常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

文字の大きさ
56 / 63
 番外編 その3  ささやかな幸せの、物語。

それは、二人にとって幸福な……

しおりを挟む
 ――――

「はぁっ……はぁっ……!」

 激しく息切れしながらも、全速力で山を下り、家の帰路につくルーフェ。

「ちょっ、早いよルーフェ! たしかに急ぐ気持ちは、分かるけどさ」

 ケインはその後を、何とか追いかけていた。
 ……そして、ルーフェがこうも急いでいる理由、それは。

 ――まさか、こんな時に、子供が産まれそうだなんて!――
          

 
 そう、ケインが伝えた話と言うのは、エディアが身ごもっていた二人の子供が、生まれようとしていることであった。
 幸い助産師がついていることで大丈夫らしいが、それでもルーフェとしては、その時彼女のそばにいたかった。

 ――生まれる前に、家に帰りつけるか!?
 だけど……時間は、もう――

 家までの距離は、かなり遠い。
 しかもケインがルーフェのもとに、報告に来た時間もある。
 それを含めればもう、大分時間が経っているのだ。


 
 ……とにかく、ようやく目の前に家は見えてきた。

「ようやく見えてきたね、ルーフェさん」

 安堵の表情を見せる、ケイン。
 そしてルーフェも。

「ああ。……どうか、無事でいてくれよ」

 みるみる迫る、家の明かり。
 二人はついに玄関にたどり着くと、その扉を開いた。


 
 ――――

「エディア!」

 そう叫び、勢いよく扉を開け、家に入るルーフェ。
 するとそこで目にしたのは……。

 家にはミリナに助産師、それにルーフェが働く牧場の主のジングさんなど、村の人々がたくさん集まっていた。

「ルーフェもようやく来たか。あそこからこっちまで、大変だったろうに」

「あはは、ジングさん。それはもう大急ぎでしたから。
 それに……」

 

「ようやく帰って来ましたね、ルーフェさん。
 ふふふっ……見てください、こんなに元気そうに」

 多くの村人の集まる、部屋の真ん中のベッド。
 そこにはエディアの姿がありそして、上半身を起こしていた彼女が抱いていた、2つの小さな……赤ちゃんだった。
 それぞれ茶髪と、そして灰色髪の赤ちゃん。
ルーフェとエディア、二人の血を引いていると、よく分かる。


  
 ルーフェはエディアと、その子供に近づく。
 
「これが、僕と、エディアの」

 彼女は、こくりと、笑って頷いた。

「そうですよ。私とルーフェ、二人の子供。男の子と、女の子なんですよ」

「……かわいい、な。だけど」

 ルーフェは照れたように、こんなことを話す。

「その……帰りが遅れて、ごめん。エディア、大変だったろうに、傍にいてあげられなくて」

「大丈夫ですよ。
 たしかに、産むのはとっても痛かったけど、それでも、こうして無事に生まれて、それ以上にずっと、嬉しかったもの。
 私とルーフェの子を、こうして手で抱いて、温もりを感じられて、私……」

 そう言うエディアの顔は、本当に幸せ一杯で、あった。
 彼女にルーフェは、こんな頼み事をする。

「ねぇエディア、良かったら僕も……抱いてみても、いいかな」

「……もちろんよ。はい……」

 

 エディアはそう言うと、自分の両手で抱いていた、子供をルーフェにと。
 彼は、一人、そしてもう一人と、自分の手で受け取った。

「何て言うか、この感覚、は」

 ルーフェは二人の子を抱きながら、表情を緩めた。

「ルーフェってば、そんな表情をして。ふふっ」

 彼の表情を覗き込み、エディアはまた微笑む。

「俺たちの、子供か。本当に、小さくて、柔らかくて……可愛いな」

 初めての、感覚。彼は慣れないながらも、とっても感動していた。

「名前は、ルーフェと一緒に決めたよね。
 私と同じ髪の色の女の子は、エリナ。そしてルーフェと同じ髪の男の子は……ルイ」

 

 そう。生まれる前に、エディアとルーフェは子供の名前を考えていた。
 男の子なのか、それとも女の子なのか。生まれる子供がどちらかになるかと考え、ちゃんと用意していたのだ。



「ねぇ、ルーフェ」

「ん?」

「やっぱり私、ルーフェとまた一緒にいられて、嬉しいの。
 ……ありがとう、私をまた、生き返らせてくれて」

「僕の方こそ。
 ――エディアとのかけがえの無い時間。これからはもっと、賑やかになるね。
 僕ももちろん、嬉しさでいっぱいだ」

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...