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オマケ・2人ただ歩くだけで
恋敵のハートをブレイクするドーエス
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「はっ? いえ、全然」
ナンデはなぜそんな質問をされるのかと不可解そうにしながらも
「私はドーエス様と長く居すぎたので、ソイツに限らず他の男には何も感じません」
それはドーエスへのご機嫌取りではなく、ナンデの本心だった。
ドーエスほどインパクトのある男と過ごした後では、他は霞んで見えると言う意味でもあるが
(どんなに立派で優しい人も死んだら無意味)
前世、何万もの人命がドーエスによって儚く散らされていくのを見た後では「どうせこの人も死ぬ」という無常観が他人に特別な愛着を抱かせなかった。
それにも関わらず、ナンデがこの凶行を止めようとしたのは、ゴーマンは馬鹿だが殺されるほどの悪人では無いと思っているのと
「ただ今日はもう、さっきのショックがまだ残っているので、これ以上の人死には見たくないだけです」
しかしいざ自分の意図を説明したナンデは
「……私のコンディション的な問題で、ドーエス様に意見して申し訳ありません」
ドーエスからすれば知ったことじゃないだろうと思い直して謝罪したが
「そう畏まらなくとも構わぬ。そなたがやめろと言うならやめよう」
ドーエスは意外にも、あっさりとゴーマンを解放した。ナンデは逆に驚いて
「えっ? ほ、本当にいいんですか?」
「そなたの恐怖や驚愕の表情は好きだが、あまり脅かして死なれては困る。死んでも放すつもりはないが、また会うまでが退屈だからな」
ドーエスはおもむろにナンデに近づくと
「ド、ドーエス様? ……んっ」
唐突な口づけに、ゴーマンは「!?」と目を見張った。ナンデもゴーマンの視線を意識して、少し恥ずかしそうにしながら
「ど、どうして外で?」
ナンデはこれでも慎み深いので、人前での接触には抵抗があった。
それにドーエスも昔はケネンやヒーロに見せつけるようにナンデを抱いたが、今は自分以外の人間に妻が恥じらう姿を晒したくないと思っている。
それにも関わらずナンデを腕の中に捕らえ、思わせぶりに髪を撫でるのは
「急にそなたが欲しくなった。夫としてそなたに触れられる権利が、実は貴重だと気づいたのでな」
思いもよらないドーエスの言葉に、ナンデはビクッとしながら
「はっ? いや、私程度の女に、そんな風に思わなくても……」
どう受け止めればいいのか分からず、顔を赤らめて謙遜したが
「いや、私は幸運な男だ。世の中には好きな女に全く相手にされない憐れな男も居るからな」
ドーエスはゴーマンを見て意味深に笑うと、ナンデの耳に唇を寄せて
「今日はもう帰ろう。私にそなたの夫である幸福を、もっと味わわせてくれ」
以前と違ってドーエスを恐れながらも、夫として慕う気持ちも生まれてしまったナンデは
「は、はぇ……」
ぼしゅっと湯気が出そうなほど真っ赤になって狼狽えた。
夫婦生活2周目にも関わらず初心なところのある妻の腰を抱いて、ドーエスが満足げに立ち去った後。
ゴーマンは握り潰された右腕を押さえながら、涙目でブルブルと震えていた。単に怪我が痛いのもあるが、それ以上に
(な、ナンデぇぇ……!)
彼は人一倍プライドが高いために素直になれなかったが、実は本気でナンデに惚れていた。
最初は『ブスの大女』として軽い気持ちでいじめていたが、他の女と違ってどんな悪口を言っても決して泣かず、1人でも毅然としているナンデに、いつしかカッコいい女だと惹かれるようになった。
けれど平民にしてはなまじ裕福でスペックも高いゴーマンは、下手に出るということができず、歪んだアプローチしかできなかった。
それでもゴーマンが俺様な態度とは裏腹に、後継ぎとして真面目に家業を手伝うだけでなく、自警団員として街に尽くしているのはナンデに認められたいからだった。
それだけナンデを意識しつつ、ゴーマンはこれまで
(別に本気で好きなわけじゃなくて、ただあの生意気な女を跪かせたいだけ)
などと自分に言い訳していたが、10年も片想いしていたナンデを他の男に奪われて、粉砕骨折した右腕以上に心がズタズタになった。
ナンデはなぜそんな質問をされるのかと不可解そうにしながらも
「私はドーエス様と長く居すぎたので、ソイツに限らず他の男には何も感じません」
それはドーエスへのご機嫌取りではなく、ナンデの本心だった。
ドーエスほどインパクトのある男と過ごした後では、他は霞んで見えると言う意味でもあるが
(どんなに立派で優しい人も死んだら無意味)
前世、何万もの人命がドーエスによって儚く散らされていくのを見た後では「どうせこの人も死ぬ」という無常観が他人に特別な愛着を抱かせなかった。
それにも関わらず、ナンデがこの凶行を止めようとしたのは、ゴーマンは馬鹿だが殺されるほどの悪人では無いと思っているのと
「ただ今日はもう、さっきのショックがまだ残っているので、これ以上の人死には見たくないだけです」
しかしいざ自分の意図を説明したナンデは
「……私のコンディション的な問題で、ドーエス様に意見して申し訳ありません」
ドーエスからすれば知ったことじゃないだろうと思い直して謝罪したが
「そう畏まらなくとも構わぬ。そなたがやめろと言うならやめよう」
ドーエスは意外にも、あっさりとゴーマンを解放した。ナンデは逆に驚いて
「えっ? ほ、本当にいいんですか?」
「そなたの恐怖や驚愕の表情は好きだが、あまり脅かして死なれては困る。死んでも放すつもりはないが、また会うまでが退屈だからな」
ドーエスはおもむろにナンデに近づくと
「ド、ドーエス様? ……んっ」
唐突な口づけに、ゴーマンは「!?」と目を見張った。ナンデもゴーマンの視線を意識して、少し恥ずかしそうにしながら
「ど、どうして外で?」
ナンデはこれでも慎み深いので、人前での接触には抵抗があった。
それにドーエスも昔はケネンやヒーロに見せつけるようにナンデを抱いたが、今は自分以外の人間に妻が恥じらう姿を晒したくないと思っている。
それにも関わらずナンデを腕の中に捕らえ、思わせぶりに髪を撫でるのは
「急にそなたが欲しくなった。夫としてそなたに触れられる権利が、実は貴重だと気づいたのでな」
思いもよらないドーエスの言葉に、ナンデはビクッとしながら
「はっ? いや、私程度の女に、そんな風に思わなくても……」
どう受け止めればいいのか分からず、顔を赤らめて謙遜したが
「いや、私は幸運な男だ。世の中には好きな女に全く相手にされない憐れな男も居るからな」
ドーエスはゴーマンを見て意味深に笑うと、ナンデの耳に唇を寄せて
「今日はもう帰ろう。私にそなたの夫である幸福を、もっと味わわせてくれ」
以前と違ってドーエスを恐れながらも、夫として慕う気持ちも生まれてしまったナンデは
「は、はぇ……」
ぼしゅっと湯気が出そうなほど真っ赤になって狼狽えた。
夫婦生活2周目にも関わらず初心なところのある妻の腰を抱いて、ドーエスが満足げに立ち去った後。
ゴーマンは握り潰された右腕を押さえながら、涙目でブルブルと震えていた。単に怪我が痛いのもあるが、それ以上に
(な、ナンデぇぇ……!)
彼は人一倍プライドが高いために素直になれなかったが、実は本気でナンデに惚れていた。
最初は『ブスの大女』として軽い気持ちでいじめていたが、他の女と違ってどんな悪口を言っても決して泣かず、1人でも毅然としているナンデに、いつしかカッコいい女だと惹かれるようになった。
けれど平民にしてはなまじ裕福でスペックも高いゴーマンは、下手に出るということができず、歪んだアプローチしかできなかった。
それでもゴーマンが俺様な態度とは裏腹に、後継ぎとして真面目に家業を手伝うだけでなく、自警団員として街に尽くしているのはナンデに認められたいからだった。
それだけナンデを意識しつつ、ゴーマンはこれまで
(別に本気で好きなわけじゃなくて、ただあの生意気な女を跪かせたいだけ)
などと自分に言い訳していたが、10年も片想いしていたナンデを他の男に奪われて、粉砕骨折した右腕以上に心がズタズタになった。
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