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最終章 そして、その後
ようやくつかんだ、新たな願い
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ルーフェが住む家は、牧場のすぐ近く。幾つも立ち並ぶ小さな民家、その一つである。
今の時間なら、彼女はもう家に帰っているはずだ。
「ただいま、今帰ったよ」
そう言ってルーフェは、玄関の扉を開けた。
「あっ! おかえりなさい、ルーフェさま! 今日は早かったですね」
すると家のキッチンから、エプロン姿の女性が現れて出迎えた。
「ジングさんが僕たちの結婚記念日だって事で、早く帰らせてくれたんだ。早く君に顔を見せるようにってね、エディア」
これを聞いた彼女、エディアは満面の笑顔を見せる。
二人は村に移り住んでから、すぐに結婚式を挙げた。村の人々はやって来たばかりの二人と、その結婚を大歓迎した。
それからのここでの日々は、本当に幸福で、充実した毎日だった。
昔のかつて主人と召使だった頃と比べて、何十倍も……。
「丁度、パーティで用意する料理のために、野菜の下ごしらえをしていた所です。軽い料理でしたらすぐ作れますが、ルーフェさまはどうされますか?」
「そうだね、なら少しだけ頂くよ。後それと……エディア、また僕に様付けしているよ」
ルーフェからそう指摘され、エディアは照れ笑いした。
「ふふっ、召使いだった頃のくせは、そう簡単には抜けないものですね、ルーフェさ…………いえ、ルーフェ」
あれから変化したのは、二人の環境だけではなかった。
ルーフェはかつて旅していた時の冷たい雰囲気はなくなり、昔の頃のような本来の性格に戻っていた。加えて、以前よりも明るく外交的な部分も、新たに見せていた。
そしてエディア、彼女はルーフェと違い、自分が一度死んでからの記憶や時間は存在しない。それでもこの一年間で、彼女も大きく変わった。召使いだった時のくせ、様付けやその態度などとまだ少し残っているが、彼女はもう召使ではない。まだ慣れない所はあるが、何も変わらない一人の善良な村人として、二度目の人生を歩んでいた。
「良かったら、後で料理を手伝うよ。パーティに用意するなら、結構大変そうだからね」
彼女はかつて召使いだった経験もあり、家事は大得意だ。しかしルーフェは、だからと言って家事を任せっきりでは昔と変わらないと言って、彼女の代わりによく家事をしていた。しかし……。
「大丈夫、私だけでも十分です。ルーフェの気持ちは嬉しいけど、それにはもう少し……私から家事について学んで下さらないと」
「……むぅ」
そう言われてルーフェは押し黙った。
実際の所、エディアと違って彼には、家事のスキルが殆ど無いのだ。だから最近では、彼女は時間があれば、ルーフェに家事を教えているらしい。
「とりあえず、ルーフェはゆっくり休んで下さい。料理くらいなら、私、作りなれていますから……」
そんな二人の会話の最中、家の玄関からノックが聞こえる。
この村だと、誰かがよく家に訪ねて来る事は珍しくない。
多分近所の知り合いだろう。ルーフェは知り合いの候補を何人か思い浮かべながら、玄関を開いた。
「お久しぶりですね、ルーフェさん、それにエディアさんも。あれからもう、一年ぶりでしょうか」
そこにいたのは、旅人らしい格好をした水色の髪の少女がいた。
「僕もまた会えて嬉しいよ、ラキサ。せっかく来たんだ、良ければ、家でゆっくりして行かないか? 色々と、話もしたいしね」
ルーフェの好意に、ラキサは頷く。
家のリビングで、ルーフェとラキサは話をしていた。
一年前のあの出来事の思い出や、その後の互いの事について話していた。
「それでラキサは今、世界を旅しているのか」
「はい。今までずっとあの山にいましたから、外の世界を持て見たくて……」
ラキサはそう言って、旅で見てきた事を語った。
ルーフェもかつて旅した経験もあることから、話は大きく盛り上がった。
「……お父様にも、この間会って来ました。今では、あの山にはお父様一人だけですもの」
それを聞いて、二人はあの時の事を思い出す。
かつてルーフェとエディアが冥界から帰還し、そして冥王がラキサとトリウスに、常世の守り主の役目から解放すると、そう提案した時であった。
あの時ラキサは、役目からの解放を望んだ。しかしトリウスは……
『冥王様、その申し出、私はとても有難く思います。しかし…………私は一人でも、常世の守り主は続けたいと思っています。だから――現世と冥界への道は、どうかそのまま残してもらいたい』
《どう言う事かな? ……成程、君が本来人としての寿命を超えて生きて来れたのは、守り主としての役目があったから。役目から解かれる事は即ち、死を意味する。まさか大魔術師の君が、今になって死を恐れるとはね》
トリウスは、首を横に振る。
『確かに、それもあるかもしれません。しかし、常世の守り主が消えれば、冥界との繋がりは断たれてしまいます。そうなれば――今後ここに現れる、私やルーフェと同じ人間が絶望するでしょう』
そして彼は続ける。
『死んだ人間を蘇らせる……そんな願いを持つのは、私は愚かだと考えていた。しかし、それ程にまで強く願う事は、その人間は深く絶望しているからだ。冥界と繋がりが断たれるのは――そんな彼らの希望を消すことになる。それに、私はラキサの父親だ。まだ…………彼女を一人にする訳にいかないしな』
これが、あの頃に起こった事の経緯だ。
「そうだったね、僕たちもトリウスさんには世話になったし、出来れば会いに行きたいけど……」
「お父様も、きっと喜んでくれるわ。私は明日まで、ここに留まる予定です。良ければ私が、二人を送って行きましょう。本来の姿に戻れば、ハイテルペストまですぐですから」
そう二人が話していると、キッチンからエディアが、アップルパイを持って現れた。
「本当はパーティに持っていくつもりでしてけど、せっかくラキサさんが来たのですもの。料理はまた、作ればいいだけですしね。それに、このアップルパイ、味にはとても自信があるのですよ?」
エディアは自信たっぷりな様子で、ウィンクをした。
「家のアップルパイは、村でもかなり好評なんだ。僕からも保証するよ。あ、そうだラキサ、今夜パーティがあるんだ、良ければ一緒にどうかな?」
「うふふ、それは楽しそうですね。なら、お言葉に甘えましょうか」
こうしてルーフェの旅は成就し、愛する人を取り戻す望みも叶った。
だが二人が人間である以上、それはただ別れをまた先延ばしにしたにすぎない。
しかしそれは同時に、また一緒に過ごせる機会が、再び与えられた
事を意味する。
今度こそ、最後の時に後悔を残さないように、満足出来るように生きること――
それこそルーフェ、そしてエディア、……二人の新たな願いだった。
今の時間なら、彼女はもう家に帰っているはずだ。
「ただいま、今帰ったよ」
そう言ってルーフェは、玄関の扉を開けた。
「あっ! おかえりなさい、ルーフェさま! 今日は早かったですね」
すると家のキッチンから、エプロン姿の女性が現れて出迎えた。
「ジングさんが僕たちの結婚記念日だって事で、早く帰らせてくれたんだ。早く君に顔を見せるようにってね、エディア」
これを聞いた彼女、エディアは満面の笑顔を見せる。
二人は村に移り住んでから、すぐに結婚式を挙げた。村の人々はやって来たばかりの二人と、その結婚を大歓迎した。
それからのここでの日々は、本当に幸福で、充実した毎日だった。
昔のかつて主人と召使だった頃と比べて、何十倍も……。
「丁度、パーティで用意する料理のために、野菜の下ごしらえをしていた所です。軽い料理でしたらすぐ作れますが、ルーフェさまはどうされますか?」
「そうだね、なら少しだけ頂くよ。後それと……エディア、また僕に様付けしているよ」
ルーフェからそう指摘され、エディアは照れ笑いした。
「ふふっ、召使いだった頃のくせは、そう簡単には抜けないものですね、ルーフェさ…………いえ、ルーフェ」
あれから変化したのは、二人の環境だけではなかった。
ルーフェはかつて旅していた時の冷たい雰囲気はなくなり、昔の頃のような本来の性格に戻っていた。加えて、以前よりも明るく外交的な部分も、新たに見せていた。
そしてエディア、彼女はルーフェと違い、自分が一度死んでからの記憶や時間は存在しない。それでもこの一年間で、彼女も大きく変わった。召使いだった時のくせ、様付けやその態度などとまだ少し残っているが、彼女はもう召使ではない。まだ慣れない所はあるが、何も変わらない一人の善良な村人として、二度目の人生を歩んでいた。
「良かったら、後で料理を手伝うよ。パーティに用意するなら、結構大変そうだからね」
彼女はかつて召使いだった経験もあり、家事は大得意だ。しかしルーフェは、だからと言って家事を任せっきりでは昔と変わらないと言って、彼女の代わりによく家事をしていた。しかし……。
「大丈夫、私だけでも十分です。ルーフェの気持ちは嬉しいけど、それにはもう少し……私から家事について学んで下さらないと」
「……むぅ」
そう言われてルーフェは押し黙った。
実際の所、エディアと違って彼には、家事のスキルが殆ど無いのだ。だから最近では、彼女は時間があれば、ルーフェに家事を教えているらしい。
「とりあえず、ルーフェはゆっくり休んで下さい。料理くらいなら、私、作りなれていますから……」
そんな二人の会話の最中、家の玄関からノックが聞こえる。
この村だと、誰かがよく家に訪ねて来る事は珍しくない。
多分近所の知り合いだろう。ルーフェは知り合いの候補を何人か思い浮かべながら、玄関を開いた。
「お久しぶりですね、ルーフェさん、それにエディアさんも。あれからもう、一年ぶりでしょうか」
そこにいたのは、旅人らしい格好をした水色の髪の少女がいた。
「僕もまた会えて嬉しいよ、ラキサ。せっかく来たんだ、良ければ、家でゆっくりして行かないか? 色々と、話もしたいしね」
ルーフェの好意に、ラキサは頷く。
家のリビングで、ルーフェとラキサは話をしていた。
一年前のあの出来事の思い出や、その後の互いの事について話していた。
「それでラキサは今、世界を旅しているのか」
「はい。今までずっとあの山にいましたから、外の世界を持て見たくて……」
ラキサはそう言って、旅で見てきた事を語った。
ルーフェもかつて旅した経験もあることから、話は大きく盛り上がった。
「……お父様にも、この間会って来ました。今では、あの山にはお父様一人だけですもの」
それを聞いて、二人はあの時の事を思い出す。
かつてルーフェとエディアが冥界から帰還し、そして冥王がラキサとトリウスに、常世の守り主の役目から解放すると、そう提案した時であった。
あの時ラキサは、役目からの解放を望んだ。しかしトリウスは……
『冥王様、その申し出、私はとても有難く思います。しかし…………私は一人でも、常世の守り主は続けたいと思っています。だから――現世と冥界への道は、どうかそのまま残してもらいたい』
《どう言う事かな? ……成程、君が本来人としての寿命を超えて生きて来れたのは、守り主としての役目があったから。役目から解かれる事は即ち、死を意味する。まさか大魔術師の君が、今になって死を恐れるとはね》
トリウスは、首を横に振る。
『確かに、それもあるかもしれません。しかし、常世の守り主が消えれば、冥界との繋がりは断たれてしまいます。そうなれば――今後ここに現れる、私やルーフェと同じ人間が絶望するでしょう』
そして彼は続ける。
『死んだ人間を蘇らせる……そんな願いを持つのは、私は愚かだと考えていた。しかし、それ程にまで強く願う事は、その人間は深く絶望しているからだ。冥界と繋がりが断たれるのは――そんな彼らの希望を消すことになる。それに、私はラキサの父親だ。まだ…………彼女を一人にする訳にいかないしな』
これが、あの頃に起こった事の経緯だ。
「そうだったね、僕たちもトリウスさんには世話になったし、出来れば会いに行きたいけど……」
「お父様も、きっと喜んでくれるわ。私は明日まで、ここに留まる予定です。良ければ私が、二人を送って行きましょう。本来の姿に戻れば、ハイテルペストまですぐですから」
そう二人が話していると、キッチンからエディアが、アップルパイを持って現れた。
「本当はパーティに持っていくつもりでしてけど、せっかくラキサさんが来たのですもの。料理はまた、作ればいいだけですしね。それに、このアップルパイ、味にはとても自信があるのですよ?」
エディアは自信たっぷりな様子で、ウィンクをした。
「家のアップルパイは、村でもかなり好評なんだ。僕からも保証するよ。あ、そうだラキサ、今夜パーティがあるんだ、良ければ一緒にどうかな?」
「うふふ、それは楽しそうですね。なら、お言葉に甘えましょうか」
こうしてルーフェの旅は成就し、愛する人を取り戻す望みも叶った。
だが二人が人間である以上、それはただ別れをまた先延ばしにしたにすぎない。
しかしそれは同時に、また一緒に過ごせる機会が、再び与えられた
事を意味する。
今度こそ、最後の時に後悔を残さないように、満足出来るように生きること――
それこそルーフェ、そしてエディア、……二人の新たな願いだった。
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