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アイオール皇国〜ニエの村
第46話 真っ赤な道標
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「姫……リリアをさらうっていうのはどういう……? お、おい! ミルカッ! 大丈夫かッ!?」
ミルカの放った言葉を聞いて呆気に取られた俺が正気に戻ったのは、腕に抱くミルカががくりと首を落としたからだった。
慌てて呼吸を確認すると、薄くだが、かろうじて呼気を感じる。
伝えるべきことを伝えたという安心感から、気を失ってしまったのだろうか。
「旦那様、何かありましたでしょうか……。ち、血ぃ! こ、これはっ!?」
俺の大声に気付いたか、慌ててやってきたメイドは、部屋の中で血を吐きながらぐったりとしているミルカを見て声を上げた。
「ああ、ちょうど良かった! どうやら彼女は毒を飲んでしまったらしいんだ。悪いが急いで彼女が寝られるベッドを用意してくれ! あとタオルと水もだ!」
「か、かしこまりました!」
飛び出すように部屋を出ていくメイドを見送ってからミルカへ視線を落とすと、腕の中のミルカは苦しそう口をパクパクさせている。
見るからに苦しそうなので、せめて格好だけでも楽にさせてやろうと、窮屈そうな鎧を外すことにした。
幸い今日は軽鎧といえばいいか、体の要所のみを守るような鎧で来ていたため、俺一人でもなんとか脱がせる事ができそうだ。
留め金を外して鎧を取ると、その下に着ていた薄い布の服は汗でビショビショになってしまっていた。
ペタリと体に張り付いた服の下は……どうやら何も着用していないらしい。
こ、これは早々に着替えさせてやらねばならない。
「さっきのメイドに着替えも頼んでおけばよかったか……」
そんな後悔をしていると、背後にある窓がかたんと開いた音がした。
「ん、ジャックか!?」
「はい、マスター。なにか屋敷が騒々しかったので来てみましたが……これは……っ!? し、失礼致しました!」
ジャックは汗だくのミルカを抱く俺を見ると、突然叫んで慌てたように部屋を飛び出していった。
どうやらあのバカは俺とミルカが抱き合っていると勘違いをしたようだ。
「おい、戻ってこいジャック!」
元ガーゴイルの名前を呼ぶと、やはりというべきか部屋の外で聞き耳を立てていたらしく、すぐに部屋へと舞い戻ってきた。
「何を勘違いしてるんだ! ミルカが毒を飲んで苦しんでいるんだぞ!?」
「なっ……そうだったのですか! そういう事は先に言って頂いてですね……」
「言う前に出ていっただろうが! それよりもフィズを探してきてくれないか!? それからローズも呼んできてほしい」
俺が頼むとジャックは了解しましたと短く答え、慌てたように窓枠を蹴って空へと飛び立っていった。
「旦那様、お部屋の準備ができましたっ!」
窓から飛び出したジャックと入れ替わるようにメイドが駆けてきた。
まさか飛んでいったところは見られていないだろうな……まぁ今は緊急事態だからそんなことはどうでもいいか。
「よし、それじゃあ移動するから案内してくれ。ミルカ……死なせないぞ!」
ぐったりとしたミルカを抱えて、メイドに案内された部屋へとミルカを運んでいく。
時折、弱く咳き込むミルカはその度に口の端から血を滴らせる。
それはまるで道標のようにポタポタと廊下へ赤い道を作っていった。
ミルカに充てがわれた部屋に着くと、ベッドの周りにはメイド達が数名控えていた。
この人達がミルカの世話をしてくれるのだろう。
「こちらのベッドへ寝かせてください!」
俺は部屋を仕切っているメイド長に指示され、急いでベッドへミルカを運んだ。
仰向けに寝かされたミルカの顔は土気色になっていて、状況はどんどん悪くなっているように思えた。
そんなミルカの様子を見たメイド長も顔を強張らせる。
「これは……と、とにかくまずは着替えをさせましょう!」
「お願いしますっ!」
俺が伝え忘れてしまった着替えも、メイド長はキチンと用意してくれていた。
ちょっと差別的な人ではあるけど、やっぱり仕事は出来る人なんだろうな。
「あの……着替えをさせたいのですが……?」
「えっ? お、お願いします……?」
何故かメイド長が念を押してくるが、汗をかいたままじゃ気持ちが悪いだろうから早くしてやってほしい。
「分からないのですか!? 男性のあなたは部屋を出て行ってくださいと言っているのです。それともこの女騎士様とそういった関係なのですかっ!?」
「あ、あぁっ! す、すみませんっ!」
俺はメイド長のあまりの剣幕に肝を冷やしながら、転がるように部屋を飛び出した。
廊下に一人放り出された俺がミルカにしてやれることは……祈ることくらいだ。
「ミルカ……頑張ってくれ」
そういえば初めて会った時も倒れていたんだっけ。
あれは腹が減っていただけだったからまぁ笑い話だな。
それからフィズが倒れたあの村では自分の無力さからくる不安も打ち明けてもくれた。
ただ次の日の夜にはもう晴れやかな顔をして、これから自分のやれることを探すんだって胸を張ってそう言っていた姿が瞼に浮かんでくる。
そんなミルカが……死ぬ?
リリアを止めてほしくて俺に出発時間と場所を密告したくらいで?
そんなバカバカしい話があってたまるか。
「死なせないぞ……。フィズ、早く帰ってきてくれッ!!」
——————
「ん?」
フィズはなんとなく空を見上げて小首を傾げた。
「フィズさん、どうしたんですか?」
「んー? なんか今ご主人さまの声が聞こえたような……」
「カケルさんのですか? 私には何も聞こえませんでしたが……」
「気のせい……かしら」
「いつもカケルさんのことばっかり考えてるから幻聴が聞こえるんですよ!」
「なっ……そ、そんな事ないんだからっ!」
セフィーのからかうような軽口を聞いたフィズは、たちまちその顔を紅潮させ、わたわたと顔の前で手をバタつかせた。
「あらら、図星でしたか。まぁ確かにカケルさんは優しくて頼りがいがあるし——」
「ッ!? やっぱり聞こえた!」
フィズは両腕に抱えた大きな買い物袋を、隣にいたセフィーへと強引に押し付ける。
小さな体でそれらを持つのは無理があったようで、セフィーはむぎゅっと袋に押しつぶされて尻もちをついてしまった。
「ちょ、ちょっとフィズさん……く、くるちい……」
「ごめん。でもフィズ……行かなきゃっ!」
ミルカの放った言葉を聞いて呆気に取られた俺が正気に戻ったのは、腕に抱くミルカががくりと首を落としたからだった。
慌てて呼吸を確認すると、薄くだが、かろうじて呼気を感じる。
伝えるべきことを伝えたという安心感から、気を失ってしまったのだろうか。
「旦那様、何かありましたでしょうか……。ち、血ぃ! こ、これはっ!?」
俺の大声に気付いたか、慌ててやってきたメイドは、部屋の中で血を吐きながらぐったりとしているミルカを見て声を上げた。
「ああ、ちょうど良かった! どうやら彼女は毒を飲んでしまったらしいんだ。悪いが急いで彼女が寝られるベッドを用意してくれ! あとタオルと水もだ!」
「か、かしこまりました!」
飛び出すように部屋を出ていくメイドを見送ってからミルカへ視線を落とすと、腕の中のミルカは苦しそう口をパクパクさせている。
見るからに苦しそうなので、せめて格好だけでも楽にさせてやろうと、窮屈そうな鎧を外すことにした。
幸い今日は軽鎧といえばいいか、体の要所のみを守るような鎧で来ていたため、俺一人でもなんとか脱がせる事ができそうだ。
留め金を外して鎧を取ると、その下に着ていた薄い布の服は汗でビショビショになってしまっていた。
ペタリと体に張り付いた服の下は……どうやら何も着用していないらしい。
こ、これは早々に着替えさせてやらねばならない。
「さっきのメイドに着替えも頼んでおけばよかったか……」
そんな後悔をしていると、背後にある窓がかたんと開いた音がした。
「ん、ジャックか!?」
「はい、マスター。なにか屋敷が騒々しかったので来てみましたが……これは……っ!? し、失礼致しました!」
ジャックは汗だくのミルカを抱く俺を見ると、突然叫んで慌てたように部屋を飛び出していった。
どうやらあのバカは俺とミルカが抱き合っていると勘違いをしたようだ。
「おい、戻ってこいジャック!」
元ガーゴイルの名前を呼ぶと、やはりというべきか部屋の外で聞き耳を立てていたらしく、すぐに部屋へと舞い戻ってきた。
「何を勘違いしてるんだ! ミルカが毒を飲んで苦しんでいるんだぞ!?」
「なっ……そうだったのですか! そういう事は先に言って頂いてですね……」
「言う前に出ていっただろうが! それよりもフィズを探してきてくれないか!? それからローズも呼んできてほしい」
俺が頼むとジャックは了解しましたと短く答え、慌てたように窓枠を蹴って空へと飛び立っていった。
「旦那様、お部屋の準備ができましたっ!」
窓から飛び出したジャックと入れ替わるようにメイドが駆けてきた。
まさか飛んでいったところは見られていないだろうな……まぁ今は緊急事態だからそんなことはどうでもいいか。
「よし、それじゃあ移動するから案内してくれ。ミルカ……死なせないぞ!」
ぐったりとしたミルカを抱えて、メイドに案内された部屋へとミルカを運んでいく。
時折、弱く咳き込むミルカはその度に口の端から血を滴らせる。
それはまるで道標のようにポタポタと廊下へ赤い道を作っていった。
ミルカに充てがわれた部屋に着くと、ベッドの周りにはメイド達が数名控えていた。
この人達がミルカの世話をしてくれるのだろう。
「こちらのベッドへ寝かせてください!」
俺は部屋を仕切っているメイド長に指示され、急いでベッドへミルカを運んだ。
仰向けに寝かされたミルカの顔は土気色になっていて、状況はどんどん悪くなっているように思えた。
そんなミルカの様子を見たメイド長も顔を強張らせる。
「これは……と、とにかくまずは着替えをさせましょう!」
「お願いしますっ!」
俺が伝え忘れてしまった着替えも、メイド長はキチンと用意してくれていた。
ちょっと差別的な人ではあるけど、やっぱり仕事は出来る人なんだろうな。
「あの……着替えをさせたいのですが……?」
「えっ? お、お願いします……?」
何故かメイド長が念を押してくるが、汗をかいたままじゃ気持ちが悪いだろうから早くしてやってほしい。
「分からないのですか!? 男性のあなたは部屋を出て行ってくださいと言っているのです。それともこの女騎士様とそういった関係なのですかっ!?」
「あ、あぁっ! す、すみませんっ!」
俺はメイド長のあまりの剣幕に肝を冷やしながら、転がるように部屋を飛び出した。
廊下に一人放り出された俺がミルカにしてやれることは……祈ることくらいだ。
「ミルカ……頑張ってくれ」
そういえば初めて会った時も倒れていたんだっけ。
あれは腹が減っていただけだったからまぁ笑い話だな。
それからフィズが倒れたあの村では自分の無力さからくる不安も打ち明けてもくれた。
ただ次の日の夜にはもう晴れやかな顔をして、これから自分のやれることを探すんだって胸を張ってそう言っていた姿が瞼に浮かんでくる。
そんなミルカが……死ぬ?
リリアを止めてほしくて俺に出発時間と場所を密告したくらいで?
そんなバカバカしい話があってたまるか。
「死なせないぞ……。フィズ、早く帰ってきてくれッ!!」
——————
「ん?」
フィズはなんとなく空を見上げて小首を傾げた。
「フィズさん、どうしたんですか?」
「んー? なんか今ご主人さまの声が聞こえたような……」
「カケルさんのですか? 私には何も聞こえませんでしたが……」
「気のせい……かしら」
「いつもカケルさんのことばっかり考えてるから幻聴が聞こえるんですよ!」
「なっ……そ、そんな事ないんだからっ!」
セフィーのからかうような軽口を聞いたフィズは、たちまちその顔を紅潮させ、わたわたと顔の前で手をバタつかせた。
「あらら、図星でしたか。まぁ確かにカケルさんは優しくて頼りがいがあるし——」
「ッ!? やっぱり聞こえた!」
フィズは両腕に抱えた大きな買い物袋を、隣にいたセフィーへと強引に押し付ける。
小さな体でそれらを持つのは無理があったようで、セフィーはむぎゅっと袋に押しつぶされて尻もちをついてしまった。
「ちょ、ちょっとフィズさん……く、くるちい……」
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