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アイオール皇国〜ニエの村
第54話 ニエの村
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「ねぇ、ご主人さまってば!」
「お、おお。どうした?」
「この前からボーッとしちゃって大丈夫? お城でも上の空だったじゃない。やっぱりあの時の戦いでどこか痛んでいるのかしら?」
フィズが心配そうな顔で声を掛けてきた。
心配されるのは朝起きてからこれで何回目だろう。
天職とはそういうもの……そんなミコトの言葉があれから何度も頭の中でリフレインしてしまい、ここのところ全く眠れていないのだ。
そういえば昨日、事のあらましを説明するために城を訪れた時も、眠くて眠くて仕方がなかったんだよな。
きっちり謝礼は貰ったけど、きちんと説明出来ていたのか不安だ。
「ふあぁぁぁっ……」
まとわりつく眠気を吹き飛ばすように大きな欠伸をひとつすると、フィズが微かに眉を寄せた。
口には出さなかったけど、言いたいことはなんとなく分かる。
少し視線をずらすと、椅子に座ったままそわそわとして落ち着かなそうなリリアがいた。
まぁ今日の目的地を考えればそうもなるだろう。
対照的にミルカは、腕を組んだまま、じっと虚空を見つめてボソボソと独りごちている。
あの時に飲んだ毒の影響がまだ残っているのかとも思ったけど、どうもそういう訳ではないようだ。
よくよく聞いてみると、小さい声で「母様か? いや、少し子供っぽいな……母上の方がいいだろうか……?」などと繰り返し呟いているようだった。
ミルカの母親は、ミルカがまだ幼い頃に<生贄>になってしまったらしく、名前を呼んだ記憶がないらしい。
それで会ったときに何と呼べばいいかで悩んでいるんだな。
ミルカの母親も王族の血縁者だったという事実には少し驚いたけど、お姫様の近衛を務めるにはそれくらいの身分が必要なんだそうだ。
「で、あとどれくらいで着くんだ?」
「えっと、昼過ぎには着くっていってたからもうそろそろだと思うけど……フィズ、聞いてくるね!」
フィズはそういうと、トタタという軽やかな足音を残して食堂を出ていった。
そう、今日の移動、その”足”はフィズではなくミコトだった。
ニエの村は山の中腹という非常にアクセスが悪い場所にあえて作ったらしく、飛んでいかないと何日かかるか分からないんだとか。
そこでミコトが「妾が馬車ごと運んでやろう」と言い出したのだ。
もちろんタダではない。報酬はもちろん——むすび、だ。
「ご主人さま! もう見えてきたって!」
フィズが大声でそういいながら食堂に飛び込んできたので、俺たちは降車の準備をしつつ客車へと向かった。
「やはりこの馬車はすごいのう!」
馬車を降りると、ミコトはすぐにドラゴンから少女になった。
そして興奮しながら抱きついてくる。
「ど、どういう意味だ?」
「空を飛んでおる時にの、ぎゅーっと馬車を握ってみたんじゃが……なんとビクともしなかったのじゃ!」
「おい、なに朗らかにいってんだよ! もし壊れてたら俺たちみんな転落死だろうが……」
俺が怒ると、ミコトは「あっ」とでもいうような顔をして、頬をぽりぽりと掻いた。
こいつ思いついたことはすぐにやってみよう精神が溢れすぎだろう。
「いや、それよりも! まずは服を着てくれっ!」
そう叫ぶと、ようやく自分が何も着ていない状態で抱きついているのに気付いたらしい。、
「……お主も好きモノじゃのう?」
何をいってるんだこいつは……フィズの目つきが怖いからやめてくれ。
広場の隅に建てられた小屋で、着物のような服に着替えたミコトは、俺たちの前まで歩いてくると、大きく腕を広げて誇らしげに微笑んだ。
「こほん、では改めて……ニエの村へようこそなのじゃ! ここへ客人が来るのは初めてゆえ、歓待は期待するでない!」
ミコトはそう言い切ると、大きなそれをさらに強調するかのように胸を張った。
俺たちが降り立ったのは、村の端にある少し小高い丘のような場所だった。
どうやらそこはミコト専用の発着場になっているらしく、辺りには小屋が一つあるだけの寂しい場所だった。
ただそこから見える景色に、俺は息を呑んだ。
「どうじゃ!」
嬉しそうな顔でミコトが指差す方には、美しく家々が並んでいて、まさしく村を一望することが出来た。
「こ、これはっ!」
「やはりミコト様のいうことに偽りはなかったのですね」
ミルカとリリアはその壮観な景色を見て、声を震わせた。
建てられている家の数は四、五〇軒ほどだろうか。思ったより多くの人が暮らしているようだ。
「確かに凄いな。こんな場所にこれだけの村を作るなんて普通出来ないぞ」
「じゃろ? だから妾は村が見渡せるこの場所が好きなのじゃ。人の生命とその営みが感じられるからの」
ミコトは目を細めながらふにゃりと笑った。
きっとあのいくつもの屋根の下では、<生贄>の天職を授かってしまった悲しい女性たちが、ミコトの庇護のもと、今も平和に暮らしているのだろう。
俺たちが丘の上でそんな話をしていると、村の方から数人の村人が丘を駆け上ってくるのが見えた。
「ミコト様、おかえりなさいませっ!」
「ミコさまー!」
「ミコ様っ! おかえりー」
驚いたのは、村人たちの中にまだ5、6歳くらいであろう女の子と、男の子が混じっていたことだ。
「おい、子供がいるぞ?」
「うむ。生贄の者をこの村に連れてくると、たまに子を宿している者がおっての。その母から生まれた男子がやがて村の女子と子を作る。この村ではそれを繰り返しておるから、今では何人かの子がおるのじゃ」
「はぁ……」
そこまで至るにはとんでもない時間が必要だったろうと考えたら、俺は感嘆のため息を吐くことしか出来なかった。
「ミ、ミコトさまっ! その人達は一体……!?」
丘を登り切った村人の一人が俺たちに気付いて、足を止めた。
その顔には困惑と……それと恐怖がありありと浮かんでいた。
「まぁそう警戒するでない。どうしてもこの村を見たいというのでな、連れてきたのじゃ。ほれ」
ミコトはそういうとリリアの背中をぽんと押した。
「あ……えっと、はじめまして……」
リリアは、一歩前に出ると村人たちに挨拶をした。
「……!? あなたまさかっ! リリア……様!?」
どうやらリリアの顔を知る人がいたらしい。
少しふくよかなその婦人は、リリアの元へ駆け寄り、その顔を撫でる。
「懐かしいねぇ。最後にお顔を見たのは九つくらいの頃だったかしら? こんなに美人さんになって……」
「も、もしかして……ロズリンダおばさま!?」
「あら、覚えてくれていたなんて」
そういうと、ロズリンダと呼ばれていた女性がリリアの手を取った。
「それにしても、何故こんな遠くにきたんです?」
「実は、私も<生贄>の天職をいただきまして」
「ああ……それはそれは。さぞや大変だったでしょう。けれどここに来たならもう安心ですよ。リリア様もこれからはこの村で暮らすんですよね?」
「え……ええっと……」
リリアの視線は中空をせわしなく彷徨い、そして最後に俺へと視線を向けてきた。
これからどうしたらいいか、か。
きっと馬車に閉じ込めておけば、一緒に旅をする事は出来るだろう。
でも、それは果たしてリリアにとって幸せなのだろうか?
……俺にはとても答えが出せそうもない。
「リリアが決めていいぞ」
俺は卑怯にもそういうと軽く|俯(うつむ)いた。
リリアはしばらく押し黙ったあと、口をきゅっと結び、ぺこりと頭を下げた。
「ロズリンダさん、そしてみなさん……これからよろしくお願いします」
そうか、リリアはここを終点に決めたのか。
本当はあの日一度降ろしたはずのリリアと、また数日だけでも一緒にいられたんだから喜ぶべきなんだよな。
それなのに……このただひたすらに寂しい気持ちはなんなんだろうか。
やはり俺の本音はずっと一緒に旅をしていたかった、という事なのか。
一国の王女にそんなことを思うなんて、分不相応だって自分でもわかっているさ。
それにこれはリリアが自分自身で決めた事。
だからしっかり送り出そう。
リリアとミルカの幸せと、息災を願いながら、送り出すんだ。
「リリア、それにミルカ……長い間、ご乗車ありがとうございましたっ!」
* * * * * *
リリアとミルカは、ミコトに運ばれて小さくなっていく馬車を見つめていた。
やがて山の稜線に隠れて見えなくなると、やがてミルカが口を開いた。
「姫様、差し出がましいのですが……」
「なあに、ミルカ。と、いっても大体わかっているけれど」
「なぜこれからも乗せてくれと言わなかったんです?」
「……言えません、そんなこと。<生贄>としての責務はなくなったとしても……それでもやっぱり魔獣を呼んでしまうのは変わらないもの。あの人たちに……いえ、あの人に迷惑はかけられないわ」
リリアは握りしめた拳を震わせながら、なんとか言葉を紡いだ。
「へぇ、いつの間に好きになっちゃったんですか?」
「べ、別に好きだとかいっていないでしょう!?」
「分かりますよ。ずっとお側にいるんですから」
「……はぁ、もう! じゃあ逆に、ドラゴンに食べられそうな時、自分の身を挺して助けに来てくれた人に惚れない子がいるの?」
リリアは顔を真っ赤にしながら、ある意味では好きになってしまった言い訳をした。
「うーん、そうですね。私でもクラッときちゃうかもしれません」
「でしょ? でも本当は……もっとずっと前。会った時から好きだったのかも。あの時もキングボアから助けてもらって……」
「じゃあ何で胸に飛び込んでいかなかったんですか?」
「だって、あの人の胸の中にはもういるじゃない。ピンクの可愛らしいお馬さんが」
だから諦める。
リリアはそんな言葉を絶対に口にしなかった。
「いつかまた会えたらその時はきっと……」
空を飛んで行ってしまった不思議な馬車の、その見えない轍を、リリアは指でそっとなぞったのだった。
「お、おお。どうした?」
「この前からボーッとしちゃって大丈夫? お城でも上の空だったじゃない。やっぱりあの時の戦いでどこか痛んでいるのかしら?」
フィズが心配そうな顔で声を掛けてきた。
心配されるのは朝起きてからこれで何回目だろう。
天職とはそういうもの……そんなミコトの言葉があれから何度も頭の中でリフレインしてしまい、ここのところ全く眠れていないのだ。
そういえば昨日、事のあらましを説明するために城を訪れた時も、眠くて眠くて仕方がなかったんだよな。
きっちり謝礼は貰ったけど、きちんと説明出来ていたのか不安だ。
「ふあぁぁぁっ……」
まとわりつく眠気を吹き飛ばすように大きな欠伸をひとつすると、フィズが微かに眉を寄せた。
口には出さなかったけど、言いたいことはなんとなく分かる。
少し視線をずらすと、椅子に座ったままそわそわとして落ち着かなそうなリリアがいた。
まぁ今日の目的地を考えればそうもなるだろう。
対照的にミルカは、腕を組んだまま、じっと虚空を見つめてボソボソと独りごちている。
あの時に飲んだ毒の影響がまだ残っているのかとも思ったけど、どうもそういう訳ではないようだ。
よくよく聞いてみると、小さい声で「母様か? いや、少し子供っぽいな……母上の方がいいだろうか……?」などと繰り返し呟いているようだった。
ミルカの母親は、ミルカがまだ幼い頃に<生贄>になってしまったらしく、名前を呼んだ記憶がないらしい。
それで会ったときに何と呼べばいいかで悩んでいるんだな。
ミルカの母親も王族の血縁者だったという事実には少し驚いたけど、お姫様の近衛を務めるにはそれくらいの身分が必要なんだそうだ。
「で、あとどれくらいで着くんだ?」
「えっと、昼過ぎには着くっていってたからもうそろそろだと思うけど……フィズ、聞いてくるね!」
フィズはそういうと、トタタという軽やかな足音を残して食堂を出ていった。
そう、今日の移動、その”足”はフィズではなくミコトだった。
ニエの村は山の中腹という非常にアクセスが悪い場所にあえて作ったらしく、飛んでいかないと何日かかるか分からないんだとか。
そこでミコトが「妾が馬車ごと運んでやろう」と言い出したのだ。
もちろんタダではない。報酬はもちろん——むすび、だ。
「ご主人さま! もう見えてきたって!」
フィズが大声でそういいながら食堂に飛び込んできたので、俺たちは降車の準備をしつつ客車へと向かった。
「やはりこの馬車はすごいのう!」
馬車を降りると、ミコトはすぐにドラゴンから少女になった。
そして興奮しながら抱きついてくる。
「ど、どういう意味だ?」
「空を飛んでおる時にの、ぎゅーっと馬車を握ってみたんじゃが……なんとビクともしなかったのじゃ!」
「おい、なに朗らかにいってんだよ! もし壊れてたら俺たちみんな転落死だろうが……」
俺が怒ると、ミコトは「あっ」とでもいうような顔をして、頬をぽりぽりと掻いた。
こいつ思いついたことはすぐにやってみよう精神が溢れすぎだろう。
「いや、それよりも! まずは服を着てくれっ!」
そう叫ぶと、ようやく自分が何も着ていない状態で抱きついているのに気付いたらしい。、
「……お主も好きモノじゃのう?」
何をいってるんだこいつは……フィズの目つきが怖いからやめてくれ。
広場の隅に建てられた小屋で、着物のような服に着替えたミコトは、俺たちの前まで歩いてくると、大きく腕を広げて誇らしげに微笑んだ。
「こほん、では改めて……ニエの村へようこそなのじゃ! ここへ客人が来るのは初めてゆえ、歓待は期待するでない!」
ミコトはそう言い切ると、大きなそれをさらに強調するかのように胸を張った。
俺たちが降り立ったのは、村の端にある少し小高い丘のような場所だった。
どうやらそこはミコト専用の発着場になっているらしく、辺りには小屋が一つあるだけの寂しい場所だった。
ただそこから見える景色に、俺は息を呑んだ。
「どうじゃ!」
嬉しそうな顔でミコトが指差す方には、美しく家々が並んでいて、まさしく村を一望することが出来た。
「こ、これはっ!」
「やはりミコト様のいうことに偽りはなかったのですね」
ミルカとリリアはその壮観な景色を見て、声を震わせた。
建てられている家の数は四、五〇軒ほどだろうか。思ったより多くの人が暮らしているようだ。
「確かに凄いな。こんな場所にこれだけの村を作るなんて普通出来ないぞ」
「じゃろ? だから妾は村が見渡せるこの場所が好きなのじゃ。人の生命とその営みが感じられるからの」
ミコトは目を細めながらふにゃりと笑った。
きっとあのいくつもの屋根の下では、<生贄>の天職を授かってしまった悲しい女性たちが、ミコトの庇護のもと、今も平和に暮らしているのだろう。
俺たちが丘の上でそんな話をしていると、村の方から数人の村人が丘を駆け上ってくるのが見えた。
「ミコト様、おかえりなさいませっ!」
「ミコさまー!」
「ミコ様っ! おかえりー」
驚いたのは、村人たちの中にまだ5、6歳くらいであろう女の子と、男の子が混じっていたことだ。
「おい、子供がいるぞ?」
「うむ。生贄の者をこの村に連れてくると、たまに子を宿している者がおっての。その母から生まれた男子がやがて村の女子と子を作る。この村ではそれを繰り返しておるから、今では何人かの子がおるのじゃ」
「はぁ……」
そこまで至るにはとんでもない時間が必要だったろうと考えたら、俺は感嘆のため息を吐くことしか出来なかった。
「ミ、ミコトさまっ! その人達は一体……!?」
丘を登り切った村人の一人が俺たちに気付いて、足を止めた。
その顔には困惑と……それと恐怖がありありと浮かんでいた。
「まぁそう警戒するでない。どうしてもこの村を見たいというのでな、連れてきたのじゃ。ほれ」
ミコトはそういうとリリアの背中をぽんと押した。
「あ……えっと、はじめまして……」
リリアは、一歩前に出ると村人たちに挨拶をした。
「……!? あなたまさかっ! リリア……様!?」
どうやらリリアの顔を知る人がいたらしい。
少しふくよかなその婦人は、リリアの元へ駆け寄り、その顔を撫でる。
「懐かしいねぇ。最後にお顔を見たのは九つくらいの頃だったかしら? こんなに美人さんになって……」
「も、もしかして……ロズリンダおばさま!?」
「あら、覚えてくれていたなんて」
そういうと、ロズリンダと呼ばれていた女性がリリアの手を取った。
「それにしても、何故こんな遠くにきたんです?」
「実は、私も<生贄>の天職をいただきまして」
「ああ……それはそれは。さぞや大変だったでしょう。けれどここに来たならもう安心ですよ。リリア様もこれからはこの村で暮らすんですよね?」
「え……ええっと……」
リリアの視線は中空をせわしなく彷徨い、そして最後に俺へと視線を向けてきた。
これからどうしたらいいか、か。
きっと馬車に閉じ込めておけば、一緒に旅をする事は出来るだろう。
でも、それは果たしてリリアにとって幸せなのだろうか?
……俺にはとても答えが出せそうもない。
「リリアが決めていいぞ」
俺は卑怯にもそういうと軽く|俯(うつむ)いた。
リリアはしばらく押し黙ったあと、口をきゅっと結び、ぺこりと頭を下げた。
「ロズリンダさん、そしてみなさん……これからよろしくお願いします」
そうか、リリアはここを終点に決めたのか。
本当はあの日一度降ろしたはずのリリアと、また数日だけでも一緒にいられたんだから喜ぶべきなんだよな。
それなのに……このただひたすらに寂しい気持ちはなんなんだろうか。
やはり俺の本音はずっと一緒に旅をしていたかった、という事なのか。
一国の王女にそんなことを思うなんて、分不相応だって自分でもわかっているさ。
それにこれはリリアが自分自身で決めた事。
だからしっかり送り出そう。
リリアとミルカの幸せと、息災を願いながら、送り出すんだ。
「リリア、それにミルカ……長い間、ご乗車ありがとうございましたっ!」
* * * * * *
リリアとミルカは、ミコトに運ばれて小さくなっていく馬車を見つめていた。
やがて山の稜線に隠れて見えなくなると、やがてミルカが口を開いた。
「姫様、差し出がましいのですが……」
「なあに、ミルカ。と、いっても大体わかっているけれど」
「なぜこれからも乗せてくれと言わなかったんです?」
「……言えません、そんなこと。<生贄>としての責務はなくなったとしても……それでもやっぱり魔獣を呼んでしまうのは変わらないもの。あの人たちに……いえ、あの人に迷惑はかけられないわ」
リリアは握りしめた拳を震わせながら、なんとか言葉を紡いだ。
「へぇ、いつの間に好きになっちゃったんですか?」
「べ、別に好きだとかいっていないでしょう!?」
「分かりますよ。ずっとお側にいるんですから」
「……はぁ、もう! じゃあ逆に、ドラゴンに食べられそうな時、自分の身を挺して助けに来てくれた人に惚れない子がいるの?」
リリアは顔を真っ赤にしながら、ある意味では好きになってしまった言い訳をした。
「うーん、そうですね。私でもクラッときちゃうかもしれません」
「でしょ? でも本当は……もっとずっと前。会った時から好きだったのかも。あの時もキングボアから助けてもらって……」
「じゃあ何で胸に飛び込んでいかなかったんですか?」
「だって、あの人の胸の中にはもういるじゃない。ピンクの可愛らしいお馬さんが」
だから諦める。
リリアはそんな言葉を絶対に口にしなかった。
「いつかまた会えたらその時はきっと……」
空を飛んで行ってしまった不思議な馬車の、その見えない轍を、リリアは指でそっとなぞったのだった。
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