常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

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番外編1 ――伝えたかった、あの言葉

魔術師と、精霊

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 ――――


 ――ふむ、また一人、やって来たか――

 時間は少し前に遡り……。
 ハイテルペストを登る青年を、遠く別の場所で監視していた、ある人物がいた。
 台座に置かれた水晶玉に映される、雪山と青年の姿。

 ――上手くこちらに、向かってはいるらしい。……山の広範囲に仕掛けた、誘導魔術に掛かってくれたようだ――

 そう、青年は山の頂上ではなく、この何者かにより、誘導されていたようだ。

 ――さて、この様子だともうすぐたどり着く、か。
 私も……彼を出迎えに行かないとな――

 


 ――――

 青年は、屋敷の扉の前に立つ。
 扉のベルを鳴らすも、反応はない。

 ――誰もいないのか? だが――
 
 ドアノブに手をかけると、どうやら鍵はかかっていないようだ。
 もし望むなら、自分で開けて中に入ることが出来る。

 ――まぁいい。無人の屋敷なのだろう。好きに使ったって、文句は――

 よく考えれば、こんな山奥に、誰かが住んでいるわけもない。
 青年はこう考え、屋敷の扉を開けた。



 ……開けた先は薄暗い広間であった。
 内装も、やはり良いものだ。しかし……人がいる気配はしない。

 ――やはり無人か。だったら、好きに使ったって――

 

「ようこそ……私の屋敷へ」

 するとその時、部屋の明かりが点灯するとともに、何者かの声がした。
 屋敷の主なのだろう、奥の階段から降りる足音も聞こえ、何者かが姿を見せる。

「あなたは……」

 灰色のローブに身を包み、賢者を思わせる、不思議な雰囲気の男。
 長い白髪を垂らし、外見は三十代に見えるが……実際はもっと、ずっと長く生きているような、そんな感覚もまた覚えた。
 そして、彼の傍らには、水色に輝く、とても小さな拳大の人影が、昆虫のような二対の羽をはためかせ、飛び回っていた。
 
「私は魔術師のトリウス、そしてこの子は、精霊のウィル。……私のパートナーだ。
 さて、君の名は?」
 
 トリウスと名乗る謎の男、その問いに、青年は答える。

「えっと、僕はクレイ、アーヴィン・クレイと言う名前さ」

「ふふっ、ここに来る人間の中では、ずいぶんと社交的だな。……気に入った」



 そんなトリウスの言葉に、反応するクレイ。

「と言うことは、過去にもここに、人は来ていたのか」

「ああ、何人もな。そしてここに訪れる人間の目的は、皆同じだ。君も、そうなのだろう?」

 トリウスの問に、クレイは。

「ああ。……その通り」

「やはり、か。だが今は……ここでゆっくりと、休んでいくといい。
 ここまで登って、疲れただろう?」



 確かに、その通りだ。
 この屋敷に入ったのも、一度休息をとるため。……なら。

「分かった。なら、その行為に甘えるよ」

 謎の魔術師、トリウス。クレイは彼の屋敷に、しばし留まることにした。
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