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第3話・育成開始とユエルの食育
私式スパルタ育成法
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しっかり装備とアイテムを整えてから、実際にユエルとダンジョンに潜った。
私たちが挑む地下ダンジョンは、本来はシンプルな石造りの建造物らしい。しかし次の再封印までの100年。魔王の力が強まるとともに、ダンジョン内の時空が歪み魔境へと変化していく。
だいたい10階分を目安にフロアの環境は変化し、ジャングルのようになったり火山帯のようになったりする。またフロアの環境に応じて、生息する魔物も変わっていく。最下層の魔王に近いフロアほど、魔属性の力の影響が強まり、魔物は狂暴かつ強力になる。
逆に言えば地上に近い階層は、まだ魔王の力の影響が少ない。そのためフロアは本来の石造りで、出て来る魔物も自然の動植物に近い姿だ。
実際にダンジョンに入るまでは、他のグループの動きが心配だった。彼女たちのやる気によっては、限りある宝箱や経験値の奪い合いになるかもしれない。しかしいざ入ってみると不思議と他のグループと鉢合わせることも、宝箱を先取りされることも無かった。
ダンジョン内の歪みが影響している可能性もある。けれど私は、なんとなく神の恩恵のような気がした。再封印の力を養う鍛錬の場と装備やアイテムが、必要なだけ行き渡るように計らってくだっているのではないかと。ともかく懸念していた仲間同士の奪い合いや出し抜き合いが、起こるような環境じゃなくて良かった。
戦闘はゲームと同じで、導き手はこちらから攻撃しなければ、攻撃対象になることは無いようだ。たまにモンスターが性的な意味で、私に飛びかかって来ることはある。しかし私はユエルより10レベル上かつ、由羽ちゃんのお陰で武装しているので自力で撃退できた。
魔物とは言え、命を断つ感触にはまだ慣れない。しかし導き手として彼らに協力する時点で、私たちは間接的に魔物殺しに加担している。
悪意に染められて魔物と化した動植物が、地上の人たちを襲うのを傍観するよりは、人である自分は人の命を護るために戦おうと決めた。
一概には喜べない戦闘力だが、ユエルが私を気にせず、目の前の敵に集中できるのはいいことだ。私はスパルタなのでユエルの気力が尽きて、もはや回復もできなくなるまでは、どれだけ苦戦しても加勢しない。
後方腕組みおじさんならぬ、後方腕組みマスターとして、常にユエルの後方で微動だにせず戦いを見守っている。13歳の少年を1人で戦わせて自分は見ているだけなんて「お前の血は何色だ!?」って感じだが、私の後方腕組みは高みの見物ではなく、思わず手を出してしまいそうな自分を戒めるための姿勢だった。ユエルの負傷が酷い時は、腕に痣ができるほど強く掴んでしまっている。
ちなみにユエルは私式スパルタ育成法を「甘やかさないでくれて嬉しい」と喜んでいる。私と違って聖王国の人たちはユエルに剣術を教える際、封印の一族の長に万一のことがあってはならないと手加減していたそうだ。
しかし単純な破壊衝動しか持たない魔王が、子どもだから王族だからと手加減してくれるはずがない。本気で命を奪いに来る相手と戦うには、それ以前から命の奪い合いに慣れなくてはならない。
それがユエルの考えなので、瀕死になるまで助けない私のスタイルで合っているようだ。
けれどダンジョンでは私の厳しい扱きに耐えてくれるユエルだが、1つだけ意見の合わない部分があった。
それは食事。アスリートや格闘家なら、トレーニングと同じくらい食事による肉体作りの重要性を理解している。ところがこちらの世界は、私たちの世界に比べて全体的に教育水準が低い。識字率が低いのもあるが、テレビやネットも無いので知識を共有しづらい環境だ。
だから食育についても、ほとんど考慮されていない上に、聖王国は宗教色の強い国だ。一般の人たちは食前にお祈りをするくらいだが、神官としての位が上がるほど守らなければいけない戒律が増える。その中に肉食と過食の禁止があった。
つまりユエルは育ち盛りにも関わらず、肉・魚・卵を食べられない。お代わりもできない粗食を強いられていた。ちなみにこの国の聖職者は、酒やお菓子などの嗜好品も禁じられているそうだ。不要な快楽を得るのは、悪徳の始まりだからと。
私からすれば、お菓子を食べられないのも可哀想だ。でもそれ以上に問題なのは、騎士を目指す人間が粗食を強いられていること。栄養価の高い食事を満足に取れない環境なのだから、ユエルの体が同年代の少年よりも小さいのは当然だ。
私たちが挑む地下ダンジョンは、本来はシンプルな石造りの建造物らしい。しかし次の再封印までの100年。魔王の力が強まるとともに、ダンジョン内の時空が歪み魔境へと変化していく。
だいたい10階分を目安にフロアの環境は変化し、ジャングルのようになったり火山帯のようになったりする。またフロアの環境に応じて、生息する魔物も変わっていく。最下層の魔王に近いフロアほど、魔属性の力の影響が強まり、魔物は狂暴かつ強力になる。
逆に言えば地上に近い階層は、まだ魔王の力の影響が少ない。そのためフロアは本来の石造りで、出て来る魔物も自然の動植物に近い姿だ。
実際にダンジョンに入るまでは、他のグループの動きが心配だった。彼女たちのやる気によっては、限りある宝箱や経験値の奪い合いになるかもしれない。しかしいざ入ってみると不思議と他のグループと鉢合わせることも、宝箱を先取りされることも無かった。
ダンジョン内の歪みが影響している可能性もある。けれど私は、なんとなく神の恩恵のような気がした。再封印の力を養う鍛錬の場と装備やアイテムが、必要なだけ行き渡るように計らってくだっているのではないかと。ともかく懸念していた仲間同士の奪い合いや出し抜き合いが、起こるような環境じゃなくて良かった。
戦闘はゲームと同じで、導き手はこちらから攻撃しなければ、攻撃対象になることは無いようだ。たまにモンスターが性的な意味で、私に飛びかかって来ることはある。しかし私はユエルより10レベル上かつ、由羽ちゃんのお陰で武装しているので自力で撃退できた。
魔物とは言え、命を断つ感触にはまだ慣れない。しかし導き手として彼らに協力する時点で、私たちは間接的に魔物殺しに加担している。
悪意に染められて魔物と化した動植物が、地上の人たちを襲うのを傍観するよりは、人である自分は人の命を護るために戦おうと決めた。
一概には喜べない戦闘力だが、ユエルが私を気にせず、目の前の敵に集中できるのはいいことだ。私はスパルタなのでユエルの気力が尽きて、もはや回復もできなくなるまでは、どれだけ苦戦しても加勢しない。
後方腕組みおじさんならぬ、後方腕組みマスターとして、常にユエルの後方で微動だにせず戦いを見守っている。13歳の少年を1人で戦わせて自分は見ているだけなんて「お前の血は何色だ!?」って感じだが、私の後方腕組みは高みの見物ではなく、思わず手を出してしまいそうな自分を戒めるための姿勢だった。ユエルの負傷が酷い時は、腕に痣ができるほど強く掴んでしまっている。
ちなみにユエルは私式スパルタ育成法を「甘やかさないでくれて嬉しい」と喜んでいる。私と違って聖王国の人たちはユエルに剣術を教える際、封印の一族の長に万一のことがあってはならないと手加減していたそうだ。
しかし単純な破壊衝動しか持たない魔王が、子どもだから王族だからと手加減してくれるはずがない。本気で命を奪いに来る相手と戦うには、それ以前から命の奪い合いに慣れなくてはならない。
それがユエルの考えなので、瀕死になるまで助けない私のスタイルで合っているようだ。
けれどダンジョンでは私の厳しい扱きに耐えてくれるユエルだが、1つだけ意見の合わない部分があった。
それは食事。アスリートや格闘家なら、トレーニングと同じくらい食事による肉体作りの重要性を理解している。ところがこちらの世界は、私たちの世界に比べて全体的に教育水準が低い。識字率が低いのもあるが、テレビやネットも無いので知識を共有しづらい環境だ。
だから食育についても、ほとんど考慮されていない上に、聖王国は宗教色の強い国だ。一般の人たちは食前にお祈りをするくらいだが、神官としての位が上がるほど守らなければいけない戒律が増える。その中に肉食と過食の禁止があった。
つまりユエルは育ち盛りにも関わらず、肉・魚・卵を食べられない。お代わりもできない粗食を強いられていた。ちなみにこの国の聖職者は、酒やお菓子などの嗜好品も禁じられているそうだ。不要な快楽を得るのは、悪徳の始まりだからと。
私からすれば、お菓子を食べられないのも可哀想だ。でもそれ以上に問題なのは、騎士を目指す人間が粗食を強いられていること。栄養価の高い食事を満足に取れない環境なのだから、ユエルの体が同年代の少年よりも小さいのは当然だ。
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