御者転生 〜俺が勇者より強いのはわかったから、そんなことより人を運ばせてくれ〜

梓川あづさ

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転生〜ロッカの街

第7話 オリジナルワン

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 ちょっと硬いキスをした俺とフィズは、ちょっと気まずい雰囲気になりながら馬車まで戻った。
 フィズの様子がおかしいと思ったときに馬車から離れて正解だったな。
 まさか突然人の姿になってあんな事をしてくるなんて思わなかったけど。

 馬車に戻ると、女勇者さんが意識を取り戻していた。

「そう……私たちは負けたのね」
「ああ。俺たちの十五年は……通用しなかった……」

 なんだかとんでもなく重い雰囲気になっているな。
 ここはひとつ御者として明るく声でもかけるか。

「ああ、目が覚めたんですね。よかった。体は大丈夫ですか?」
「え、変態……っ!?」
「いや、あの……御者ですけど……」

 突然そんな事を言われた俺は自分の格好を改めて確認した。
 ジャックとローズの魔法でボロボロになった服は、大事な所だけは辛うじて隠せている。
 隠せてはいるが、まぁ有り体に言えばやはり変態か。

「御者さんでしたか、すみません。ええ……まだ痛みますけどなんとか大丈夫そうです」
「それなら良かったです。このままどこかの街まで送りたいんですけど——」
「それは有り難いが、ちょっと待ってくれ」

 そんな俺の言葉を男の勇者が遮ってきた。

「それより御者さん、君は何者だい?」
「……といいますと?」
「だっておかしいじゃないか。魔族を討伐する役目を持った勇者の俺たちが手も足も出ない相手をまるで子供扱い。それにおかしな術を使ってあの醜悪なガーゴイルを人の姿に変えるなんて……」

 そういうと男勇者さんは馬車の外に立つジャックとローズを流し見る。
 と言われてもなぁ……俺は頭をかいた。

「ちょっと待って、てっきり私はあなたに助けてもらったと思っていたんだけど」
「いや、俺もコテンパンにやられたよ」

 男勇者さんは苦々しい顔をしながらそういった。

「それに外にいる人達があのガーゴイルだなんて……本当なの!?」
「ああ。この目ではっきりと見た」

 男勇者さんがそういうと、女勇者さんは俺のことを恐ろしいものでも見るような目で見てくる。
 そんな目で見られるのは……悲しいなぁ。

「うーん、そういわれても……俺は天職が【御者】なだけの至って普通の一般人ですよ」

 俺は女神様のことも転生のことも隠して、自分がただの御者であることをアピールした。
 それだというのにそれを聞いた勇者さんの眉間には深い皺が刻まれた。

「天職が【御者】? そんな天職は聞いたことがないけれど……。普通の御者は天職を持っていないか、持っていても【商人】だったりする事が多いしね」

 あ、天職っていうのを持っていない人もいるんだね。それはそれで何にでもなれるからそう悪いことでもない、のか?

「ええ、私も自分の天職が【勇者】だって知った時、他の天職も気になって調べたけど……【御者】なんていうのは天職リストに載っていなかったわ」
「つまり……君は世界で一人ずつしかなれないと言われている唯一職、”オリジナルワン”を持っている、ということなのか? それならまぁ……分からなくもない、か」

 どうやらまだ若干の引っ掛かりを覚えているみたいだけどなんとか納得してもらえそうな流れだな。
 それより【御者】って天職は俺だけしかいないのか?女神様ってばなんて物をくれたんだ。
 ただ俺としてはむしろ【勇者】って天職の方がオリジナル感あるんだけど……まぁいっか。

「な、納得してもらえました?」
「納得か……。まぁ君がオリジナルワン持ちなら納得するべきなんだろうな。それより助けて貰った礼がまだだったな。すまない、助かった」
「私の方からもお礼を。ありがとう、あなたは命の恩人よ」

 二人の勇者が俺に深々と頭を下げてくれた。
 まぁ俺としては妙な疑いをかけられなければそれでいいんだけどな。

「あと名乗るのも忘れていたね。俺はグレイズでこっちがレイアリスだ」
「あ、俺はカケルです。乗客を守るのは御者の務めですから気にしないでください。で、乗っていきますよね? どこまで送りましょう?」
「それじゃ……ロッカの街まで送って貰いたい。ここからなら一番近い人間の街だ。もちろん報酬は渡す」
「ロッカですね、わかりました。報酬はさっき貰ったのが往復分ってことでいいですよ。じゃないと乗客を守ったなんて言えなくなっちゃいますしね。それじゃ早速出発しましょう!」

 二人は頷いてくれたので、俺は客席から馬車の外に出た。
 そして外で立っていた二人に声をかける。

「おーい、出発するからお前たちも乗れよ」
「いえ、マスターに御者をさせているのに私がのんびりと乗るわけにはいきません」
「ワタクシも同じ考えです。ですので許可を頂けるのなら、ワタクシたちは空から馬車をお守りしようかと考えております」

 ジャックとローズはそういうけど、別に俺としては乗って貰って構わないんだけどな。
 まぁ俺がどうしても御者がしたかったように、こいつらもその仕事がしたいっていうことか?
 ずっと動かずに魔王城の雨樋役をしていたらしいし、分からないでもないな。
 そう納得した俺は二人に空の警戒を任せる事にした。

 魔物が近くにいる時や、俺が呼んだ時はすぐに降りてくるという約束事を決めると、二人は空に飛び立っていった。
 ああ、羽があるっていうのもいいもんだな。
 人の体に羽がついてるからすこしアンバランスな感じもするけど見た目より実用性だよな。

 二人が上空で旋回しているのを確認してから御者席に着くと、フィズはすでに馬として待機していてくれた。
 さっきのキスが恥ずかしいのかちょっと顔を背けている。
 俺は目の前にあるお尻を撫で回した。

「ひゃんっ! な、なにしているのよ!」
「んー気持ちいい手触りだ」
「全然答えになってないわっ!」

 フィズがじたばたしながらお尻をくねらせる。
 まぁフリフリしているようにしか見えないんだけど。

「ま、これからもよろしくって事さ」
「うん。……嫌いになってない? フィズ、わがままいったから」
「なってないよ。むしろ好きになる要素しかなかったけど」
「……っ!」
「心配させた俺が悪いんだよ。それよりこれからロッカって街に行きたいんだけど……」
「じゃあ……叩きなさ……た、叩いて?」
「うん」

 こうして俺はフィズの尻を鞭で叩いた。
 いつもよりうんと愛を込めたその鞭が音を立てると、心なしか嬉しそうな足取りでフィズが歩き始めた。

 さぁロッカの街へ向けて出発だ!
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