御者転生 〜俺が勇者より強いのはわかったから、そんなことより人を運ばせてくれ〜

梓川あづさ

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転生〜ロッカの街

第9話 降車後の侘しさ

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「おおっ! あれがロッカの街か?」

 俺はようやく見えてきた街の外壁を見て声をあげた。

「そ、あれがロッカよ。中には入ったことないけどね」
「じゃあ予定通りこの辺りでジャックとローズを中に入れるか」

 フィズの返事を聞くと、俺は上空の二人に対してサインを出した。
 サインというか手を大きく振っただけだけど。
 それでも二人はすぐに気付いてくれて、馬車の高さまで降りてきた。

「馬車を止めるからそろそろ中に入ってくれ」
「分かりました。しかし止めずともワタクシ達はそのまま乗り込めますのでご心配なく」
「ええ。ですが本当に乗ってもよいのですか? なんなら私が御者を代わっても……」
「おい、ジャック。口は慎め。御者は俺だけの特権だ」
「も、申し訳ありませんでしたっ! それでは馬車の中で待たせていただきます」

 ふぅ、ジャックめ。
 御者の地位を狙っているとは、なんて野心家なんだ。
 フィズの尻を叩く特権は誰にも渡さないからな!

 そういえばフィズのやつ、もう何日もひたすら馬車をひいているのによく疲れないもんだ。
 街についたら少し休ませてあげたいな、そんな事を考えていると馬車は街の外壁前まで辿りついた。
 外壁はそれなりの高さがあって、目の前には門がある。
 そしてその門は——固く閉ざされていた。

「うーん、どうやって入るんだ?」

 しばらく思案していると、外壁の上の方にある矢狭間やざまから誰何すいかの声がかかる。
 おそらくあの矢を射るための穴を見張り台代わりに使っているんだろうな。

「おいっ、そこの馬車っ! お、お前らは何者だ!?」
「俺たちは旅のものだ。門を開けて貰いたいんだが」
「領主の印が入った許可証はあるか?」
「いや、それはないが……」
「ならダメだっ! 魔王城の方から来た馬車は許可がない限り通さない決まりになっている!」

 それは困るな……そろそろちゃんとしたものを食べたいし、ベッドで眠りたいのに。
 さて、どうしようか。
 そんな事を考えていたら馬車からグレイズさんが降りてきたらしい。
 馬車の前に出て、矢狭間から顔を出す兵士に声を掛けた。

「おーい、俺だ!」
「ああっ、勇者様ッ!!」
「この人たちに途中で拾って貰って乗せてもらったんだ!」
「途中といいましても向こう側は魔族の領域しかありませんが……」
「細かい事はいいんだよ、とにかく通してくれ。こいつらに危険がないことは俺が保証する」
「で、ですが……」
「この俺が保証するんだぞ!?」

 グレイズさんがそういうと兵士は「た、ただいまっ!」といって顔を引っ込めた。
 それを見たグレイズさんは俺の方を見てウインクをバチリとかましてきた。
 ちょっと脅しが入っていたけど、訳アリそうな俺が入る為にはコレしかないと思ったのかもしれない。

 兵士が顔を引っ込めてしばらくすると重そうな音をあげながら門がゆっくりと開いた。

「よし、それじゃあ行こうか。俺もそこに乗っていいかい?」

 グレイズさんがそう聞いてきたのでさすがに嫌ですとは言えず、御者台の一部を譲った。
 まあ自分が目立つ事で文句を言わせないようにしてくれているんだろうな。
 こうして俺たちはなんとかロッカの街に入る事が出来た。

 街に入ると、兵士の人の先導に従って馬車を指定の停車場に停めた。

「カケル、ここまで乗せてくれてありがとう、そして命まで助けてくれた」
「ええ。この恩は一生忘れないわ」
「お、大袈裟ですって」
「いや、君はそれだけの事を俺たちにしてくれたよ。これはその御礼だ」

 そういってグレイズさんは俺の手に小さな宝石を握らせて、それから女物のコートを腕にかけた。
 宝石のほうは火をつける時に使っていた魔石ってやつだな。
 コートはレイアリスさんのものか。

「ダメです、もう運賃は頂いているんですから」
「いいや受け取ってもらう。これは運賃じゃなくて命を助けてもらった感謝の気持ちだ」
「うーん、それも含まれていたはずなんですけどね……じゃあ、頂きます」

 俺は渋々ながらそれらを受け取った。
 さすがに感謝の気持ちと言われたら受け取らざるを得ない。

「よかった! じゃあ私のコートはフィズちゃんにあげてね? お古だけどちゃんと”効果”はあると思うから。それにあなたの趣味だとしても、人前であの格好をさせたら可哀想だからね」

 どうやらあの裸エプロン風の格好は同じ女性であるレイアリスさんの目から見て可哀想に映ったらしい。
 趣味じゃないです!と言い返したいところだったけど、何だかんだ好きだったことは否めなかったので頷いておいた。

「俺たちはこの街を拠点にしているから何かあったら声を掛けてくれ」
「はい、わかりました」

 それからグレイズさんは少し声を抑えめにして、俺の耳に口を近づけた。

「あと、あの魔族二人の身分証を作っておいた方がいいぞ?」
「なるほど……どこで作れますかね?」
「役所だと許可されないだろうから、一番は冒険者ギルドだな。冒険者として登録すればまぁ最低限街の出入りくらいは出来るだろう」
「冒険者ギルド……ですね。ありがとうございます、後で行ってみます!」

 こうして結局、運賃+αを受け取って、俺はこの世界で初めての乗客を降ろした。
 やっぱり気があったり、会話がはずんだお客さんが降りてしまった時の物悲しさはどこの世界にいても同じなんだな。
 でもしばらくしてまた乗ってくれた時に覚えてて貰えてると嬉しいんだ。
 この世界でもそんな御者になりたい、と俺は改めて思った。

 勇者二人と別れた俺は、そのまま冒険者ギルドに向かおうと思った。
 でも馬車をどうしようか?そう思った俺は最初、ポケットに入っていた馬車の事を思い出した。
 またあのサイズに出来たら便利じゃないか?と。
 とりあえず中に乗っていたジャックとローズに降りてもらうと、馬車に手をついて小さくなれ!と念じてみた。
 こんなので小さくなるわけが——あった。
 俺が念じると、目の前にあった馬車が小さくなって、やがてポケットに入るくらいのサイズになる。
 後ろで見ていたジャックとローズ、それに馬形態のフィズまでもが驚いていた。
 そっか、フィズも小さくなっているところは見たことがなかったっけ。

「よし、それじゃあ冒険者ギルドにいこうか」

 フィズにも人間になってもらってから、四人揃って冒険者ギルドへ向かう。
 もちろんレイアリスさんに貰ったコートは着せた。
 俺はあの姿のフィズを見ていたかったけど、他の人に見られたくないしな。

 街の中心に向かって歩いていると人の目が痛かった。
 すれ違う人がみんなこちらを見てくるもんだから、人になってる三人がバレちゃっているんじゃないかと不安になるくらいだった。

 でも何度見てもやっぱりちゃんと人間に見えたから、あまり気にしないようにしてギルドを目指した。
 もしかしたら余所者に冷たい街なのかもしれないしな。

 街の中心あたりに来ると冒険者ギルドはすぐに見つかった。

「グレイズさんが剣と盾のマークっていってたし……あれだろうな」

 俺は三人を連れて、開け放たれていたギルドの入り口を潜る。
 ギルドの受付係……通称、受付嬢から叫び声が上がったのはそれとほぼ同時だった。

「キャーッ! へ、変態よー!」

 何ぃ、変態だと……?
 そんな奴、一体どこにいるんだっ!?
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