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第9話・突然の横やりと結構な窮地

二手に分かれて(ダイジェスト版)

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 風丸と街ブラしてお城に帰ると、状況は一変していました。

 アルゼリオさんが外出先で何者かに襲われて、意識不明の状態で戻って来たんです。

 その後の話し合いで、どうやらアルゼリオさんは魔属性の術者によって、魂を奪われたらしいと分かりました。

 状態異常やステータスダウンなど、人を呪い弱める力を持つ魔属性の人たちは、この世界では差別の対象だそうです。

 犯罪者が多いから差別されるのか。差別されたから犯罪に走るのか。

 どちらが先とは言えませんが、そういった背景から魔属性の人には世界を恨む者が多く、魔王の解放を望む派閥もあるそうです。

「でも魔属性の術者なら魂を奪えるとして、この国の誰にアルゼリオを倒すことができたんだろう? 地上の人間にはそうそう倒せないレベルのはずだけど」

 私も律子さんと同じ疑問を抱きましたが、カイゼルさんによれば

「どれだけ体を鍛えようが動けなければ意味がない。魔属性の人間が関わっているとしたら、状態異常にステータスダウン。敵を弱体化する方法はいくらでもある。我々ほどの手練れじゃなくとも、人数を揃えれば可能だろう」

 とにかくアルゼリオさんが魂を奪われた以上、魔属性の人間が関わっているのは間違いありません。犯人の狙いが魔王の解放なら、封印の儀式を失敗させようと、また何か仕掛けて来る可能性があります。


 アルゼリオさんの魂を取り戻すためにも、私たちは翌日から犯人を捜索することになりました。

 ネフィロスさんが貸してくれた魔属性の魔力に反応する探知機を使って、律子さん、ユエル君、カイゼルさんの班は王都の北半分を。私、風丸、クレイグさんは王都の南半分を捜索します。

 しかし律子さんたちと別れて、すぐに

「おい、風丸。どうしてこの子まで連れて来たんだ。和泉と違ってこの子は普通の女だ。女がついて来たら足手まといだろう」

 遠慮なく顔をしかめるクレイグさんに、風丸は愛想よく笑って

「悪いね、クレイグの旦那。アンタの言うとおりではあるけど、犯人が分からないうちはマスターちゃんを1人にしておけないんだよ」

 クレイグさんが探査機を持って離れている間。私は風丸にコッソリ話しかけて

「すみません、風丸。私のせいでクレイグさんに怒られてしまって」
「いいって。あんな小言なんでもないよ。それよりマスターちゃん」
「はい?」
「アンタは俺が護るけど、物事に絶対は無いから自分でも用心しといてよ。ってことで、念のためにこれを持っといて」

 風丸が渡して来たのは聖水でした。

 聖水は普通の人間にとっては、毒や麻痺など身体的な状態異常を解く効果があります。しかし魔属性の魔力が高い者に使うと、浄化の力がかえって攻撃になります。私もアンデッド系のモンスターをジュワッと焼いたことがあったので効果は知っていました。

「仲間まで魔属性かは分からないけど、アンタは刃物を渡しても刺せないだろうから、せめてこれだけは持っといて」

 と護身用に持たされました。

 ダンジョンの外でアイテムを持たされるのははじめてで、いよいよ緊急事態なのだと実感しました。ゲームには無かった展開。ダンジョンでは導き手がモンスターに殺されることはありませんでした。でも相手が人間だったら?

 口にはしないものの、不安が顔に出ていたのか

「そんな死にそうな顔しなくても大丈夫だよ。これは万が一の備えとして持たせただけ。アンタには俺がついているんだから絶対に大丈夫。そうだろ?」

 風丸は元気づけるように笑ってくれました。風丸と話したら少しホッとして

「は、はい。風丸が居るんだから安心です」
「おい、2人とも。装置に反応があった。こっちだ」

 クレイグさんの言う反応は、王都の外へ向かって移動していました。アルゼリオさんを襲った後なので、人目につかないように王都の外に潜伏しているのかもしれません。

「街の外へ出ること、律子さんたちに知らせなくて大丈夫でしょうか?」
「まだ敵は移動を続けている。この人数じゃ敵の追跡と和泉への報告を同時にはできない。和泉への報告は後にして、まずはねぐらを突き止めよう」

 クレイグさんの指示に従って、私たちは王都の南にある深い森に入って行きました。


 南の森は以前、私が足を運んでいた神秘の森とは違う場所です。神秘の森は曇りの日でも、空気が澄んでいて軽かったのですが、この森はなんだか暗くて重苦しいです。

「なんだか空にふたをされているみたいな、怖い雰囲気の森ですね」

 木々に覆われた空を見上げながら不安を口にすると

「怖いなら手でも繋いでやろうか?」
「えっ? でも邪魔じゃないですか?」

 遠慮する私に、風丸は優しく笑って

「大切なご主人様が邪魔なはずないだろ」
「か、風丸……」

 当たり前のように差し出される思いやりに、状況も忘れてジーンとしていると
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