異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第一章 王国編

第25話 旅立たされる日

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 魔族領に行きたくなさ過ぎて、酒場で飲み食いしまくったら二日酔いが心配だったがこの国には良い薬があるのでこれを飲むと二日酔いになる事はまずない。二日酔いになることなく朝を迎えたのだが、今日は実に憂鬱だ。

 そう、魔族領に行くために準備を進めろというのだ。せっかく、天界のような国に来たと思ったのにまたあの地獄のようなところに行かなければならないとなると気が重い。前の世界の記憶が蘇ってくる。

 何も良い事のない毎日があり、何も報われない、癒してくれる恋人がすぐに必要なのに自分が癒されて良い状態にならないと現れないという矛盾。全てが悪循環になっていて暗い、天気の良い晴れた日に外に出ても陰鬱な世界に見えていた。

 だからこそ、魔族領に行きたくない。本当に行きたくない。だが、もう止められそうもない。なので今日は装備を整えないといけない。

 そう思ったが、既に衛兵が全て用意して持ってきたので何を準備すればいいのか分からないが、ファンタジー世界の遠征と言えばアウトドア用品がないとやってられないだろうと思ったのだが、キャンピングカーみたいな馬車に食材は足りないものがあればこの国とポータルで繋がるからそこから取り出して使えばいいし、料理されたものを送ってもらう事も出来るという。

 じゃあ、何を準備するのか? と思っていたがすっかり忘れていたのがソフィアの領地の店の仕入れの事だ。交渉時には物との交換だったり、金との交換だったりするが物との交換が圧倒的に多いらしい。

 なので欲しがりそうなものをどこからか仕入れないといけないのでそれらしい店を見て回ろうと思ったが、ここは王都なので提携出来そうな店があっても領地の店と提携させるのが更に面倒である。

 もう何をする気も起きて来なくなったので旅先のキャンプ地で食べる食事の調味料とかを城の厨房から漁る事にした。

 多分、敵地で狩った獲物とかを料理するだろうから味噌みたいなものとか、臭みを取る酒とか玉ねぎとかその辺を把握しておけばアウトドア気分でビールを飲みながら美味い料理を食べて満点の星空をソフィアと眺めるとか出来るかと思った。

 料理人に聞きながら、これをさばいた獲物の肉にこう使って……と説明すると、この国の料理法とは違うらしく出来たらポータルで送ってくれと言っていた。なので、こちらが忙しい時は作って送ってくれと言ったら快く送ると言ってくれたので今後は彼も頼りにしようと思う。

 厨房での用事が済んだので、馬車の使い方とか馬は何が来るのかとかを確認しに行ったら前の訓練の時にいた馬が来る事になったという。本人の希望でもあるようで、何か分からないが気になるのでライリーでも乗せてやると言っていたらしい。何が分からないのかは不明だが思いのほか自由な馬なのかもしれない。

 女王陛下が謁見をするようにとのことで、貴族も集まり仰々しい謁見となった。そこではこの国特有の変わった儀式なのか、貴族が一族ごとに宣誓のような事を言っていた。

「我が、エドワーズ家は、世のため、人のため、世界平和のために寄する事を誓う。神のお力が全人類に降り注がれ、愛と善に満ちた世とならんことを」

 これを言葉は多少、一族ごとに違うが宣誓していった。元いた世界にもこれほどに出来た貴族たちがいればどれほど良い世の中になっただろうと思う。
 そして、この宣誓式は何の意味があってしているのかと尋ねると大規模な作戦や進軍をする際に行われるのだという。

 そんな大規模攻勢をするのかと言うとそんな事をしたら戦争になってしまってより魔族領から招きたい人間を連れて来られなくなるのでそれはないと言っていた。
 今回の作戦が長期に渡り実施されるもので、予言の出来るプリーストによればかなりの成果を挙げられるのだという。

 その中心人物の一人にライリーが居るのだというが、そういう事を言ってほしくない人間だという事は分かっていたので今まで黙っていたし、これからも圧をかけたり期待させたり、脅したりとかはしないという。

 前の世界でもいつの間にかそんなポジションにされて失敗したら責任を押し付けられたりしていたのでそれも言い訳にして魔族領に行く事に抵抗することも見えていたのだという。

 用意周到すぎるのはこの国の良くないところかもしれないと思ってしまうが、前の世界より進んだ世界のような感じなのでそういうものかもしれないと納得するしかない。最後に女王陛下が言った。

「ライリー。よくぞ魔族領行きを決心……してはなかったかもしれないけど、行く気になってくれて良かったわ。今回の作戦は魔族領の街へ潜入してこちらへ引き入れたい人物と接触し、この国に来る意思がある人間は担当に引き渡して徐々にこちらへ来させる事。
 もう一つは、どうしても倒すしかない敵を始末すること。この国ではなるべく敵も生かすものなのだけれど倒す以外に選択肢のない相手は倒すしかないわ」

「我が王よ。ついにこの日が来てしまいました。何度も行かなくてもいいように言ってきたつもりなのですがやはり行く事になってしまいました。
 夢に出てくる聖女もどうしても行くしかないみたいに言っていましたし。自分ではどうにも出来ない問題だったのかもしれません」

「そういうものもあるわね。どうやっても自分の運命で変えられないものはある。例えば私は女王になっているけど、もし、女王になるのが嫌だからと別の者をあてがっても果たしてそれで女王になる事を避けられていたのか。
 もし、どうしても避けられない事なら別の人間をいくらやっても用意できなかったり別の者が女王になった途端に何かがあって退陣しなければならなくなったり。それは誰にも分からないことでもあるの」

「運命とは残酷なものです。とはいえ、前の世界に比べればはるかにマシですが」

「そうでしょうとも。あなたの前の世界のように魔法も助け合いもなければ本当に地獄だわ。それはこの世界の住人だから言える事だけれど」

「前の世界ではこういう日は旅立つために武器とかお金とかを用意してほしいというものでしたが既に十分すぎるほどあるので、これといって何を用意してほしいとかは思いつきません」

「転送ポータルもあるし、なるべく要望には答えるように部下にも伝えてあるわ。どうにも嫌になって帰ってきたい場合もすぐ帰れるようになっているし、特に不満も出ないようにしてるつもりよ」

「それはありがたいのですが、本当に生きて帰れるのでしょうか?」

「まず大丈夫だと思うわ。後は実際に行ってみる事ね。前の世界よりは大分、マシな条件だから思ったほどは悪くないと思うわ。中枢は本当に地獄なのでこれは慣れてからね。
 それに安心してほしいのは中枢に行く時は出来る限りのサポートをするし、中枢部はどうやっても改善できない所なの。悪意のある人間が一瞬で消滅する事はないから」

「はい。存じております。では陛下、これより出立します故、国に帰ったら……」

「それ以上は言ってはダメよ。縁起が悪いから」
「わかりました。では行って参ります。善き世界のために」

「善き世界のために」

 この挨拶が合っていたのかどうかは分からないが、多分、合っていたのだろう。多くの貴族、王族に見送られ、ついに魔族領へ向かう事になった。


※ 第一章、王国編はここまでで、以降は第二章、魔族領編になります。
魔族領編からは冒険活劇となりますが、この王国編こそこの物語の本質についてを語っています。
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