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番外編1 ――伝えたかった、あの言葉

落ち着いたひと時

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 クレイには屋敷の一室があてがわれ、そこで急速をとった。
 トリウスにより食事も届けられ、彼の作る野菜のスープは、特に美味しかった。
 彼の話では、屋敷の外には果樹園もあり、そこからとれた野菜を使っている……との事だ。
 また他には、トリウスには今、外の世界を旅している、一人娘がいることもクレイに教えてくれた。

「……ラキサ、と言うのだがな。とても優しくて素敵な、私の愛する娘だ。
 ふふふ……親バカとでも、言うべきかもしれないな」

「娘さん、がいらっしゃるのですね」

「あちこちを旅しているみたいでな。その娘が今度……一週間後に、帰って来のだ。
 今か今かと、待ち遠しいのさ」



 また精霊であるウィルとも、クレイは仲良くしていた。
 何かを喋ることはないが、懐いているように彼の周りを飛び回る、ウィル。

「へぇ、ずいぶんと、可愛いね」

 クレイの言葉に、ウィルは嬉しそうに中を飛び回り、肩にとまる。

「……ふふふ、こうしているのも、悪くない……か」

 最初はほんの僅かの滞在にするつもりだったが、いつの間にか数日もここに留まっていた。
 快適な暮らしで居心地もよく、安息を得ていた。


 すると、クレイのいる部屋に、トリウスがやって来る。

「やあ、ウィルと仲良くやっているようだね、良かった良かった」

 彼はそう、優しく声をかけた。
 
「……まあね。随分と、良くしてもらっているから。――だけど」

 だがクレイには、まだやるべき事が、あった。

「僕には、どうしてもまた会いたい、人がいる。
 そのために……ここに来たんだから」



 そう、彼がここに来た目的、それは……。

「君も、誰かを喪ったのだろう。そしてその誰かに会うために……ハイテルペストを訪れたのだろう」

 クレイは、頷く。

「ああ。僕の亡くした、兄さんにね。
 だから、いつまでもここにいるわけには……いかない」



 これを聞いた、トリウスはしばし沈黙する。
 そしてその後……こんな事を言った
 
「そう、か、なら……私も微力ながらも、力になろう」
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