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神様の願い 魔王の願い

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「加藤さんのしたいことってないんですか?」ななは尋ねる。


本当は、加藤の心が掴めないと思ったのだった。


普通の男だったら、かわいい女の子に慕われて
我が物ともせず、10年待とう、などと言う
のは、ななの想像を超えている。


でも、1970年代あたりでは、それが
当たり前だった。


男女の結び付き、それ以前に
人間としての結び付きを大切に考えていた。


それは、人種も性別も超えて、と言う事だ。




「僕には、母がいるんです。母は、父と兄を
同時に無くして心の拠り所が無くなっている。今、僕がゆりの元に走れば、喪失感が大きいだろう。」



加藤は、ななの聞いた事のある言葉を放つ。


そう、並列世界に旅立ったもうひとりの加藤が
言った言葉だった。


彼は、ゆりと、母の
協調を見届けてから
そちらに旅立ったのだけど。

こちらの加藤は、それを見極めるよりも

もう少し、慎重なようだ。



「本当はうんざりですけどね。でも

家族って助けないと。昔なら
隣近所があったり、会社の上司や仲間があった。
今は、どちらもない。

会社も、派遣、なんて制度のせいで人間的結び付きは薄いし」と、加藤が言うと



「そうでしょうか」背後から加藤に声を掛けた
不思議に柔和な微笑みを持った初老の大男。


加藤に微笑んでいる。


加藤は、彼を尊敬しているらしい。


この研究所の理事、らしい。

平服だが、折り目正しい雰囲気。



「わたしは、加藤さんの人格を信頼しています。呼び戻したのも異例の事で、普通は
出て行った人が戻る事はない。
そういう例もありますね、派遣でも」と
彼は柔和にそう言った。


大男らしい、揺らぎのない堂々とした雰囲気はどことなく加藤にも似ている。


加藤は、ありがとうございます、と
礼を述べた。

ななと、ジョナサンも

自然と頭が下がる。



人格に魅力があれば、自然と尊敬されるもので


威張る必要などないものだ、と
ななも実感した。





静かに去っていく理事、を
加藤は視線で追い


「あの方と、もう長い付き合いになるね。
事ある度に呼んで貰えて。人柄が信頼できるから、どんな事でも素直に従える。
人の付き合いってそういうものだと
僕は思うんだ」加藤はそう言った。


昔は、みんな年長の人はそうで

従っていれば楽だった。


それが壊れたのは、年長の人が
自分の利益をまず考えるように
変わったから、だった。
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