常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

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最終章 そして、その後

一方で、彼は

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 一方村の端の、ある牧場では……。
 黒く毛並みの良い大型犬が、羊の群れを追って走る。
 その先新緑色の牧草地には、乳牛やヤギも見かけられた。
 大型犬に追われた羊の群れも、牧草地へ辿り着くと、その草を食み始めた。

「コニー! こっちにおいで!」

 どこからかそう呼ばれた、コニーと言う名前の犬は、声のする方へと走って行った。
 そこにいたのは小柄な少女と、恰幅の良い老人の二人である。
 犬は少女に駆けてゆくと、そのまま少女に飛び込んで来た。
「アハハハッ! やめてよコニーってば! くすぐったいわ!」

 少女と犬がじゃれ合っている様子を、老人は微笑ましく眺めている。

「おいおいミリナ、あまりはしゃぎすぎるんじゃないぞ。もし怪我でもしたら、儂は君の親御さんに、合わせる顔がないじゃないか」

「あら? おじさまが気にする事はないわ。子供の遊びに、多少の怪我は付き物ですもの」

 そんな少女の様子に、仕方がないなと言うように老人は肩をすくめた。
 この牧場は老人が所有している牧場であり、少女はここで羊飼いとして、働きに来ていた。
 そして牧場で働いているのは、少女ともう一人……

「やぁ二人とも、遅くなって悪い。飼料の買い出しと餌やりに、少し手間取って、少し遅れてしまった」

 そう言って現れたのは、一人の青年であった。
 体のあちこちには多くの傷が目立つが、それでも明るい雰囲気の、人が好さそうな好青年である。

「こんにちは、ルーフェ! お仕事お疲れ様!」

「ああ、ミリナもお疲れ様。コニーもね」

 名前を呼ばれた青年――ルーフェは、寄って来た犬を優しく撫でた。 


 ルーフェとエディアは、あの出来事の後、この村へと移り住んでいた。
 町と言う程に大きくなく、かと言って村と呼ぶには小さくないこの村は、かつて大昔にトリウスが暮らし、その後も度々訪れていた村である。
 常に平和で、穏やかな雰囲気であり、二人がこれからの人生を過ごすには丁度いいと、彼がここで暮らすことをすすめたのだ。


「君がここに来てから、私は大助かりだ。年寄りの身では、これまでの牧場仕事は、なかなか辛かったのでな。とにかく、いつも感謝しているよ」

 ルーフェに対し、老人はねぎらった。

「こちらも村に来たばかりの僕に、仕事をくれた事に感謝しています。それに、住む家も手配してくれて……」

「ははは、せっかくここに来てくれたんだ。大歓迎なのは当然だろう。ところでどうだ? 君たちが来てからもう一年近く経ったが、この村での生活は慣れたか?」

「ええ。皆さんとても、優しい方ばかりですから」

 老人はにこやかな表情を見せると、こう続けた。

「幸い今日は仕事が少ない、まだ昼間だが、仕事はここまでだ。後は私が引き受けよう」

「えっ! ……良いんですか?」

「もちろんだとも。それに今日は、君達の結婚記念日だろう? 早く家に帰って、奥さんを喜ばせるといい。彼女も、よく牧場仕事に来てくれて、私も助かっているしな」

 ここまで言われては、逆に断るのが失礼だろう。
 ルーフェは一言礼を伝えると、老人に言われた通りに仕事を終えて、家へと帰路につく。

「そうだ。夜には我が家で、知り合いを大勢招いて祝いのパーティを開く予定だ。ぜひ来てくれ。主役二人がいないと、パーティにならないからな」

「ええ、分かりました。楽しみにしていますね」

 そう言って彼が手を振りながら去って行くのを、老人は見送った。
 彼を見送ると、少女がわくわくしながら話しかける。

「ねぇねぇ。今夜のパーティ、私も行っていいんだよね?」

 もちろんだと、老人は言った。

「ミリナの家にも、ちゃんと招待状は送っている。君もパーティを楽しんでくれ」

 これを聞いた少女は、大喜びだった。

「さてと、こっちも早く仕事を切り上げて、準備をしなくてはな」

 老人は一人、そう呟く。
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