タビスルムスメ

恵とお兄ちゃん

恵は・・・のんびり朝。

自分の部屋は、鉄筋コンクリート１２階建ての８階。駅の傍だから
安全だし遅刻もない。

けれども、なんとなく・・・落ち着かない。

揺れる、のだろうか。
それと、音がいつも何かしているのが・・・都会なんだろうけど。


そういうものがないと、ゆっくり眠れるな・・・。そう思う恵だった。


そうは言っても、あんまり音がしないのも・・・。

「落ち着かないものね」と恵は思う。

夜は真っ暗闇で、当たり前だけど。
何か、出てきそうな。そういう怖さがある。

「こういうところで育つと、真由美ちゃんみたいに控えめになるのかな」
なんて。

何か、怖いものがいるかもしれない。そういう身構えがあるような。


恵のように、どちらかと言うと都会に近いような市街地で暮していると
怖いことってそんなにないから。

「まあ、仕事帰りにウィスキー飲んで酔っ払って」なんてふうになったりする。


思えば、あれも・・・・真由美ちゃんが一緒だから、車掌が知り合いだから。
そういう甘えがあったのかな、なーんて思う。


「怖れ」も必要なのかな。

そんな風にも思ったり。でも

「いいんだ、私はわたし。」

そう思う恵だった。

・・・とは言え、真由美ちゃんが出かけちゃったので
日光家に居るのも、なんとなく心苦しい（＾＾；


ので。「そうそうに引き上げるかな」と。
寝巻きから着替えて。着てきた服に。

「ちょっと臭いなぁ」なんて思いながら（笑）。

お布団を畳んで、仕舞おうと。

押入れを開けるとまた、「どどどど・・・。」と
ガラクタが落ちてくるだろうと、身構えて。


「えーと、あの時開けたのは」こっちの押入れだったかな。


と、違う押入れを開けた。


どどどどど・・・。（＾＾）。


こっちも、ガラクタが一杯だった。「どーなってるの、この家！」と。

ガラクタに埋もれて怒る恵だった。（＾＾）。




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一方のお兄ちゃんは・・・・。
既に、朝４時に起きて、５時から乗務。

いつもの熊本機関区で、アルコール、携行品チェック。それから点呼。

「３Ａ、日光、０５１５出発、点呼お願いします。」


指令は「本日は雨天である。視界不良の予想。十分に注意すべし。」


お兄ちゃんは「了解」と、行程表に印鑑を押した。



そこからは、和やかに「悪いねぇ、休みのところ」と、指令。

お兄ちゃんは「いえいえ、ずれるだけだし」


後になって公休公休、と取れるのだから（＾＾）。却っていいかもね。
そんな風にも思った。



それから、携行品を持って・・・。これは、電車の運転士と似たようなものだ。

自分専用のキー。これは、ひとり立ちした時、先輩から譲り受けたものだ。
長年使われて、あちこち磨り減っているが
輝いている。

これが、機関士の誇りの象徴、そんなふうに思うお兄ちゃんだった。



貨物ターミナル駅に歩いていき
鹿児島から来る機関車を待った。



０５：００．


すこーしだけ、貨物列車は余裕を持って走る。
途中で何があるか解らないし、電車が遅れると
そちらが優先になる。

だから、夜間走行が多いのだ。



遠くから・・・二条の黄色っぽい白熱灯が光るのが見えた。


「あれか」と、お兄ちゃんはにっこり。
貨物ターミナルなので、傘は差さないでいい。
それも、良かった。


機関車が近づく。風が、すぅ、と巻き込む。
前面が真っ平らなので、空気が押されて、側面に巻き込む。

しゅー・・・、と言うブレーキの音。

電気ブロワーの音が聞こえる。高圧回路を冷やしているのだ。



交替の機関士が、ブレーキを非常位置にし、鍵を抜く。
携行品を持って、ひょい、と降りてくる。


形式では一応敬礼するが、貨物だし、誰も居ない早朝。
顔見知りなので挙手だけ。「ご苦労さん」「はいよ」

にっこり。


ホントなら「異常なし」とか言うのだけど・・・。





それから３時間少し。


機関車に乗って、快調に鹿児島本線を北上しているところだった。

いつもと少し違う行路なので、慎重に、慎重に。


もうすぐ、福岡貨物ターミナルに着くあたり・・・。
線路が入り組んでいるので、入線する線路の信号を見間違えないようにしないと
ならない。

何度か来てはいるが、だいたいはそのまま門司まで行ってしまうところ。
今日は、福岡折り返しだった。


団臨に使った客レの回送だった。

客車を、回送とは言え牽引するのは初めてで、その興味もあったから
この乗務は楽しい。

機関車もＥＦ８１である。いつものＥＤ７６とはかなり違う。
そういう興味もあった。