と琥珀は翠の決めた中心に一切、不満はない。というよりも、尊敬。みんなに背中を押されるような感じがして、翠は少し自分の意見に自信を持てた。
「じゃぁ、そろそろ、行こう!」
小型の船には、それに似つかわしい小さなキッチン、細身の二段ベッドが屋根のあるところ。キッチンとベッドが一つの部屋みたいな感じで、独立していてドアもある。部屋にはきっと分類できないだろうが、舵をとる所は、屋根のみある。漁船のモニターとか舵とかがある場所と思っていただければ結構。紅葉たちは、操舵室と呼ぶことに決めた。何でも、船で舵をとるところはそういう言い方もするらしい。
政府のプロジェクトということで、選考会通過が決定してすぐに、船の操縦を仕込まれた。簡単ではないし、ルールも色々あったし、ややこしかったが、どうにかして特別認定資格を得たことで最低限の操縦は、四人全員が可能だ。言うなれば、新幹線は運転できないけど、電車は運転できるような感じだ。
「おーい、紅葉、乗るぞ」
「うん!」
大きな大きな鞄をドサッと船に乗せてから、我が身も乗る。
「えっと、入力済みだよな目的地は」
操舵室の中に入り、モニターを確認する蒼士。
「うん、僕がさっき入れておいたよ」
「蒼士、無人島に忘れ物はない?」
「多分な、救命ボートとかライフジャケットはあるか?紅葉」
「大丈夫、確認済み。そっちにライフジャケット持ってくね」
「サンキュー」
一人一人に腰巻きタイプのライフジャケットを手渡す。
「一応つけておかないとダメなんだったなコレ」
琥珀は特に嫌がる素振りもなく、腰に巻く。他の人も同じだ。
「ロープを外してほしい」
操舵室から紅葉の声が聞こえる。
「いよいよなんだね」
「もう、船上にいるのに翠はそんなこと言ってんのかよ」
琥珀と翠がロープを外す。すべてのロープが外れたことを確認すると、紅葉は、舵を桟橋と反対側にきる。そして、エンジンを前進にいれる。
「くれぐれも、そのまま進まないでくれよ、キックが起きるから」
「分かってる。気が散るから、蒼士は黙ってて」
キックというのは、船尾が反対側に振られることで、今、それが起きれば桟橋に衝突だ。
「蒼士、どう?」
「ゆっくり、舵を桟橋側にきれ!」
紅葉の背中側から蒼士の声が聞こえる。
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