常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

文字の大きさ
34 / 63
番外編1 ――伝えたかった、あの言葉

悲しき過去

しおりを挟む
 ――――

 トリウスの後に続き、クレイは屋敷の地下に降りる。
 ろうそくなど、人工の明かりはなく、唯一二人の先を飛ぶ、ウィルの放つ光が、狭い階段を照らしていた。
 
「僕を、どこに連れていくのかな」

「……クレイ、私が君を、亡くした兄に会わせてあげよう。今から向かうのは、そのために私が用意した、その場所だ」

 二人は階段を降り、そして、しばらくしてその終点に到達した。


 
 たどり着いたのは、四角くて狭い、石造りの小部屋だった。
 壁の端には、燭台か四つあり、トリウスはそれに手をかざし、魔法により火を灯す。

「この、部屋は……」


 燭台の明かりで照らされた、部屋の中……。それを見たクレイは、戸惑う。
 部屋には四方に燭台と、中央には透明な水晶玉が置かれた祭壇があった。
 それ以外には物はなく、祭壇を中心として部屋の床一杯に、魔法陣が描かれている。


 ……おそらく、ここは何かの儀式をするための、部屋だ。

「さて、この場に用意したのは、私の魔術式。
 君の会いたいものの魂を、一時的にこの場へと呼ぶための、な」

 トリウスはそう、説明する。

「死者を現世に呼び戻すことは、確かに許されることではないだろう。
 ……だが、一時的な再開であれば、叶えることが可能だ」
 
 改めて、部屋を眺めるクレイ。

「本当に……兄さんに会えるのか」
 
 半信半疑で一人、彼は呟くも……。
 その答えは、既に決まっていた。

「もちろんだとも。どうか、兄さんに会わせて欲しい」

 亡くなった兄に会うために、クレイはそのためだけに、ここまで来た。
 彼の返答に、トリウスは――。

「うむ、良かろう。君の望み……叶えるとしよう」




 ――――

 床の魔法陣に触れ、長い呪文を唱える、トリウス。
 彼の唱える呪文に、呼応するかのように魔法陣は紫色に、鈍く輝く。
 
 一方、クレイは、祭壇の前に、ただ跪いていた。
 彼の顔の高さに。水晶玉が来るような、ちょうどそんな位置。
 


 トリウスは一旦呪文を止めると、ひざまずくクレイに声をかける。

「さて、これで大体の用意は整った。後は……クレイ、君が亡くした兄の事を、強く想えばいい。
 それが兄の魂を呼び寄せる、要となるのだからな」

 と、そこで彼は、クレイにあることを聞いた。

「だがその前に、良ければ兄の事をくわしく、私に聞かせてもらえないだろうか。
 私も君の想いを、共有する必要がある。そのためには、な」


 
  ……あまり、話したい内容では、ないのだろう。
 クレイは表情に躊躇いを見せたが、やがて意を決したように、話す。

「僕と兄さんは、ここからずっと遠くの、ある集落で暮らしていたんだ。
 とても頼りになって、僕に優しい、自慢の兄さん、だったんだけど……」
 
 すると、彼は顔を俯け、すすり泣くかのように、声を振り絞る。

「……ある時、僕が一人で集落近くの森に行ったときだった。
 普段なら安全な場所、だったんだけど、そこで……遠くから迷い込んできた、危険な魔物に襲われた。
 危険に駆けつけた兄さんに、僕は助けられた。だけど兄さんは……」

 そう、クレイの兄は彼を助けるために、犠牲になった。
 
「君の兄は、それで……」

「僕のせいで、兄さんは死んでしまった。……僕を、守ったから。
 だからどうしても、もう一度兄さんに会って、謝りたいんだ。
 ……どうしようもないのは、分かっているけど」

 罪悪感に、ずっと苛まれていたクレイ。
 彼の言葉にはその感情が、にじみ出ていた。



 話を聞いたトリウスは、納得したように……

「ふむ、そう言うこと、なのだな。分かったとも」

 と、彼は再び呪文の続きを、詠唱しようとする。

「君の兄への気持ち、分かった。後はただ……彼のことを思い浮かべるだけでいい」

 トリウスの呪文を唱え、それに従い魔法陣はさらに輝き、ついにはクレイの目の前の、水晶玉も光り輝く。
 そして光は――彼の視界を、一杯に覆う。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...