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サプライズ
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「もう、大丈夫だよ。ただし、無理をしてはいけないよ」
ふくよかな体型によく似合うメガネをかけたおじさん。白衣は、長年使い込んだ物なのだろう。医者は、ベッドで安静を一晩貫いた翠の顔を覗き込んで笑いジワを増やす。
「ありがとうございます」
翠は、スクッと立ち上がる。医者は、その姿を目に焼き付けて、船を出る。そして、隣にピッタリとつけられた政府の船に戻る。当然、二つの船に簡易的な橋が渡されている。
「ありがとうございました」
操舵室から蒼士が医者を見送る。
「君たちも、体調が優れなかったり、怪我をしたら直ぐに言うんだよ。まぁ、私がもう呼ばれないことを願うけどね」
それは、4人が願うことでもあった。
「蒼士、なんか手伝ってほしいこととかってある?」
紅葉は、甲板に出て、操舵室の蒼士を見る。今日も、昨日に劣らない日差しだ。紅葉は毎年、夏が訪れると、秋がくることを信じられなくなる。
「いーや、特にないな。別に、紅葉の手なんか借りなくても、俺一人でできるからな」
蒼士はどや顔を決める。
「最後の一言がムカつく」
「だって、本当のことなんだもーん」
紅葉は、蒼士から視線を外し、琥珀に目を向ける。
「わかった、わかった。琥珀、なんか手伝うことない?」
「料理、手伝って欲しい」
「りょーかい」
琥珀は、甲板にテーブルとイスを出す。部屋の中には、何やら色々な調味料がところ狭しと並んでいる。紅葉は、水で手を洗うため部屋に入る。
「なんだか、すごい料理がここに並ぶ予感がするのは僕だけかな?」
琥珀が机に白のナフキンを敷くときは、気持ち豪華目な料理が並ぶ。
「翠は、蒼士と適当になんかしてて」
琥珀は、興味津々の翠の背中を押して、翠をどかせる。翠は、されるがままだか、机を見たままだ。
「蒼士、翠に手伝わせることない?」
琥珀は、蒼士に呼び掛ける。
「翠、悪いが干物の場所をもうちょっと日の当たるところに変えてくれ」
「うん、分かったよ」
その一部始終を見ていた紅葉はやれやれと呆れ顔。何故、紅葉には頼まないのか。理由は、極めて簡単、蒼士は紅葉の前では強がりだからだ。
「琥珀、今日はやけに豪華な料理を作るみたいだけどどうして?蒼士の誕生日だし?」
今日は、蒼士の誕生日だ。なんだかんだ、毎年プレゼントを渡している。
「蒼士と翠の誕生日なんだよ今日は。」
翠の誕生日も今日らしい。これは、初耳だ。
「え、そうだったんだ」
紅葉は頭をフル回転させて、4人グループに同じ誕生日の人がいる確率を求めた。非常にどうでもいいが、計算してしまう。
「約1.636%の確率だぁ、4人の中で誕生日が同じ人がいる確率は。」
琥珀はいきなり誕生日が同じ人がいる確率を言われてびっくりする。
「よく分かんないけど、思ってるより高い?もっと、奇跡的な割合かと思ってた」
「パラドックス、合ってそうで合ってないっていう意味なんだけど。同じ誕生日が二組と言うとなんか自分と同じ誕生日がいるみたいに思っちゃうよね。でも、その二人に自分が入るとは限らないから案外これくらいの数字かな。23人居たら、50%くらい同じ誕生日のペアがいるし。」
「へぇー。確かに、クラスに一組くらい居るかも」
割と、現実的な数字になって出てきた。琥珀も具体的な想像が出来たのか納得顔だ。
「何作るの?」
紅葉はざっとテーブルを見る。大体の料理は材料や、調味料を見れば想像できそうだが、今日は、並んでいる物を見ても何を作るのか分からない。
「フフン、まぁ完成したら分かるよ。これでも、だいどう の跡取り息子として育ってきてるんだもん、料理はココで完成してる」
琥珀は、自分の頭を左手についている指でツンツンと触る。琥珀がやると、その姿が様になる。
「おぉ、じゃ、私は何したらいい?」
「とりあえず、ご飯を炊いて欲しい。いつもの量で良いよ」
小さい炊飯器一台に無洗米を入れ、続いて水を加える。湿気が最大の敵になり得るので、一回ぶんを、ジッパーに入れて保存してある。
その間、琥珀は魚を擂り身にする。擂り身になったら、片栗粉、醤油、味噌、酒、みりん、砂糖を目分量で入れる。そしてそれを、混ぜて、馴染んだら、上半分を切った紙コップ4つに分けて蒸す。
料理中の真剣な眼差しは、他の誰も真似できない。
「紅葉、ジャガイモを水からゆでて欲しい。茹でたら、マッシュポテトにして」
なんとなく、料理の全貌が見えてきた。これは、カップケーキだ。材料が限られた船上で琥珀が考え抜いた立派なケーキ。甘さを押さえた、おかずにもなる物だ。今、蒸されているものは、ケーキのスポンジで、マッシュポテトをクリームに見立てる。普通の人なら、思い付かないであろうメニュー。
「マッシュポテトの味付けはあたしがやる。紅葉は、パスタを作って。もう、ソースは冷蔵庫にあるから」
ジャガイモを潰したところで、鍋は琥珀の手にわたる。紅葉が冷蔵庫を開けるとそこには、タッパーに入ったコーンをベースにしたソースがあった。
「これ?」
「そうそう、茹でたパスタに絡めるだけでいいから。あ、ちょっと湯煎で温めて」
「オッケー」
紅葉はソースを絡め完成したパスタに葱を添える。葱は水だけで育つことが分かった。
「美味しそう」
「並べてくる」
「よろしく。こっちもあとは盛り付けだけだから」
琥珀は、マッシュポテトを小さな袋に移して、端っこをハサミでチョキンと切り落とす。そして、蒸した魚の上にソフトクリームの上の部分みたいな形になるように慎重に乗せていく。最後に、昨晩作ったほんのりと塩味があるクラッカーをトッピング。おしゃれ且つ美味しそうなケーキの完成だ。
「蒼士、昼ごはん出来たよ!」
「りょーかい」
操舵室にいる蒼士がやけに嬉しそうに返事をする。蒼士はハシゴを軽やかに降りて、甲板に並んだ料理を見て舌で上唇を舐める。擬態語で表すなら、ペロッという感じだ。
「いっただっきまーす」
フォークを手に取り、パスタをくるくると巻き付ける。
「これ、普段食べない味だけど美味しいよ!琥珀が作ったのかい?」
翠は、琥珀をチラッと見てニコッとする。
「うん、紅葉が茹でてソースはあたしが作った。一晩寝かせたからかな味が馴染んでる」
本人も満足している様子。
「なんか、琥珀の凄さ痛感するな」
蒼士はフォークにクルクル巻き付けて、パクパク食べる。
「分かる、この限られた材料で作れてしまうのが凄いし、美味しいし」
琥珀は、得意なご飯を褒めてもらって笑顔が溢れる。きっと、このプロジェクトに参加しなければこんな風に人前で笑うことはもっと後になっていただろう。
「そろそろ食べ終わったみたいだし、あれ出しても良い?」
「あ、琥珀、手伝うよ」
あれ とは、カップケーキである。琥珀が考え抜いて作ったケーキ。
蒼士と翠はキョトンとする。
「さ、ケーキだよ!ま、ケーキって言うにはおこがましいけど」
「ケーキ!?」
いち早く反応したのは他でもない翠だ。
「僕、いつぶりだろうケーキを食べるのなんて」
そうだ、翠は超がつくほどの貧乏。ケーキを食べるのなんて夢のまた夢みたいなものだった。
「早く食べたい!」
「待って、待って」
4人が席についたことを確認して、近くに置いたスピーカーをオンにする。そうすると、何度も聞いたことがある「はっぴばーすでーとぅーゆー」をやたらと繰り返す音楽が流れ出す。それに合わせて手拍子しながら口ずさむ。
「蒼士と翠 はっぴばーすでーとぅーゆー!」
拍手。自然と、蒼士と翠は目をあわせる。
「ありがとー!今日が俺の誕生日でマジでよかった!」
「二人とも、ありがとう。それと、蒼士もおめでとう。」
船上でワーッと盛り上がる。
「このケーキ甘くないから」
一言、琥珀が忠告。甘いと思っていて、おかずだと分かれば残念だと思ったのだろう。
「美味しいよ、琥珀。おかずケーキって僕、はじめて食べたよ。」
「俺も初めてだ。これ、見た目も凝ってんなぁ」
「だいどう自慢のおかずケーキだよ。っていうのは嘘なんだけど。一から全部あたしが考えたんだぁ」
「実際に売っても、とても売れるくらい美味しいし珍しいよ」
「ハハ、翠は面白いことを言うな」
いや、それは紅葉も蒼士も思ったよ。笑い声が船全体を包む。
サプライズは文字通り 大成功 だったわけだ。
「お昼、マジで嬉しかったなぁ」
夜風が気持ちいい。生ぬるい風だが、真っ昼間の暑さに比べれば可愛いものだ。
「蒼士に先越された感じ」
舵を握りながら、紅葉は頬を膨らませる。
「紅葉の誕生日には俺も何かサプライズ考えよっかな。例えば、ビックリ箱を渡すとか」
「それ、私がいるところで言う?」
「あ、そっか」
なんか、蒼士がボケッとしている。夜ご飯を食べて、蒼士がパソコンを使ってからだ。
ビデオ通話をしていた相手は結羽。最初は、親友である紅葉が喋っていた。女子高生らしい会話。俗に言う「恋バナ」をしていた。前々から、結羽が蒼士のことを気にしているのは知っていた。紅葉にはアイツのどこが良いのかいまいちピンと来ない。そこに、操縦を交代した蒼士がやって来たという感じだ。さりげなく、紅葉は、席を外した。その間に何があったのかは分からない。これは、聞き出すまで。そんな気持ちが先行して、紅葉は口を開く。
「蒼士、さっき結羽と、何喋ったの?」
「それは、紅葉には言えないこと」
蒼士の顔が微かに赤らむ。
「まさか、告白されたの?蒼士の人生初の」
「最後の一言は余計だし、何で鈴木から俺が告られんだよ」
その、素っ気ない返事に紅葉の心臓はドキッと、音を立てるが誰にも気付かれない。この男が、鈍感で良かった。次に何か話そうとするとボロがボロボロ出そうなので話さない。
「鈴木、インターハイ出るんだってな。俺、知らなかったわ。そこで、1次予選通過したら、また電話かけるって。何でか、知らんが俺に聞きたい事があるんだとさ。全く、そんなのさっき言えば良かったのに。」
な、紅葉もそう思うよな。と、言わんばかりの言い方。
「蒼士、結羽がインターハイ出るの知らなかったんだ。ま、なんかタイミングが悪かったんじゃない?ほら、日本だと夕食時だし」
何とか、誤魔化せただろうか。
何を喋ったのか想像がついた。結羽がインターハイの切符を掴んだ時のタイムが蒼士の自己ベストに勝ったのだろう。
こいつが隠したがることなんて所詮はこの程度。女子に負けた事がショックなのだ。
「帰ったら、鈴木になんか買ってやらないとな。きっと、勝つだろ。鈴木はスゲー努力家だからな。それこそ、なんかサプライズっぽく喜ばれるような」
手で丸く何かを空中に描くが、本人も紅葉もわからない。でも、その姿にクスッと笑ってしまう。
「結羽は、そういうの喜びそう」
「だよな!サプライズ、一緒に考えてくれよ」
「任せて!」
紅葉は蒼士の方を見て、キリッとした顔を作る。
「どーした?ひょっとこ見たいな顔して」
慣れないことはするもんじゃない。そう、痛感する紅葉であった。
ふくよかな体型によく似合うメガネをかけたおじさん。白衣は、長年使い込んだ物なのだろう。医者は、ベッドで安静を一晩貫いた翠の顔を覗き込んで笑いジワを増やす。
「ありがとうございます」
翠は、スクッと立ち上がる。医者は、その姿を目に焼き付けて、船を出る。そして、隣にピッタリとつけられた政府の船に戻る。当然、二つの船に簡易的な橋が渡されている。
「ありがとうございました」
操舵室から蒼士が医者を見送る。
「君たちも、体調が優れなかったり、怪我をしたら直ぐに言うんだよ。まぁ、私がもう呼ばれないことを願うけどね」
それは、4人が願うことでもあった。
「蒼士、なんか手伝ってほしいこととかってある?」
紅葉は、甲板に出て、操舵室の蒼士を見る。今日も、昨日に劣らない日差しだ。紅葉は毎年、夏が訪れると、秋がくることを信じられなくなる。
「いーや、特にないな。別に、紅葉の手なんか借りなくても、俺一人でできるからな」
蒼士はどや顔を決める。
「最後の一言がムカつく」
「だって、本当のことなんだもーん」
紅葉は、蒼士から視線を外し、琥珀に目を向ける。
「わかった、わかった。琥珀、なんか手伝うことない?」
「料理、手伝って欲しい」
「りょーかい」
琥珀は、甲板にテーブルとイスを出す。部屋の中には、何やら色々な調味料がところ狭しと並んでいる。紅葉は、水で手を洗うため部屋に入る。
「なんだか、すごい料理がここに並ぶ予感がするのは僕だけかな?」
琥珀が机に白のナフキンを敷くときは、気持ち豪華目な料理が並ぶ。
「翠は、蒼士と適当になんかしてて」
琥珀は、興味津々の翠の背中を押して、翠をどかせる。翠は、されるがままだか、机を見たままだ。
「蒼士、翠に手伝わせることない?」
琥珀は、蒼士に呼び掛ける。
「翠、悪いが干物の場所をもうちょっと日の当たるところに変えてくれ」
「うん、分かったよ」
その一部始終を見ていた紅葉はやれやれと呆れ顔。何故、紅葉には頼まないのか。理由は、極めて簡単、蒼士は紅葉の前では強がりだからだ。
「琥珀、今日はやけに豪華な料理を作るみたいだけどどうして?蒼士の誕生日だし?」
今日は、蒼士の誕生日だ。なんだかんだ、毎年プレゼントを渡している。
「蒼士と翠の誕生日なんだよ今日は。」
翠の誕生日も今日らしい。これは、初耳だ。
「え、そうだったんだ」
紅葉は頭をフル回転させて、4人グループに同じ誕生日の人がいる確率を求めた。非常にどうでもいいが、計算してしまう。
「約1.636%の確率だぁ、4人の中で誕生日が同じ人がいる確率は。」
琥珀はいきなり誕生日が同じ人がいる確率を言われてびっくりする。
「よく分かんないけど、思ってるより高い?もっと、奇跡的な割合かと思ってた」
「パラドックス、合ってそうで合ってないっていう意味なんだけど。同じ誕生日が二組と言うとなんか自分と同じ誕生日がいるみたいに思っちゃうよね。でも、その二人に自分が入るとは限らないから案外これくらいの数字かな。23人居たら、50%くらい同じ誕生日のペアがいるし。」
「へぇー。確かに、クラスに一組くらい居るかも」
割と、現実的な数字になって出てきた。琥珀も具体的な想像が出来たのか納得顔だ。
「何作るの?」
紅葉はざっとテーブルを見る。大体の料理は材料や、調味料を見れば想像できそうだが、今日は、並んでいる物を見ても何を作るのか分からない。
「フフン、まぁ完成したら分かるよ。これでも、だいどう の跡取り息子として育ってきてるんだもん、料理はココで完成してる」
琥珀は、自分の頭を左手についている指でツンツンと触る。琥珀がやると、その姿が様になる。
「おぉ、じゃ、私は何したらいい?」
「とりあえず、ご飯を炊いて欲しい。いつもの量で良いよ」
小さい炊飯器一台に無洗米を入れ、続いて水を加える。湿気が最大の敵になり得るので、一回ぶんを、ジッパーに入れて保存してある。
その間、琥珀は魚を擂り身にする。擂り身になったら、片栗粉、醤油、味噌、酒、みりん、砂糖を目分量で入れる。そしてそれを、混ぜて、馴染んだら、上半分を切った紙コップ4つに分けて蒸す。
料理中の真剣な眼差しは、他の誰も真似できない。
「紅葉、ジャガイモを水からゆでて欲しい。茹でたら、マッシュポテトにして」
なんとなく、料理の全貌が見えてきた。これは、カップケーキだ。材料が限られた船上で琥珀が考え抜いた立派なケーキ。甘さを押さえた、おかずにもなる物だ。今、蒸されているものは、ケーキのスポンジで、マッシュポテトをクリームに見立てる。普通の人なら、思い付かないであろうメニュー。
「マッシュポテトの味付けはあたしがやる。紅葉は、パスタを作って。もう、ソースは冷蔵庫にあるから」
ジャガイモを潰したところで、鍋は琥珀の手にわたる。紅葉が冷蔵庫を開けるとそこには、タッパーに入ったコーンをベースにしたソースがあった。
「これ?」
「そうそう、茹でたパスタに絡めるだけでいいから。あ、ちょっと湯煎で温めて」
「オッケー」
紅葉はソースを絡め完成したパスタに葱を添える。葱は水だけで育つことが分かった。
「美味しそう」
「並べてくる」
「よろしく。こっちもあとは盛り付けだけだから」
琥珀は、マッシュポテトを小さな袋に移して、端っこをハサミでチョキンと切り落とす。そして、蒸した魚の上にソフトクリームの上の部分みたいな形になるように慎重に乗せていく。最後に、昨晩作ったほんのりと塩味があるクラッカーをトッピング。おしゃれ且つ美味しそうなケーキの完成だ。
「蒼士、昼ごはん出来たよ!」
「りょーかい」
操舵室にいる蒼士がやけに嬉しそうに返事をする。蒼士はハシゴを軽やかに降りて、甲板に並んだ料理を見て舌で上唇を舐める。擬態語で表すなら、ペロッという感じだ。
「いっただっきまーす」
フォークを手に取り、パスタをくるくると巻き付ける。
「これ、普段食べない味だけど美味しいよ!琥珀が作ったのかい?」
翠は、琥珀をチラッと見てニコッとする。
「うん、紅葉が茹でてソースはあたしが作った。一晩寝かせたからかな味が馴染んでる」
本人も満足している様子。
「なんか、琥珀の凄さ痛感するな」
蒼士はフォークにクルクル巻き付けて、パクパク食べる。
「分かる、この限られた材料で作れてしまうのが凄いし、美味しいし」
琥珀は、得意なご飯を褒めてもらって笑顔が溢れる。きっと、このプロジェクトに参加しなければこんな風に人前で笑うことはもっと後になっていただろう。
「そろそろ食べ終わったみたいだし、あれ出しても良い?」
「あ、琥珀、手伝うよ」
あれ とは、カップケーキである。琥珀が考え抜いて作ったケーキ。
蒼士と翠はキョトンとする。
「さ、ケーキだよ!ま、ケーキって言うにはおこがましいけど」
「ケーキ!?」
いち早く反応したのは他でもない翠だ。
「僕、いつぶりだろうケーキを食べるのなんて」
そうだ、翠は超がつくほどの貧乏。ケーキを食べるのなんて夢のまた夢みたいなものだった。
「早く食べたい!」
「待って、待って」
4人が席についたことを確認して、近くに置いたスピーカーをオンにする。そうすると、何度も聞いたことがある「はっぴばーすでーとぅーゆー」をやたらと繰り返す音楽が流れ出す。それに合わせて手拍子しながら口ずさむ。
「蒼士と翠 はっぴばーすでーとぅーゆー!」
拍手。自然と、蒼士と翠は目をあわせる。
「ありがとー!今日が俺の誕生日でマジでよかった!」
「二人とも、ありがとう。それと、蒼士もおめでとう。」
船上でワーッと盛り上がる。
「このケーキ甘くないから」
一言、琥珀が忠告。甘いと思っていて、おかずだと分かれば残念だと思ったのだろう。
「美味しいよ、琥珀。おかずケーキって僕、はじめて食べたよ。」
「俺も初めてだ。これ、見た目も凝ってんなぁ」
「だいどう自慢のおかずケーキだよ。っていうのは嘘なんだけど。一から全部あたしが考えたんだぁ」
「実際に売っても、とても売れるくらい美味しいし珍しいよ」
「ハハ、翠は面白いことを言うな」
いや、それは紅葉も蒼士も思ったよ。笑い声が船全体を包む。
サプライズは文字通り 大成功 だったわけだ。
「お昼、マジで嬉しかったなぁ」
夜風が気持ちいい。生ぬるい風だが、真っ昼間の暑さに比べれば可愛いものだ。
「蒼士に先越された感じ」
舵を握りながら、紅葉は頬を膨らませる。
「紅葉の誕生日には俺も何かサプライズ考えよっかな。例えば、ビックリ箱を渡すとか」
「それ、私がいるところで言う?」
「あ、そっか」
なんか、蒼士がボケッとしている。夜ご飯を食べて、蒼士がパソコンを使ってからだ。
ビデオ通話をしていた相手は結羽。最初は、親友である紅葉が喋っていた。女子高生らしい会話。俗に言う「恋バナ」をしていた。前々から、結羽が蒼士のことを気にしているのは知っていた。紅葉にはアイツのどこが良いのかいまいちピンと来ない。そこに、操縦を交代した蒼士がやって来たという感じだ。さりげなく、紅葉は、席を外した。その間に何があったのかは分からない。これは、聞き出すまで。そんな気持ちが先行して、紅葉は口を開く。
「蒼士、さっき結羽と、何喋ったの?」
「それは、紅葉には言えないこと」
蒼士の顔が微かに赤らむ。
「まさか、告白されたの?蒼士の人生初の」
「最後の一言は余計だし、何で鈴木から俺が告られんだよ」
その、素っ気ない返事に紅葉の心臓はドキッと、音を立てるが誰にも気付かれない。この男が、鈍感で良かった。次に何か話そうとするとボロがボロボロ出そうなので話さない。
「鈴木、インターハイ出るんだってな。俺、知らなかったわ。そこで、1次予選通過したら、また電話かけるって。何でか、知らんが俺に聞きたい事があるんだとさ。全く、そんなのさっき言えば良かったのに。」
な、紅葉もそう思うよな。と、言わんばかりの言い方。
「蒼士、結羽がインターハイ出るの知らなかったんだ。ま、なんかタイミングが悪かったんじゃない?ほら、日本だと夕食時だし」
何とか、誤魔化せただろうか。
何を喋ったのか想像がついた。結羽がインターハイの切符を掴んだ時のタイムが蒼士の自己ベストに勝ったのだろう。
こいつが隠したがることなんて所詮はこの程度。女子に負けた事がショックなのだ。
「帰ったら、鈴木になんか買ってやらないとな。きっと、勝つだろ。鈴木はスゲー努力家だからな。それこそ、なんかサプライズっぽく喜ばれるような」
手で丸く何かを空中に描くが、本人も紅葉もわからない。でも、その姿にクスッと笑ってしまう。
「結羽は、そういうの喜びそう」
「だよな!サプライズ、一緒に考えてくれよ」
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