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そのニ 彼は幼馴染み
あの口論でウィルに好きな人がいると分かってから数か月後。
週末になり、今日もウィルが剣の修練で私の屋敷を訪れていた。
「マリー、新しい職場はどうだ?」
「王城も宮殿もいいところよ。あんな素敵な場所で働けるのは本当に幸せだし……」
私の部屋で紅茶を飲む青年に気を遣われてしまった。
職場での疲れが顔に出ていたのかもしれない。
(せっかく奮発して、はちみつで髪に艶をだしてみたのに)
私は手入れした銀色の髪を指で触りながら、目の前の青年を見つめる。
彼の名はウィル、家名は知らない。
金髪に青い目の美形でとても見目麗しい青年だ。
美しいものが大好きな私にとって、彼のそばにいるだけで癒される。
「いい場所だという割に歯切れが悪い。何か困っているのか?」
「そうなの! 仕事は当然忙しいわ。でも働くのは好きだし、少しくらいなら無理して頑張れる。でもね、やっぱり新しい職場でも人間関係が大変なの」
幼いころから私と一緒にいるせいか、ウィルは何でもお見通しらしい。
昨日職場が変わっていろいろあったことは確かで、私に悩みがあるのだとすぐに気づいてくれた。
「聞かせてくれ。君の相談なら力になるから」
正面に座るウィルが私の手にそっと触れながら、顔を寄せて見つめてくる。
「えっ、あ……うんっ」
(きょ、距離が近いよ!)
ウィルの突然の接近に顔が火照った。
彼のこのスキンシップに毎回ドキリとさせられる。
それは私が彼を異性として意識しているから。
いまの私の顔は、きっと恥ずかしいくらい真っ赤になっているに違いない。
ウィルは私の反応を見てずいぶん楽しそうで、これは絶対にからかっている。
彼とは小さなころからの友人で気心の知れた仲。
だから何でも話せるし、悩みも聞いてくれる。
少し優しすぎると思うくらい、私を気遣ってくれる。
ただ、ちょっと私を甘やかしすぎというか……。
「ウィル、あ、あの……話すからちゃんと座って欲しいな」
「俺に近くにきて欲しくないのか?」
「ち、近いのも悪くないけど……ほら、ゆったり座ってもらった方が話しやすいなって」
下位貴族の孫娘である私は、これまで王族管理の別宅でメイドとして働いていた。
でも少し前に、配置転換で王城と宮殿の担当に職場が変わったのだ。
前の職場にくらべていろいろあるので大変だけど、辞める訳にはいかない。
毎日、庭でお茶会をして優雅に過ごす、上位貴族の令嬢とはまったく事情が違う。
貧乏貴族の孫娘としては、どこかに嫁ぐまでの間だけでも、下働きとして収入が欲しいのだ。
私のおじい様は下位貴族だけど、騎士団で剣聖と呼ばれるほど凄い存在だったらしい。
領地はないながら、少し前まで騎士として王家に仕えてくださり、これまで暮らしてこられた。
お父様は体が弱くて騎士に向かず、王様に仕える官僚になったけど、働き過ぎで倒れて亡くなった。
お母様は昔に宮殿で下働きのメイドをしていて、お父様に出会ったと聞いている。
いまはおじい様のお世話をしつつ家を守っている。
シュバリエ家には領地がないので税収はない。
だから、我が家の家計はほとんど私の収入で支えている。
早い話がウチにはお金がないのだ。
それで私がメイドをしているのだけど、いまの仕事は割と性に合っている。
日記が三日坊主で終わる私でも、掃除は得意なのでなんとかこなせるのだ。
「……という訳で、私は丁寧に挨拶と礼儀を尽くしているの。それなのに仕事が初めての新人扱いをして、早速みんなで私用を押しつけるのよ」
「マリーは前まで王族の別宅で働いていた訳だから、ただの配置換えだよな。それを新人扱いなんて困った奴らだ」
「ウィルが分かってくれているだけで嬉しいの。ありがとう。あなたのお陰で心が軽くなれたわ」
「いや、俺こそ君に会って元気をもらっている。感謝しているんだ」
彼はそう言うと、私の目を見て笑った。
職場の不満をぶちまけたはずが、いつの間にか私の気持ちは幸せで満たされていく。
それもこれもすべて彼のお陰だ。
ウィル。
私の大切な幼馴染み。
大変なときに話を聞いてくれて、気持ちを理解してくれて、頑張りを認めてくれる。
幼いころからのつき合いで、最初はただ仲の良い遊び友達だった。
十歳をすぎたころから彼を異性として意識し始め、小さいころにしていたスキンシップはもう控えるようにしている。
でも、彼の存在が私の心を支えてくれるのは変わらない。
もしも彼とずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろう。
残念だけど、彼が私に優しいのは幼馴染みの延長なんだと思っている。
ただの幼馴染みだから、生涯一緒にいる訳にもいかないと分かっている。
そのことは数か月前の口論で思い知った。
もう仲直りしたけど、いまもあのときのことが心に引っかかっている。
週末になり、今日もウィルが剣の修練で私の屋敷を訪れていた。
「マリー、新しい職場はどうだ?」
「王城も宮殿もいいところよ。あんな素敵な場所で働けるのは本当に幸せだし……」
私の部屋で紅茶を飲む青年に気を遣われてしまった。
職場での疲れが顔に出ていたのかもしれない。
(せっかく奮発して、はちみつで髪に艶をだしてみたのに)
私は手入れした銀色の髪を指で触りながら、目の前の青年を見つめる。
彼の名はウィル、家名は知らない。
金髪に青い目の美形でとても見目麗しい青年だ。
美しいものが大好きな私にとって、彼のそばにいるだけで癒される。
「いい場所だという割に歯切れが悪い。何か困っているのか?」
「そうなの! 仕事は当然忙しいわ。でも働くのは好きだし、少しくらいなら無理して頑張れる。でもね、やっぱり新しい職場でも人間関係が大変なの」
幼いころから私と一緒にいるせいか、ウィルは何でもお見通しらしい。
昨日職場が変わっていろいろあったことは確かで、私に悩みがあるのだとすぐに気づいてくれた。
「聞かせてくれ。君の相談なら力になるから」
正面に座るウィルが私の手にそっと触れながら、顔を寄せて見つめてくる。
「えっ、あ……うんっ」
(きょ、距離が近いよ!)
ウィルの突然の接近に顔が火照った。
彼のこのスキンシップに毎回ドキリとさせられる。
それは私が彼を異性として意識しているから。
いまの私の顔は、きっと恥ずかしいくらい真っ赤になっているに違いない。
ウィルは私の反応を見てずいぶん楽しそうで、これは絶対にからかっている。
彼とは小さなころからの友人で気心の知れた仲。
だから何でも話せるし、悩みも聞いてくれる。
少し優しすぎると思うくらい、私を気遣ってくれる。
ただ、ちょっと私を甘やかしすぎというか……。
「ウィル、あ、あの……話すからちゃんと座って欲しいな」
「俺に近くにきて欲しくないのか?」
「ち、近いのも悪くないけど……ほら、ゆったり座ってもらった方が話しやすいなって」
下位貴族の孫娘である私は、これまで王族管理の別宅でメイドとして働いていた。
でも少し前に、配置転換で王城と宮殿の担当に職場が変わったのだ。
前の職場にくらべていろいろあるので大変だけど、辞める訳にはいかない。
毎日、庭でお茶会をして優雅に過ごす、上位貴族の令嬢とはまったく事情が違う。
貧乏貴族の孫娘としては、どこかに嫁ぐまでの間だけでも、下働きとして収入が欲しいのだ。
私のおじい様は下位貴族だけど、騎士団で剣聖と呼ばれるほど凄い存在だったらしい。
領地はないながら、少し前まで騎士として王家に仕えてくださり、これまで暮らしてこられた。
お父様は体が弱くて騎士に向かず、王様に仕える官僚になったけど、働き過ぎで倒れて亡くなった。
お母様は昔に宮殿で下働きのメイドをしていて、お父様に出会ったと聞いている。
いまはおじい様のお世話をしつつ家を守っている。
シュバリエ家には領地がないので税収はない。
だから、我が家の家計はほとんど私の収入で支えている。
早い話がウチにはお金がないのだ。
それで私がメイドをしているのだけど、いまの仕事は割と性に合っている。
日記が三日坊主で終わる私でも、掃除は得意なのでなんとかこなせるのだ。
「……という訳で、私は丁寧に挨拶と礼儀を尽くしているの。それなのに仕事が初めての新人扱いをして、早速みんなで私用を押しつけるのよ」
「マリーは前まで王族の別宅で働いていた訳だから、ただの配置換えだよな。それを新人扱いなんて困った奴らだ」
「ウィルが分かってくれているだけで嬉しいの。ありがとう。あなたのお陰で心が軽くなれたわ」
「いや、俺こそ君に会って元気をもらっている。感謝しているんだ」
彼はそう言うと、私の目を見て笑った。
職場の不満をぶちまけたはずが、いつの間にか私の気持ちは幸せで満たされていく。
それもこれもすべて彼のお陰だ。
ウィル。
私の大切な幼馴染み。
大変なときに話を聞いてくれて、気持ちを理解してくれて、頑張りを認めてくれる。
幼いころからのつき合いで、最初はただ仲の良い遊び友達だった。
十歳をすぎたころから彼を異性として意識し始め、小さいころにしていたスキンシップはもう控えるようにしている。
でも、彼の存在が私の心を支えてくれるのは変わらない。
もしも彼とずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろう。
残念だけど、彼が私に優しいのは幼馴染みの延長なんだと思っている。
ただの幼馴染みだから、生涯一緒にいる訳にもいかないと分かっている。
そのことは数か月前の口論で思い知った。
もう仲直りしたけど、いまもあのときのことが心に引っかかっている。
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