御者転生 〜俺が勇者より強いのはわかったから、そんなことより人を運ばせてくれ〜

梓川あづさ

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転生〜ロッカの街

第6話 うわっ・・・鞭のチート、すごすぎ・・・?

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「さぁ、お仕置きの時間だぞ……?」

 俺はそう呟くと、目を割った方のガーゴイルへと向き直る。
 そして一気に走って距離を詰めると力いっぱい鞭を叩きつけた。

「ハウッ……」

 そう叫んだのは目の前にいたはずのガーゴイルだ。
 鞭で叩いたからか、今はなぜか執事風の人間男性のような見た目になっている。
 目は俺が殴ったひび割れのような跡が残っているが、その他はどこからどう見ても人間だ。

「こ、こんなもので恍惚を感じてしまうなんて私はなにをっ……ああっ!?」

 どうやら鞭で感じてしまったらしいガーゴイルはもうお仕置きをしたので放っておく。
 次は、反対側のガーゴイルだ。

 今起こった事を見て恐怖を感じたか、もう一方のガーゴイルは空を飛んで逃げようとする。
 が、そんな事は許さん。
 スナップを効かせるように鞭を振ると、鞭はその考えを汲み取ってくれたかのようにガーゴイルの足に巻き付いた。
 それから逃げだそうと暴れるガーゴイルを俺は力尽くで地面に引きずり下ろす。
 地面に落ちると怯えたのか石像に戻ったのか、石のように固まって動かないそのガーゴイルの太ももを鞭で力いっぱい打ち据えた。

「いやああッ!」

 目の前にいたガーゴイルは甘い吐息のような声をあげてうずくまった。
 こちらは黒くて長い髪をもった大人の女性になった。

 フィズの時も思ったけど、どうやらこの鞭には魔物を人型に変えてしまう力があるようだ。
 そういえば女神様もそんなことをいっていたような……。
 あ、あの時の記憶がおぼろげながら戻ってきたぞ。


『戦闘は危険が伴いますので身体能力は出来るだけ上げておきます。ですがやはり仲間はいたほうがいいと思うのです。異世界から行くのですから知り合いもいませんしね』
「確かにそうですね。あなたはついてきてくれないのですか?」
『…………それはダメなのです。ですのでこの鞭で叩いた魔物が仲間になるようにしておきました。ついでに人間社会に溶け込めるように人間の姿にさせる機能もついています』
「え、そんなチートなアイテムを頂けるんで!?」
『ええ、だってあなたは私が……。あ、ただ注意事項もあるので覚えておいてくださいね。注意しなければいけないのは——』

 その先はどうしても思い出せなかったけどまぁいいか。
 多分本当に大事なことなら忘れないだろうしな。うん。
 荷物を結ぶロープ代わりにしないよう注意しろ、とかそういった感じだろう。

 さて、それよりも今はこのガーゴイルズの処遇についてだ。

「おい、お前たちそこに並べ」

 少し尊大な態度でそう指示すると慇懃無礼いんぎんぶれいになりそうなほどうやうやしい態度で二人揃って膝をついた。

「お前達は俺の敵か? それとも味方か?」
「味方……でございます」
「そうですとも。ワタクシ達は貴方様の味方です」

 俺が聞くと、ついさっきまで俺に魔法を叩きつけていた奴らの台詞とは思えない言葉が返ってきた。
 人型にするだけじゃなくて仲間にするとかいってたから強制服従機能とかついてるのか!?
 ま、反抗心がないならいいか。

「そうか、それならいい。でもお前たちは魔王に仕えていたんじゃないのか?」
「いえ、ワタクシ達はガーゴイル……所詮お城の雨樋あまどいに過ぎません」

 確か前世の世界でもガーゴイルは雨樋の役割だったっけ。
 つまりこの城の壁なんかを雨からひたすら守っていたということか。
 なんか想像すると悲しくなってくるな。

「先程は久々に人が来て、ようやく門番の方の仕事ができるとはしゃぎ過ぎてしまい申し訳ありません」

 執事風の元ガーゴイルが美しい所作で頭を下げた。
 あれははしゃいでたのか?
 まぁ大して威力もなかったしそうなのかもしれないが……。

「これからは誰に仕える? 俺はお仕置きが出来たからもうそれで満足ではあるが……」
「お邪魔でなければ貴方様に仕えたいと考えております」
「ええ、ワタクシも同じ気持ちです」
「そうか、分かった。俺はカケルだ。好きに呼んでもらっていい。お前達の名前は?」

 そう聞くと二人は困ったような顔をした。

「ワタクシ達は所詮お城の雨樋にすぎず——」

 また悲しい話しをし始めた。
 つまり名前がないという事だな。
 それじゃあ名前を付けてやるか。

「じゃあお前がガー男、お前がガー子でどうだ?」

 俺の言葉に二人はガーゴイル人生の終わり、というような顔をした。
 さすがに適当すぎたか。

「いや、やっぱり今のはナシで。うーん……」

 じゃあ何にしようか、となるとこういう時に浮かぶのはお酒の事ばかりなんだよな。

 考え込む俺を二人が不安そうに見つめてくる。
 その瞳は赤く輝いていた。ここはガーゴイルの特徴そのままなんだな。
 赤い瞳からレッドアイじゃ単純すぎるしなぁ。それに二人分だし。

「ガ、ガーゴイルが……ひ、人にっ!?」

 何やら後ろからそんな声が聞こえたが……そういえば存在を忘れていたな。
 振り返ると、勇者がぽかーんとした顔でこちらを見ていた。
 顎くらいは閉じた方がいいと思うが……。
 あ、勇者を見ていたらいい名前を思いついたぞ。

「じゃあ男のお前はジャック、女のお前はローズを名乗れ」

 俺がそういうと二人は安心したような顔をして、それから幸せそうに笑った。

「はっ」
「有難き幸せ」

 ちなみに、カクテルには花言葉のようにそれぞれメッセージがあったりする。
 ジャック・ローズのカクテル言葉は
 ” 恐れを知らぬ元気な冒険者 ”
 うん、まさに勇者の彼にぴったりじゃないか。
 別に彼に名前を付けたわけじゃないけどまぁそれは良しとしよう。

「さて、それじゃ俺は行くけどお前達はどうする?」
「は、ご一緒させて頂ければと」
「ワタクシも一緒に参ります」
「わかった。じゃあ行こうか」

 こうしてジャックとローズにビビり倒していた勇者を引きずるようにして俺は馬車に戻った。
 倒れていた方の女勇者はジャックが背負った。
 さっき倒した相手だと思ったらなんか変な感じだな。

 馬車にはガーゴイルズとは比べ物にならないくらいの強敵が待っていた。


「ごめん、ごめんって」

「違うんだよ、乗客の勇者さん達がピンチだと思ったからさ……」
「それは分かってるけど……フィズ……フィズ、心配だったんだからっ!」

 そういってフィズは泣いた。
 まだ知り合って1日とちょっと。
 だけどそんな俺を心配していたと泣いてくれた。

 これも鞭の効果のおかげせいなのだろうか?
 もしそうだったとしたら悲しいけど……でもフィズはいい子だからきっと本心だろう。
 きっとそうだ、そうに違いない。

「心配させてごめん、次からはちゃんと話をしてから行くから」

 そういいながら俺はフィズを抱きしめた。
 けれどフィズはそんな俺の肩をぐっと突き放すように押して「そんなんじゃダメ」といった。
 やはり嫌われてしまったのだろう。
 がっくりしているとフィズの言葉にはつづきがあった。

「だから次からはフィズも一緒に……一緒に行くんだからっ!」

 そういってフィズは俺に——キスをした。

 勢いがつきすぎていてカツン、と歯と歯が当たる音がしたけど……それは紛れもなくキスだった。
 出会って間もない女の子とこんな風になっちゃっていいのか!?

 うわっ……鞭のチート、すごすぎ……?
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