御者転生 〜俺が勇者より強いのはわかったから、そんなことより人を運ばせてくれ〜

梓川あづさ

文字の大きさ
6 / 57
転生〜ロッカの街

第5話 残念、それは効かない

しおりを挟む
 冒険者、いや勇者たちの前に立ちはだかっていたのは、俺が昔やっていたゲームでガーゴイルと呼ばれていたモンスターの姿をした魔物だった。
 石のような質感の肌、おぞましい表情、そして目の奥に光る赤い光はどれをとってみても怖じ気を感じさせるのに十分だった。

 それでも俺は退かない。
 お客が後ろにいる限り、俺は逃げない。
 それがせっかく御者として生まれ変わった俺の矜持だ。

「ギシャアァァァァ」

 どこから声を出しているのか、石を擦るような叫び声をあげて突進してくるガーゴイル。
 その手には鋭利な爪が鋭く生えているのが見てとれた。

「お、おい! 御者さん! 俺たちが勝てない相手にあんたが勝てるわけがないだろう! 逃げろっ!」

 背中では勇者が叫び声をあげている。
 ただ、俺にとっては逃げるという選択肢をとる必要がなかった。
 なぜなら……ガーゴイルの動きが酷くゆっくりに見えたからだ。

【御者】という天職をもらった俺は、前世の自分と比べて非常に目がよくなっていると感じていた。
 どうやら集中すれば時間の流れが遅く感じるほどらしいし、戦闘もできるようにしたという女神様の言葉はやはり本当だったか。
 でもこれはどちらかといえば脳の処理速度の問題か?うーん、それなら……。
 そんな事をゆっくりと考えながら俺はガーゴイルからの攻撃が来るのを待った。
 あとはギリギリで一歩横にズレればいい、それだけだ。

 侵入者に対して迎撃を命じられているはずの門番であろうガーゴイルが、侵入者の自分に対して手加減をするはずがない。
 そうは思うものの、まさかこれが本気なのか?と訝しんだのも事実だった。

 もしかしたらこれは罠かもしれない。
 そう思いなおした俺は、ゆっくりと大上段から振られた爪をあえて大きく距離を取ることで回避した。

「な、なにっ!? 奴の見えない攻撃をかわした……だと!? たまたま……なのか?」

 攻撃をかわされたガーゴイルよりも後ろの勇者の方が驚いているが、まぁ今はどうでもいいだろう。
 先程のガーゴイルの攻撃はまだ続いているようだからな。
 必殺だったのであろう爪をかわされたガーゴイルはそれで諦めずに、距離をとっている俺へと踏み込みながらの切り上げを見舞ってきた。
 ただその速度はあまりに遅くてあくびがでそうな程だった。
 やっぱり罠じゃなくて本気だったのかもしれない。

「よっ……と」

 だから俺は攻撃をかわしたあと、今度は軽く反撃をしてみることにした。
 今のガーゴイルは、渾身の切り上げをかわされて隙だらけだ。
 だから振り上げられた左手の下から突き上げるようにクロスカウンターを打ち込むのも簡単だった。

 相手は石の体だから自分が傷まないよう軽めに打ったパンチのはずだった。
 それなのに、そのパンチがガーゴイルへ吸い込まれると、バキンという音がして右目の部分が割れた。
 その衝撃はそれだけでは殺せなかったようで、ガーゴイルはそのまま後ろへ吹っ飛んで盛大な砂埃を舞い上げた。

「あれ? かなり軽く殴ったつもりだったんだけど……倒しちゃった、か?」

 そんな油断をしていた俺の上に突然フッと影が差した。

「上かっ!」

 俺はすんでのところで上から急降下してきたガーゴイルの攻撃をかわした。
 その攻撃はなかなかの威力があったようで、地面に大きな凹みを作っていた。

「ギイィギイィィィッ!」

 そんな風に憎しみを含んだ声をあげるガーゴイルだったが、よく見ると……あれ、目が割れていない?どうしてだろう。
 まさか石が近くにある限り不死身だ、なんてことはないよな。
 俺はちょっと不安になった。

 だがその不安は、舞い上がる砂埃と共に晴れることになった。
 少しずつ晴れていく砂埃の中から、体を引きずりながら先程右目を割ってやったガーゴイルが出てきた。
 目の前には今攻撃してきたガーゴイルもいる。つまり——。

「二体いたのかっ!!」

 俺が思っていた事を後ろの勇者が叫んでいる。
 意外と元気があるからまだ助けに来なくても平気だったかもしれないな。

 二体になったガーゴイルは自然な動きで、俺を挟み込むような位置取りをした。
 おそらく同時に攻撃をしてくるつもりなんだろう。
 でも集中すれば攻撃は遅く見えるし、回避するだけならきっと問題ないだろう。

 そう思っていたら二体のガーゴイルが突然両手を前に突き出した。
 なにやら手の前ではバチバチとした光がほとばしっている。

「おい、何してるんだ! その魔法光は広域魔法だろ! 早く距離を取れッ!」

 俺の後ろで勇者が叫んだ瞬間、それは俺を襲った。
 耳鳴りがするような激しい風が吹き荒れ、地面が次々とめくれ上がっていく。
 そしてその風はさらに強さを、鋭さをまして辺り全てを切り刻んでいく。

「ト、竜巻トルネードだとッ!? こんな魔法も使えたのか! ぎょ、御者さぁぁぁぁん!!」

 俺の後ろでは勇者が何かを叫んでいるが、激しい風の音で何も聞こえやしない。
 もしかしたら俺がやられてしまったと思って心配してくれているのかもしれない。
 まぁ確かに俺の服はボロボロになってしまったが……まぁそれだけだ。
 むしろ去年の台風何号かの方が激しかったような気すらする。

 やがて魔力が尽きたか、風の威力が徐々に弱まってきた。
 せっかく女神様が用意してくれた服はみるも無残な姿になっている。

 許せん……お仕置きをしてやらなければ!
 そう思った俺はガーゴイル達……ガーゴイルズをキッと睨みつけた。
 そしてあの風の中、なんとか腰に引っかかってくれていた鞭を引っ張り出した。

「さぁ、お仕置きの時間だぞ……?」

 そんな俺の言葉が通じているのかいないのか、ガーゴイル達がビクリと震えたような気がした。
 それでも容赦なんて……してやらない!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

処理中です...