常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

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第伍章 冥界

ついに、再会

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 ―――― 


 ……
 …………
 光を抜けた先は、霊峰ハイテルペストの、あの遺跡だった。
 だが以前のような厚い雲と激しい吹雪はなく、一面全てが晴れ渡り、青空と太陽を覗かせていた。
 そして、目の前には、トリウスとラキサの二人が立っていた。

「トリウスさん、それにラキサも」

 彼はルーフェに微笑みを見せた。

「冥界から戻ったみたいだな。それに、随分と様子が変わったようじゃないか。……ふっ、安心したよ」

「はい、貴方からは多くを学びましたから。ラキサにも、礼を言わないと。君がいたからこそ、僕はここまで来れた」

 ラキサは首を横に振る。

「いいえ、礼を言うのは私の方。ルーフェさんはこんな私を、倒さずに助けてくれたもの。けど、それよりも……」

 そして彼女は、こう続けた。

「ルーフェさん――後ろを振り向いてください」

「……えっ?」

 冥王から言われた通り、あれから一度も、後ろを振り向いていない。
 
 ――そうだった、あの試練はここに戻った地点で、もう終わっている。今ならもう後ろを向いても、大丈夫なはず――

 ルーフェは、ゆっくりと後ろへと振り返る。
 そこには――――。



「……ルーフェ……さま?」

 ルーフェの後ろには、一糸纏わぬ少女が立っていた。
 膝までかかる程に長くふわっとした茶髪は、華奢で整った身体を隠している。そしてくりっとした瞳と、頬に残るそばかすが特徴的の、可憐な女の子である。
 少女はきょとんとした顔で、彼を見つめた。

「エディア――なのか?」

 一方でルーフェも、驚きを隠せずに固まった。
 そして彼は、初めて異性と会うかのようにどぎまぎしながら、身に着けていたマントを外し、エディアに被せる。
 
 ――長く望んでいた彼女が、今目の前にいる。
 なのにいざ望み通りとなると、まさかこんなに緊張するなんて――。

 ルーフェはエディアに、何て言葉をかけようかと悩んだ。
 何年もの歳月を経た二人の再会、言うべき事が多すぎて、彼は悩み言葉に詰まる。
 しばしの沈黙の後、やがて彼はフッと笑みを見せる。

「……ようやく会えたね、エディア。一体、何年ぶりだろう。僕は君に会うために、長い間、頑張って来たんだ。その結果がこの姿、身体は傷だらけで血塗れ、随分と…………変わり果てたな。
 それに比べて君は――とても綺麗だよ。あの頃と、全然変わらないままだ」

 少し恥ずかしそうに、はにかみながら語るルーフェ。
 エディアはそんな彼を、黙って眺めている。

「やっぱり恥ずかしいよね、こんな事言っちゃって。でも本当に僕は君の事が……」

「……大好き」

「えっ?」

 突然の言葉に、ルーフェは戸惑う。
 そしてエディアはゆっくりと、彼に歩み寄る。

「私もルーフェさまが、大好きです。死んだ後の記憶はありませんけれど、あの闇の中で言ってくれた言葉は…………少しだけ、覚えています。嬉しい……とても、嬉しいです」

 二人は、互いに見つめ合う。

「それに、ルーフェさまも昔のままです。貴方の姿は変わっても、心はあの時と同じ、内気で寂しがり屋…………でもとても優しいルーフェさま。
 私はそんなルーフェさまが、大好きです。貴方がくれた新しい人生――――どうか共に歩んで、もらえますか?」

 熱い眼差しをルーフェに向けて、返事を待つエディア。

「……」

 ルーフェは無言で、彼女の細い手を取る。
 そして、彼はかつて渡すはずであった、銀の指輪を取り出して――エディアの指にはめた。

「……君がそう言ってくれる時を、僕はずっと待っていた。もちろん喜んで。今度こそは、君と一緒だ」

 彼が今まで言いたかった、この告白。
 エディアの表情は、それを聞いてぱぁっと輝いた。

「ありがとう、ルーフェさま。どうかこれからは、末長く貴方と共に……」

 そして、死別により引き離され、今奇跡的に再会を果たした二人は共に抱き合い、唇を交わした。

「この感覚、こうしてまた感じられるなんて。君の身体は…………本当に暖かくて、気持ち良い」

 ルーフェはこう呟きながら、知らずのうちに涙を流していた。

「私も――同じ気持ちです」

 二人が見せる至福の瞬間、トリウス、そしてラキサは静かにそれを見守っていた。



《どうやら、無事に再会を果たしたようだね。私からも祝福しよう》

 そんな中だった、ルーフェとエディアの後ろの門から、声が響いて来たのは。
 声はこの場にいた全員に聞こえ、四人は門の方へと目を向けた。

「まさか、再び貴方の声を聞くとは…………冥王様」

 トリウスは、半ば唖然として一人呟いた。
 声の主、冥王は彼の存在に気づき、慈愛に満ちた声で語りかける。

《久しぶりだね、トリウス。その様子を見ると、あれからずっと、この場所で竜の娘と共に、冥界の番人を務めていたのか。人の身で何千年もの間……さぞ辛かっただろうに》

 しかしトリウスは、それを否定した。

「そんな事は、ありません。この役目は、かつて大切な存在を失った私にとって、少しでも傷を埋める代わりとなりましたので」

《ラキサ、君にも辛い思いをさせたらしいね。……すまない事をした。
 そこで私は、ルーフェが見せてくれた信念に免じて、君達に背負わせた宿命、それを終わらせたいと思う》

 ラキサはこれを聞き、驚いたような、そして喜んだような表情を見せた。

「本当、なの? もう私は……誰も、傷つけなくていいの?」

《ああ、契約は破棄され、これまでの一族、そして君に植え付けられた『常世の守り主』と呼ばれる別人格も消滅する。そして守り主が消えれば、この冥界の門も崩壊する。つまり、君は自由になれるのさ。トリウスも、課せられた使命も消え…………解放される。門が崩壊することで、もはや冥界へと向かう者も現れないだろう》

 この言葉にラキサが嬉しさを覚える一方、トリウスは何故か、複雑な表情を浮かべている。

《さて、私は既に用意がある。後は君たちの、返事を聞くだけだ》
 
 最後に冥王から示された、ある提案。
 それを聞き、トリウスそして、ラキサの出した答えとは……。

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