ソーダ色の夏

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新しい価値

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 琥珀は、誰もが認めるイケメン。(クラスメイトの前では男子なので)それは、今に始まった事ではない。小学校の高学年の頃から目立ったイケメンになってきた。そして、私立中学校に進学。運動神経抜群で、成績は普通だったが、お金持ちで、顔はますます整って、芸能事務所からのスカウトも何度も経験した。だが、琥珀は学年が上がるごとに孤立していった。後ろ指を指されたり、ヒソヒソと噂をされることも日常化した。いじめられていたわけではなく「イケメンすぎる」が故、誰も近寄り難くなっていたのだ。
 中2のバレンタイン、チョコレートやクッキーが下駄箱や机、ロッカーと、ありとあらやる所に入っていた。ただ、今ので分かるだろうが、直接渡しに来た女子はいない。一部の女子には「琥珀様」と言われている。だが、直接話に来るわけではない。
 そんな時だった。「来年の修学旅行の班が、クラスの枠を越えて自由に決められる」と、先生が言ったのは。
「な、班どーする?男女、ミックスらしいけど。もし良かったら、」
体をぐるっと回転させて、話しかける。すると、女子が何人かが集まってきた。
「嬉しいのですが、ごめんなさい。琥珀様と一緒だと緊張してしまうから。私たちなんかよりももっと良い人と回った方がいいと思います」
今振り返ってみれば、あの女子はよく言ったと思う。でも、凄くショックだった。他の人に声をかけても似たような返答だった。結局、3年になって修学旅行の二週間前になっても決まらず、先生が適当な班に入れてくれたのだが、その中でも完全に浮いていた。もっと、フレンドリーな感じが良かった。だが、琥珀がなにか言えば、全部それになる。それって、結局班でいる意味がないとと思った。琥珀が席を外したら、他の5人は色んなアイデアを出し会う。琥珀とそれ以外という感じに分かれていた。親切にしてくれたが、仲良しと胸を張って言えるほどにはならなかった。

 修学旅行の当日、琥珀は休んだ。お腹を壊した。ということにして。行きたかったけど、どうしても学校まで行けなかった。一歩がこんなにも重たいなんて。あの時は、気づかない間に涙がこぼれて、たった一人がこんなにも辛いなんて思ってなかった。

 今でも、夢に出る。高校にあがると、そんなことはなくなった。たまに、「大堂様」という人はいるけど。でも、強烈なトラウマになったことは間違いない。他の誰も経験しないような、育ち方をしているというのも大きいだろうけど。男子としていきることを徹底させられ、笑うなと言われて、本当のことを言えない。兄という越えられない見たこともない人の真似事をして、繰り返し。
 そんな時に、見た手紙の衝撃は大きかった。
「高校生更正プロジェクト」そこからは、トントン拍子で気が付けば船の上。


「琥珀、眠たくないの?」
翠が横に立つ。第四中と左胸に入ったTシャツ。翠は中学校からの服を寝るときは着ている。操縦は、紅葉がしている。
「ちょっと、寝れなくてね」
「そっか。僕もいつもこの時間は眠いんだけど、寝れなくてさ」
二人の会話を聞いて、紅葉は少しばかり目を輝かせる。
「じゃぁ、交代してくれない?私、立ったまんま寝れそうなくらい眠たくて」
あくびをする紅葉。
「それは、危ない。僕が、操縦変わるよ。」
「ありがとう、一旦寝てくるわ」
紅葉は、二段ベッドの下の段に転がり込んで速攻、夢の世界へ行ってしまう。
「琥珀は、中学の時って、どんな生徒だったの?」
自分の心を見透かしたような質問に、琥珀の声は裏返る。
「え?フツーの中学生だったよ。翠は?」
咄嗟に出た言葉だった。
「あんまり、中学に良い思い出はないかな。母が亡くなって、親戚の家をたらい回しにされて、色々な中学にちょっとずつ通ったよ。噂っていうのは怖くて、意地悪もよくされていたしね。」
翠はなんでも、素直に話せる人だ。それは、琥珀のことを信頼しているから。
「そうなんだ」
「たまに、夢に出るよ」
「なんで、翠はそんなに頑張れるの?」
琥珀の疑問は至って純粋なものだった。琥珀は、中学の経験がトラウマで、基本的には何かに積極的になることはない。このプロジェクトの参加だって親と離れて生活したい。という気持ちからだった。でも、翠は違う。
「ハハ、そんな質問をされたことは前にもあってね。友希にされたよ。」
翠は、少し懐かしむみたいに笑ってみせる。
「何て、答えたの?」
「改めて口に出すのは恥ずかしく思うけど、僕は友希が居たからずっと頑張ってきた。まぁ、友希が居るから大変なこともたくさんあったけど。実は、僕さ高校受験失敗してて。勉強する時間が無くて、いつもあちこち駆け回ってお金を集めるのに必死でとにかく大変だった。親戚も当てにならないし、友希はまだまともに会話が成り立たない年齢だし。それで、何とか受かった高校では、例え青春を売ったとしても、友希にそんな経験はさせられないから、僕は少しでも良い大学に行って良い企業に就職してそして、友希にはこの世界の素晴らしさを見せたいそればっかり考えて、ガムシャラに勉強して、バイトして偶然、それが頑張ってるように見えるだけだよ。」
全部、言いたいことを言った翠はどこか清々しい表情。
「この世界の素晴らしさ、、」
翠なんか特に、色んな世の中の課題を知って、体験していそうなのに、それでもこの世界は素晴らしいのか。
「うん。世の中には確かに理不尽で不合理な事がたくさんある。でも、それ以上に優しい人や、助けてくれるものはたくさんある。頼りたいときは頼りにしたら良い。世の中という大きな括りでみると、一人はちっぽけだけど、基本的には、世の中なんてものは、一人対一人のやり取りの積み重ねみたいなものだから、一人の優しさが結果には影響をもたらす。友希には色んな経験を通じてそういうのを感じられる人になってほしいんだ。」
琥珀は、頭の中で翠の言葉を反復する。
「翠ってもしも2500万円が手に入って大学も無事卒業したらさ、何するの?」
翠は、少しばかり言うか言わないかで悩む。
「何ができるかわからないから、、確かなことや確証のあることは言えないけど、子供服ブランドに勤めたいと思ってる」
琥珀は二度ほど瞬きをした後、フッと笑う。
「なんか、以外!翠だったらさ、医者とか、銀行とか保険会社とか、公務員的な事を答えると思った。」
「前はね、琥珀が言った所みたいな所で働くつもりだったんだけど、お金にゆとりができたら自分のやりたいことをしたいと思っていてね。琥珀は?」
「あたしは、あんまり興味はないけど結局、だいどう を継ぐんじゃないかな。ほら、その為の教育も受けてきたし、料理は好きだから。それに、、お父さんは、もう何人かに声をかけているみたいだから。」
親戚の若い男に声をかけて、何をしているのかは知っている。琥珀の結婚相手を探して、婿養子に入ってもらおうという考えだ。室町時代から続くと言われる、だいどう 存続のため、大堂の名字を持つ男児については料理修行的なものを施される。琥珀の代わりなどいくらでもいるというわけだ。
「声をかけてる?」
「あぁ、あれだよ、女が店主になったときにサポートしてくれる人探してるんだって。ま、あたしは経営を学んでもっと良い店にしたいから」
なんで、翠の前でこんなことを言わなくてはならないのだろうか。勝手に話し始めたのは、琥珀である。
「そっか、琥珀ならできるよ!ありきたりかもしれないけどさ、頑張って。僕、大人になったら、きっと だいどう に行って、琥珀が作った料理を食べるよ。」
「腕あげて待ってる。翠も、頑張りなよ」
「報われるまで努力はするさ。」
夏空に浮かぶ、散りばめられた星たちと翠ののんびりとした優しい声は、琥珀の心のわだかまりを溶かしていくようだった。舵をとる翠は、琥珀の前の告白については、「ふざけただけ、酔っ払ったノリで言った、イケメンゲームの一端」という風に解釈し、琥珀が自分の事を好きだなんて一切合切信じてなかったし、気づいてもいない。
「ねぇ、翠って好きな人いるの?家族とかそんなのじゃなくて、恋愛感情を抱く相手」
「いないよ。この間も、おんなじこと聞かれたじゃん。」
「前は、蒼士とか紅葉も居たじゃん。それに、顔が沸騰寸前のヤカンみたいに真っ赤になってたし、気になるじゃん」
ヤカンが沸騰することはないが、どんな事を伝えたいか、翠にも伝わった。
「僕が、そういうことを聞かれたのは初めてでさ、何て言ったら良いのか、わからなくて。何か、面白いことを言うべきか、普通に答えるべきか」
琥珀は、そんな翠の回答を聞いて笑ってしまう。何というか、翠ワールド全開な感じがする。
「琥珀は、どうなんだい?前に、彼女が居ると言っていたけれど、琥珀は女性。価値観を否定するつもりは無いんだ。ただ、前に言ったときあまり相手に好印象を持っているようには思えなかったから」
言葉を選びつつ、記憶を手繰り寄せる。
「彼女がいればさ、女って疑われずに済むから凄く楽なんだよね。相手は、自分が彼氏持ちであるというステータスが欲しかったみたいで、こんな風にいうのは違うかもしれないけど、利害が一致するというか。
 翠だけに言うけどさ、あたし、本当に好きな人が居るんだよね」
「好きだ」たった一言が、翠の脳裏をよぎる。まさかね。と、振り払い琥珀の声に耳を澄ませる。
「どんな人?」
琥珀の頬は、冬の寒い朝の時みたいに薄ピンクに染まる。
「頼りになって、優しくて、周りをよく見てて、彼が笑うと嬉しくて、一緒にいて楽しくて、、」
「凄く、いい人なのかな。琥珀がそこまで想いを寄せるってことは。」
全く自分だと気づいていない翠。まぁ、普通は気が付かない。
「うん、とってもいい人」
静かに返事をした。
「もし、いや、やっぱりやめとこ」
「悩んでることがあったら相談してよ。力になる。」言いかけた言葉が耳の奥で反響する。
「そう言われると気になるなぁ」
「僕はその手の相談にはうまくのれないから」
「心配無用、あたしのことだし。」
「ハハ、そうだよね」

「中学の時とか、もっと前から翠を知ってたらどうなってたんだろう?あたし、昔の自分に言いたいな、素敵な人と出会えるから今が辛くても頑張ってって」
素敵な人=翠 であるが、翠はそんなことに気づく様子ゼロ。
「きっと、もっと前から知っていたら、逆にここで一緒になることはなかったんじゃないかな?前に琥珀が言ってたじゃん、いくつもの選択がこの今の結果になってるって。」
「そうかもね」
「恋愛ネタは僕には無理だけど、他に悩むことあったら教えてよ、僕は真剣に最善の手当てを考える」
話を聞いてあげるから、とか、そんな言葉じゃなくて、行動を考えてくれるという。琥珀にはそっちの方がありがたい。
「そっか、翠もあたしのこともっと頼って良いんだからね。あたしは、翠の味方だから」
翠は、操舵室の窓越しに、琥珀を見て、微笑みをうかべる。
「頼もしいよ。ありがとう」
そっと、割れ物をテーブルに置くときみたいな感じで発声する。琥珀の耳には確かに届いて、琥珀はかくんと頷いた。



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