異世界に招かれしおっさん、令嬢と世界を回る

いち詩緒

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第二章 魔族領編

第27話 お人好しな商人

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 翌朝、雨の降りしきる中、商館に向かったライリーは密輸に関わっているという商人の元へ向かう事にした。蒸し暑さが判断力を鈍らせそうになる。
 前の世界でも湿度がやたらと高い町で嫌な目に遭った事があるのでそれが思い起こされる。しかも湿度の高い海浜都市だったので尚更である。

 まあ、あそこよりこの街が大分マシな場所というのは分かる。あの場所は今や、よそ者は近づきたがらないところになった。もうあんなところは見たくもないと思うほどだった。

「ソフィア。今回は俺と二人で潜入し、取引を持ちかける。そして俺の予想が合っていれば慈善活動をしている時に何らかの不都合が生じているはずだ。それも探りを入れる」

「分かったよ、ライリー。私は領地のためになるものを仕入れさせてほしいと言う話をしたらいいのかな?」

「そんなところだ。今は性格や人となりも分からないからまずは世間話からだ。じゃあ行くぞ」

 ノックをして商人が居ないかと尋ねるといたようで、ドアを開けてくれた。

「こんにちは。今日はどのようなご用でしょうか?」

「はじめまして。私はライリーと申します。こちらはソフィア。王国、エドワーズ領の領主の娘です。私は異世界から転移して参りました」

「転移者の方とは珍しい。異世界の貴重な品をお持ちであれば買い取らせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」

「いえ。私は酔って道を歩いていると扉が現れてそれをくぐったらこの世界に来たので着の身着のままというところです。
 この通信端末に似たようなものは持っていましたが、この世界のものより性能も機能も劣ります。価値はないでしょう」

「なるほど。珍しいもの好きな人に販売するにしてもこの地ではそういったものに価値を見出す人は少ないでしょうね。もっと魔族領の中枢に近いところでないと」

「やはりそうでしたか。ところであなたは善なる商人であるお方だと聞きました。恵まれない人のために炊き出しをなさっているとか?」

「実は私も貧しい家の生まれでして。食べるものにもありつけず困っている人を見過ごしては居られないものでして」

「ですが、この街の福祉は私が前に居た世界の国より大分、良いように思えますがどうして炊き出しが必要なのでしょうか?」

「それは王国のようにすぐに手を差し伸べる事が出来るわけではないからです。この領地ではまだ貨幣経済が主で困窮者を助けるにも金が必要です。
 その金もどこからか工面しないといけない。王国のように無くてもいいようなものではないのです」

「なるほど。そのために、商売をしつつ王国との取引をなさっているわけですね?」

「そういう事です。それにこの街で困っている人の大半は魔族領の奥地から来た人なので仕事に就こうにもこの街だと彼らにとっては仕事内容が高度過ぎて中々、就けないという問題があります。
 漁師になればいいじゃないかという人もいますが、いつも人が足りているのでアテがないわけです」

「それは困ったものですね。私も慈善活動は必要なものだと分かっているのですが前の世界で居た国では嫌がらせをしている人間も多く、そのせいで活動をやめてしまう人もいました。あなたはそれは大丈夫ですか?」

「お気遣いありがとうございます。実は、炊き出しをする度に私の扱う商品の値段が上がっていて取引に支障が出てきています。このままでは王国領からの要求分が用意できないようになるのも時間の問題かと思われます」

「私の前に居た世界ではそういう悪意ある人間がどこにいるのかを特定する場合にある方法をとっていたのですが、凡その見当はついているのですか?」

「まあ、商売敵の商人ではないかと思っています。慈善活動が出来るほど儲けているとか僻んでいると聞いたことがあります」

「確かにそういう低俗な人間がまず目立つのですが、実行犯は大抵、身近な人間である事が多いです。炊き出しに協力してくれている人で怪しい人はいませんか?」

「そうですねえ。みなさん食材も提供してくれるし、どこで炊き出しを開催するかを困っている人に教えてくれる人もいますし、よくわかっていないのです」

「ああ。そのどこで開催するのかを教えている人が相当、怪しいですね。その人はどこかの商会の関係者ではありませんか?」

「はい。この商会と提携している商会の人で比較的、立場が上の人です」

「では、その人が炊き出しに実際に来ている日の前後に何かありませんでしたか?」

「言われてみれば、主要取引先が王国領との商品の在庫が急に減った事があったような?」

「となるとまずその人が怪しいですね。こういう時に有効な方法があります。それは重要そうな情報。例えば何を何日頃に取引するかという情報とかですね。この情報は偽の情報で、各グループに分けて流してください。
 まず、その商会の人。次に炊き出しに協力してくれている人のグループで自分と近い立場の人のグループ。次に炊き出しに来て食事を受け取っている人のグループ。次に飲み友達とかの友人のグループ。
 これらのグループに情報を流して、決して誰にもこの事は言わないようにしてください」

「誰も信用していないようで心苦しいのですが、家族や親友にも話してはいけませんか?」

「いけません。信用が出来る人が誰かに騙されている可能性があるからです。友人の友人の友人も絶対に信用できると思いますか?」

「確かにそう言われれば、仕方ないのかもしれません」

「そういう事です。私は前の世界でこの方法で悪評の流布の元凶になっている人物を特定しました。案の定という人物で、実行犯も身近に居ました。
 その商売敵という人は多分、直接、悪評を流す実行犯で、元凶に居るのはその他の商会の商人でしょう」

「……わかりました。その方法をとってみましょう。しかし、どうしてあなたはそこまで教えてくださるのですか?」

「私も前の世界で苦しめられたからあなたの痛みが分かるつもりです。悪人は善人を悪人に仕立て上げて喜ぶ。そして利用する。自分は善人を気取って悪事をする。
 そんな嫌な世界に居たんです。そしてそんなちょっと考えれば分かる程度の悪意も見抜けない世の中にも嫌気がさしていました」

「ところで、その上位の商人なのですがどうして悪評を流すのでしょうか?」

「あなたが扱う何らかの商品を独占したいか、または別の目的があるかといったところでしょう。何はともあれ、一旦、誰が悪評を流しているのか特定しましょう。
 誰が噂を流しているのか特定しない事には目的もはっきりしませんからね」

「なるほど。もし別人ならまた違う理由になるというところですか」

「そうです。ところで、このソフィアの領地では魔族領と取引をして商品を卸している店があるのですがあなたもどうですか?」

「いいですね。何をご所望でしょうか?」

「ちょうどサンゴとかのこの街で取れそうなものがあったと思うので、この件が解決したら改めて商談といきましょう」

「わかりました。その際はどうぞよろしくお願いいたします」
「さて、情報を流すタイミングですが、いつにしますか?」

「明日、炊き出しを行うのでその時に流そうと思います。私の仲間のグループであれば既に下の階と上の階に居るのですぐにでもできます。次の商談は三日後にあるので結果は早く出るかもしれません」

「ところで盗聴の心配はありませんか?」

「この部屋は商談にも使いますから対策として魔道具を設置しています。多分、大丈夫でしょう」
「それはよかった。では四日後にお伺いしようと思いますのでご武運をお祈りします」

「ええ。お待ちしております」

 商人と話をつけたライリーは商館を後にしたのだった。
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