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五月のこと
2人きりのダンスパーティー
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プロムはつつがなく終了し、カザネはブライアンの車でマクガン家に送ってもらった。着物やら何やら全部オフしてお風呂に入り、今はパジャマ姿で自室に居る。もう夜の11時半を過ぎているので後は寝るだけだが
「わー、2人ともカッコいい」
カザネはスマホで、ジムが撮影してくれたブライアンとミシェルのダンスを見ていた。今日は眼鏡をかけていなかったので直接は見られなかったが、ブライアンのダンスを見てみたかった。
学校でのブライアンは、バスケ部の仲間に合わせて服装や態度を粗野に見せている。しかしその気になれば、優雅にも振る舞えるようで、ミシェルと踊る姿はまるで貴公子だった。
流石はキングとクイーンだけあって、若く美しい白人のペアが踊る姿はとても絵になった。しかしカザネの心には、嫉妬も不安も浮かばなかった。他の人と踊っていても、ブライアンの心が自分に向いていることを自然と感じられるくらい、彼が十分に愛してくれているお陰だった。
ただ軽やかに踊る2人を見て、カザネがほんの少し後悔したのは
「私もブライアンと踊ってみたかったな」
絵になるのはミシェルだからで、自分とブライアンでは釣り合わないと分かっている。そもそもカザネは踊れないので、仮に着物じゃなくてもダンスはできなかっただろう。
それでもブライアンと踊れたら、とてもいい思い出になっただろうなと密かに惜しんでいると
「なんだ。お前、ダンスがしたかったの?」
「わぁっ!?」
とつぜん声をかけられてカザネは驚いた。カザネが物思いに耽っている間に、ドアを開けて入って来たのは
「ぶ、ブライアン? どうして……むぐ」
ブライアンは大きな手でカザネの口を塞ぐと
「大きな声を出すなよ。おばさんたちが起きちゃうだろ」
彼に注意されたカザネは今度は小声で
「うちに帰ったんじゃなかったの?」
「せっかくのプロムの夜に、お前を安眠させてやるはずがない」
意味深に頬を撫でて来るブライアンに、カザネは困惑しながら
「でもプロムは12時までに、女の子を家に送って終わりなんじゃ」
普通のデートと違って、プロムのペアは親も把握している。保護者の心証を悪くしないように、男子は夜の12時までに女子を家に送り帰すのがマナーだった。さらにカザネの場合は着物だったので、一度脱いだら自分では着直せない。だからブライアンも、一旦は何もせず送り帰したのだが
「その後、追撃をかけちゃいけないってルールは無い。要するに男側のやる気の問題」
「ひぇ」
要するに夜這いに来たらしいブライアンに、カザネは狼狽えた。決して嫌じゃないのだが、ブライアンにこんなにも女性として求められることがまだ恥ずかしかった。
ジムの部屋の窓から入って来たブライアンは
「それで話を戻すけど、本当はお前も踊りたかったの?」
「……うん。オタクのくせに恥ずかしいけど、ブライアンとミシェルのダンスが本当に素敵だったから、こんな風に踊れたら楽しいだろうなって」
カザネは素直に打ち明けたものの
「と思うだけで実際は、仮に着物じゃなかったとしても、ダンスなんてしたことが無いから無理なんだけど」
自分から話を切り上げようとしたが、ブライアンは
「大して難しくないよ。雰囲気を味わいたいだけなら、簡単なステップをいくつか覚えるだけでいいんだから。良かったら今から教えてやろうか?」
「えっ、今から? でもいいの? 本当は別のことをしに来たんじゃ」
カザネの問いに、ブライアンは冗談っぽく笑って
「そうだけど、ファーストキスもファーストセックスももらったなら、ファーストダンスももらいたいなって」
「改めて聞くと私のはじめての大半、ブライアンに奪われているね」
カザネのコメントに、ブライアンは彼女の目を覗き込みながら
「そう。この際だからお前のはじめてコンプリートしてやる」
「謎のコレクター魂」
2人はふざけ合って笑うと、階下に音が響かないように気を付けながらダンスした。
今夜のプロムキングとパジャマでダンスをするなんて、なんだか非日常的だ。音楽だけは小さな音量で流したが、今はドレスもタキシードも着ていない。だけど普段の気取らない姿で踊ることが、かえって2人だけの特別な時間に感じられて、カザネはとても楽しかった。
「わー、2人ともカッコいい」
カザネはスマホで、ジムが撮影してくれたブライアンとミシェルのダンスを見ていた。今日は眼鏡をかけていなかったので直接は見られなかったが、ブライアンのダンスを見てみたかった。
学校でのブライアンは、バスケ部の仲間に合わせて服装や態度を粗野に見せている。しかしその気になれば、優雅にも振る舞えるようで、ミシェルと踊る姿はまるで貴公子だった。
流石はキングとクイーンだけあって、若く美しい白人のペアが踊る姿はとても絵になった。しかしカザネの心には、嫉妬も不安も浮かばなかった。他の人と踊っていても、ブライアンの心が自分に向いていることを自然と感じられるくらい、彼が十分に愛してくれているお陰だった。
ただ軽やかに踊る2人を見て、カザネがほんの少し後悔したのは
「私もブライアンと踊ってみたかったな」
絵になるのはミシェルだからで、自分とブライアンでは釣り合わないと分かっている。そもそもカザネは踊れないので、仮に着物じゃなくてもダンスはできなかっただろう。
それでもブライアンと踊れたら、とてもいい思い出になっただろうなと密かに惜しんでいると
「なんだ。お前、ダンスがしたかったの?」
「わぁっ!?」
とつぜん声をかけられてカザネは驚いた。カザネが物思いに耽っている間に、ドアを開けて入って来たのは
「ぶ、ブライアン? どうして……むぐ」
ブライアンは大きな手でカザネの口を塞ぐと
「大きな声を出すなよ。おばさんたちが起きちゃうだろ」
彼に注意されたカザネは今度は小声で
「うちに帰ったんじゃなかったの?」
「せっかくのプロムの夜に、お前を安眠させてやるはずがない」
意味深に頬を撫でて来るブライアンに、カザネは困惑しながら
「でもプロムは12時までに、女の子を家に送って終わりなんじゃ」
普通のデートと違って、プロムのペアは親も把握している。保護者の心証を悪くしないように、男子は夜の12時までに女子を家に送り帰すのがマナーだった。さらにカザネの場合は着物だったので、一度脱いだら自分では着直せない。だからブライアンも、一旦は何もせず送り帰したのだが
「その後、追撃をかけちゃいけないってルールは無い。要するに男側のやる気の問題」
「ひぇ」
要するに夜這いに来たらしいブライアンに、カザネは狼狽えた。決して嫌じゃないのだが、ブライアンにこんなにも女性として求められることがまだ恥ずかしかった。
ジムの部屋の窓から入って来たブライアンは
「それで話を戻すけど、本当はお前も踊りたかったの?」
「……うん。オタクのくせに恥ずかしいけど、ブライアンとミシェルのダンスが本当に素敵だったから、こんな風に踊れたら楽しいだろうなって」
カザネは素直に打ち明けたものの
「と思うだけで実際は、仮に着物じゃなかったとしても、ダンスなんてしたことが無いから無理なんだけど」
自分から話を切り上げようとしたが、ブライアンは
「大して難しくないよ。雰囲気を味わいたいだけなら、簡単なステップをいくつか覚えるだけでいいんだから。良かったら今から教えてやろうか?」
「えっ、今から? でもいいの? 本当は別のことをしに来たんじゃ」
カザネの問いに、ブライアンは冗談っぽく笑って
「そうだけど、ファーストキスもファーストセックスももらったなら、ファーストダンスももらいたいなって」
「改めて聞くと私のはじめての大半、ブライアンに奪われているね」
カザネのコメントに、ブライアンは彼女の目を覗き込みながら
「そう。この際だからお前のはじめてコンプリートしてやる」
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2人はふざけ合って笑うと、階下に音が響かないように気を付けながらダンスした。
今夜のプロムキングとパジャマでダンスをするなんて、なんだか非日常的だ。音楽だけは小さな音量で流したが、今はドレスもタキシードも着ていない。だけど普段の気取らない姿で踊ることが、かえって2人だけの特別な時間に感じられて、カザネはとても楽しかった。
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