常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

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第伍章 冥界

冥王よりの提案

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 ルーフェが願いを言おうとした時、ある気がかりが思い浮かんだ。

「一つ、聞きたいことがある」

 彼は一言、冥王に尋ねる。

《何かね?》

「貴方は、なぜ交流を絶ったはずなのに、未だに現世との道は残しているんだ? 俺は冥界の守護を託された、ある少女に出会った。彼女とその一族は、大昔に貴方と交わした契約に、いまだに縛り付けられて苦しんでいる。それなのに……」

 ルーフェが気がかりだったこと、それはトリウスとラキサの事だった。
 二人は自らに課せられていた宿命に、今なお苦しめられていた……。
 だが、冥王は可笑しそうに笑う。

《ふっ、交流を断った、ただそれだけさ。それに――私は人間は好きでね、特に、自分の願いのためにここまで来る信念を持ち、それに足る能力がある人間が……。そう、君たちの為にこそ、私は冥界への門を残した。ここまでに至るまで数々の試練を用意し、それを乗り越えた者の願いを一つ、叶える機会を与えるために。冥界の守護者は、ただその最後の最大の試練、それだけにすぎないのさ》

 その理由を聞き、ルーフェは巨人を睨んだ。

「……つまり、貴方の自己満足なのか。その為だけにラキサも……、志半ばで力尽きた、多くの人間達も…………」

 だが彼の怒りを、冥王は意に介す様子すらなかった。それどころか、冥王はルーフェに優しく諭すかのように語る。

《まぁ、高次の存在である私の考えを、無理に理解してもらう必要はないし、私もそれは否定はしないさ。しかし…………私の『自己満足』とやらのおかげで、君はこうして、願いを叶えることが出来るのだろう?》

「……っ!」

 的を射た答えに、ルーフェは押し黙る。

《ではそろそろ、本題に入ろうか。君の願いは、何かな? 私に今の行いを止めさせたい……、それでも私は構わない》

 彼は僅かに、躊躇した。
 正直に言えば、出来ることなら、それを止めさせたかった。しかし、ルーフェが望むものは、初めから一つだ。
 彼は首を横に振り、自らの望みを伝える。

「俺が望むのは、俺の愛する人…………エディアを生き返らせる事だ」

 願いを聞いた冥王は、それを聞くと大層な身振りで、両手を上へと掲げた。

《よろしい、その願いを聞き届けた。いいだろう》




 ――これで、いいはずだ。何しろ俺はそのために、ここまで来たのだから。……しかし―― 
  
 やはりルーフェは、どこか罪悪感が、胸に残っていた。
 だが――それを悟った冥王は、更にこう続けた。 

《だが、そうだ…………、何しろ、久しぶりの訪問者だ。そこで特別に一つの提案をしよう》



 ――提案だと?―― 

 一体何の事かと、ルーフェは思った。

《先ほどの問いで、君が一瞬躊躇しただろう? すまないが気になり、少し心を読ませてもらった。
 もし望むなら……あの時に諦めた願い、それも叶えてあげよう》

「それは…………冥界への道を、閉ざすという事か?」

 冥王は巨大な頭で頷く。

《その通り。君の世界には、もはや生者を呼ぶことはしない。あの門も、封印しよう。
 しかし、その為には更に試練を一つ、君に乗り越えてもらう。それは君のように、ここまで来る程に信念が強い者にこそ…………辛く厳しい試練さ。もし君が試練に敗れれば、君の願いも、もう一つの望みも……叶うことはない》

 冥王からの、新たな試練。
 もし失敗したなら――自身の願いさえ、失うことになる。
 この提案にルーフェは悩む。
 提案を拒めば、今ならエディアを助けられる。それは彼がずっと望んでいた事だ。

《提案を拒むのもいいだろう、であれば本来の願いはここで叶えよう
。しかし君が、提案を受け入れるのなら…………、どうかな?》

 もし拒めば、確実に自らの願いは叶うだろう。
 ――しかし、それではあの少女は救われない。
 ルーフェとは比べ物にならないほどの長い年月、自身の宿命と良心に苦しみ葛藤し、それでも彼とは違って優しさを捨てなかった……哀れな常世の守り主を。

「分かった、その提案――俺は受けよう」

 そしてルーフェは決心し、冥王に言った。
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