常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

文字の大きさ
26 / 63
第伍章 冥界

本当の、願い

しおりを挟む

 しかし、ルーフェが振り向こうとした、その瞬間――――。
 彼は忘れかけていた、一つの疑問を思い出す。

 ――俺が求めたのは、本当にエディアだけなのか? ――

 かつてトリウスが尋ねた、何故愛する人間を生き返らせるのかと言う、その疑問。
 あの時には分かりも、分かろうともしなかった答え。
 しかし今なら…………答えは分かる。
 考えればとても簡単な答えだった。本当はルーフェも、それを知っていた。ただ――それに気づいていなかっただけで。


 ルーフェは後ろを向くことを止め、一度目を閉じて心を落ち着かせる。
 そして再び開けると、彼は前を向いて歩きながら、後ろにいる存在へと語りかけた。

「なぁ、エディア。返事なんてしなくて良いさ、ただ俺の話を、少しだけ聞いてくれないか?」

 後ろからは、やはり返事はない。
 だがそれでも構わずに、ルーフェは続ける。

「君を失ってからの俺は、以前とはすっかり変わってしまった。何年も、何年も、俺は君を取り戻す為に、過酷な旅を続けた。いつしか心を失い……この手を多くの血で汚すほどに。
 でも君への思い、それだけは変わらなかったつもりだ。」

 そんな過去を思い返しながら、彼は語る。

「けど旅の終わりに、俺はある親子に出会った。彼らとの触れ合いは、俺に多くを与えてくれた。一人の少女からは、失ったと思っていた俺の心、そしてその父親からは、忘れていた大事な願いを。
 ずっと望んでいたのは、君を生き返らせる事――ただそれだけだと思っていた。けれど、例え生き返らせたとしても、命があるものはいつか死ぬ。つまり……いつかまた別れなければいけない。普通に考えれば――――僕のそんな望みなんて、馬鹿馬鹿しいよね」

 思わずルーフェは、つい苦笑いをこぼした。
 そして話してるうちに、彼の口調も柔らかい口調へと変わり、一人称も『俺』から『僕』に変化していた。恐らく、これが旅へと旅立つ前の、ルーフェ本来のものなのだろう。

「……」

 そして彼は、ある事を思い出しながら話を続ける。その思い出とは、最後にラキサと交わした、あの会話の記憶だった。

「でも、僕は二人と共に暮らして、もう一つの、大事な望みに気づいたんだ。
 それはエディアと一緒にいた日々……それをもう一度送ること。以前は立場のせいで不自由だった分、今度こそ自由に君と過ごしたい」

 話しながらルーフェは、無意識にポケットに手を入れて、中に入っている指輪に触れる。

「二人で元の世界に戻ったらさ、何処か、のどかな村で暮らそうよ。そして、以前は出来ないままだった結婚式を挙げよう。あまり立派な式は出来ないかもしれないけど、一緒なら、最高の思い出になると思わないかな? そして、昔の主人や召使なんて忘れて過ごしたい。もう君は僕に、様付けや変な気遣いをする必要なんてないんだ。
 確かエディアは本が好きだったよね? それなら僕が用意するよ。読み方だって、教えられる。それにもっと、もっと、二人で沢山の思い出を作っていこう。いつか訪れる…………最後の別れが来ても、あの前みたいに悔いが残らないように」

 こうしてルーフェは、後ろにいるであろうエディアに、将来の事を語り出す。かつて二人が願い――叶わなかった未来を。
 無論それに対しての返事は、ある訳ではない。しかし彼の表情は、とても希望に溢れていた。
 後ろからのがさついた足音も、あの焼け焦げた匂いは、既に消えている。
 やがて、目の前の階段の先に、光が見えて来た。

「ふふっ、楽しく話していると、あっと言う間だね。ここを抜けると、ようやく君に会えるんだ」

 ルーフェは歩みを止めず、光放つ出口へと進む。
 光は次第に協力になり、出口のすぐ近くにまで来た。

「最後に一つだけ、君に伝えたい事がある。これまでずっと言えなかった言葉、それは……」

 ついに――――ルーフェは光へと踏み出した。
 それと同時に、言葉をこう続けた。


「愛している、エディア。今までも、これからも――ずっと」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...