御者転生 〜俺が勇者より強いのはわかったから、そんなことより人を運ばせてくれ〜

梓川あづさ

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ロッカの街〜アイオール皇国

第24話 国境の街ロールヒル

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 さらわれていたのであろう女の子を助けてねぐらから引き上げると、盗賊のリーダー格の男が目を覚ましていた。
 リーダーは助け出された女の子を見ると叫びだしそうな顔をして、音が出そうなくらい奥歯をギリギリと噛み締めた。
 まさかこんな小さい子に欲情しないだろうし、これから身代金でも取ろうとしていたか?
 まあもう逃したりしないし、諦めてくれ。

 こうして全員を縛ったまま馬車に括り付けて歩かせる。
 さすがに盗賊を乗せるのはダメだとミルカに強く言われ、こういう形になった。
 国境の街ロールヒルまではここからあと2日ほど。
 まあ歩き続けるのもそう苦ではないだろう。

 街道に戻ってしばらく進んでいると、馬車の中から女の子が目を覚ましたことを伝えられた。
 ちょうどいい頃合いだったので俺たちは一旦休憩を取ることにした。

 女の子を寝かせていた俺の部屋に入ると、確かに女の子は目を覚ましていた。
 酷く衰弱していたのは何も口にさせてもらえなかったからだろうか。
 側についていてくれたローズが回復魔法をかけてくれていたようで、細かい擦り傷などはキレイになくなっていた。

「目が覚めたらしいな。大丈夫か?」
「……はい、助けてもらったそうでありがとうございます」

 ボロを着せられてはいるが、ゆったりと頭を下げるその佇まいは洗練されていた。
 これはそこらの村の子供ではないだろうとすぐに感じたほどだ。
 やはり身代金目的の誘拐だったのだろうな。

「腹減ってないか?」
「……お恥ずかしながら、とても空いています」
「恥ずかしがることなんてないだろう? じゃあ飯にしよう」

 少し話をしてから馬車を降りると、そこではリリアがご飯を作っていた。
 旅の最初こそ外での料理に戸惑っていたリリアだったけど、最近ではなんの問題もなく楽しそうに料理をしているから大したもんだ。
 本当は生贄の天職の事もあるし、馬車の中に居てもらいたいが、さすがに火を使った料理は馬車の中ではできない。
 それにずっと馬車の中にいるのも息が詰まるだろうから、こういう時くらいは外に出てもいいだろう。
 きちんとジャックが上空から哨戒しているし、問題はないはずだ。
 ミルカもリリア自身が料理をしたがることで諌めることを諦めたか、大人しく指示に従って手伝いをしている。


「さあ、召し上がれ」
「はい。……いただきます」

 リリアは料理が出来上がるとすぐに、捕らえられていた女の子に差し出した。
 女の子は皿を受け取ると、おずおずと口に運び入れる。

「おい、しい……です」

 女の子はそう呟くと、両の目の端に涙の雫を貯めた。
 温かい料理を食べたことで安心したのかもしれない。
 リリアはそんな女の子の頭をそっと撫でていた。
 さて、俺も飯にするか。
 ちなみに盗賊達には薄いスープだけを与えておいた。
 死なない程度でいい、というミルカの言に従った形だな。

 一通りみんなの腹が膨れたので、ここで女の子の話を聞いておこうか。

「君の家はどこにあるんだ? もし近ければ送っていくよ」

 俺がそう聞くと、女の子は顔を俯かせてポツリと呟いた。

「わたしの家は……アイオール皇国、です……」
「ほう?」

 という事はこの盗賊たちは自分たちの国でこの子をさらってからこの国に潜伏していた?
 なんのために……?まぁ通り道だし送ってあげるのもやぶさかではないか。

「じゃあ送っていってやろうか? 嫌なら次の街で降ろしてもいいが……」
「……では、お礼もしたいので乗せて行ってもらえますか?」

 女の子はハッキリとした口調でそういった。

「わかった。なら君は俺の客だ。俺は乗客を必ず守るから安心していいぞ」

 俺が安心させるようにそういうと、女の子はほっと息を吐いた。

「わたしはセフィラス=アイオライトです。セフィーとお呼びくださいませ」
「ああ。俺はカケルだ。こっちがフィズ、ジャック、ローズ。それに君と同じお客さんのリリアとミルカだ」
「皆さまよろしくお願いいたします」

 少女はそういうとスカートを摘んでカーテシーをしようとした。
 しかし自分がボロのズボンを履かせられていることを思い出して、両手をわたわたさせていた。
 その様子が微笑ましくて、俺たちは揃って頬を緩ませたのだった。


「盗賊を捕縛したから引き渡したい」

 ロールヒルに着いた俺たちは門衛にそう告げて、盗賊たちの身柄を引き渡した。
 謝礼なのか褒賞なのかはわからない金貨三枚を貰ったけど、これはおまけみたいなものか。
 盗賊たち、特にリーダーは最後まで血走った目で俺を睨んでいたけど、知ったことじゃあない。

「この街で少し休憩をしよう」

 盗賊を引き渡したあと、俺がそう提案したのは二つ理由がある。
 一つはフィズの疲れを心配したこと。
 もう一つは、この街に着く直前に馬車に新しい部屋が増えたことだ。

 ゴンザさんと話し合った結果、その部屋はキッチンにすることとした。
 心配だった排煙や排熱は高性能のコンロを買えば解決できるらしい。
 魔道具ってやつはなかなか便利なもんだな。
 ということで、俺は今その高性能コンロとやらを見に魔道具屋へきている。
 この街は国境沿いということもあって、そういった珍しい店もあるなかなか活気がある街だ。


「これはどうだ?」
「ええ、悪くはないのですが……できればもう一口あると有り難いですね」

 俺はリリアを伴って買い物をしていた。
 馬車の外にいることで多少の危険はあるだろうが、こういうのは使う人の意見が大事だからな。

「じゃあやっぱりこっちにしようか」

 そういって決めたのは金貨十七枚という店の中でもかなりお高めの魔道コンロだった。
 鍋をおけるところが三口あって、オーブン機能までついている優れものなら高額なのもうなずける。
 ついでに冷温の魔道具——つまり冷蔵庫も金貨五枚で購入するにすると二つで金貨二十枚にまけてくれた。ありがたいことだ。

「商品をどこかに送るなら別途銀貨五枚ずつかかるよ」
「いえ、大丈夫です。ここでから」

 俺はそういうと買ったばかりの商品を馬車に収納した。

「これはこれは珍しい技能をもった子だね……おや、その腰にある鞭を見せてもらえんかね?」
「ええ。いいですよ」
「……むっ!? これは……神器に勝るとも劣らない品だね……どこでこれを?」
「ちょっと縁があってある方に頂きまして。これがどういったものか分かるんですか?」

 そう尋ねると、老婆は眉間に皺を寄せてさらにしっかりと鞭を確認している。
 視ているだけで何かわかるのかね。
 そう訝しんでいると老婆は顔を上げて口を開いた。

「これは……”魔族だけ”に特別な効果があるじゃろう?」
「ええっとー? ……確かにそうかもしれません。いや、そうですね」

 店主の言葉が引き金になって俺は——思い出した。
 そういえばあの時、女神様はこういっていたのだ。

『注意しなければいけないのは、この鞭は魔族にしか効果がないということです。魔獣などの獣族には効果がありません』
『そうなんですか……魔獣相手にはどうしたらいいんです?』
『そのために身体能力を引き上げておきましたから大丈夫ですよ』
『でも馬車を使うということは馬が必要ですよね? 馬は魔族ですか?』
『魔族の馬もいるとは思いますが……まぁ馬がいそうな場所に転生させますので、そのへんは自分でなんとかしてください』
『何とかって……』
『あなたの天職はなんですか?』
『御者です』
『なら問題ないでしょう』
『そういうもんですか?』
『そういうもんです』

 ああ、確かにこんなやり取りだった。
 思い返してみると女神様は結構適当だったんじゃないか?
 たまたま近くにフィズがいたからいいものの……。
 ってことはフィズ、というかユニコーンは魔族なのか?
 なんか神聖なイメージがあるんだけどな。
 まぁよく分からないけど人間になったということはそういうこと、か。

「【鑑定人】の天職をもつワシが詳しく分からないほどの逸品じゃ、大事にしなさい」

 俺は頷いて鞭を受け取ると、腰にしっかりと仕舞い直した。
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