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第3話・育成開始とユエルの食育
あなたを信じる理由(ユエル視点)
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しかしマスターは陰でそこまで準備しながら
「でも食事の改善は可能ならであって必須ではないから、ユエルは自分の気持ちを大事にしていい。掟を破ることでかえって苦しむなら、優先すべきは肉体作りより君の心の安定だから」
どうしてマスターは、これほど僕のために心を砕いてくださるのだろう?
騎士の選定の時から不思議だった。エバーシュタインさんが僕を騎士ではなく回復役にしようとしたのは、僕の能力からすれば当然だった。
だけどマスターだけは、僕の密かな願いに気付いていたかのように、剣士として成長する機会を与えてくれた。そして今も僕のために陰で骨を折りながら、僕が忠誠と信仰の間で苦しむくらいなら、その努力を無にしていいと言ってくれる。
何が本当に正しいかは今も分からない。だけど僕の心で決めるなら
「それなら僕はマスターのご厚意を受けたいです」
「厚意を受けるって……食事を変えてくれるってこと?」
マスターは僕の心変わりに、かえって心配そうな顔で
「嬉しいけど、本当にいいの? 前はあんなに嫌がっていたのに」
「正直、今も少し不安です。でも自分の心で決めろと言うなら、僕は誰が決めたか分からない古い掟より、心から僕の成長を願ってくださるマスターの導きを信じたいです」
言葉にすると不思議と、これでいいのだと腑に落ちた。これが僕の本心だとマスターも感じてくださったのか「あ、ありがとう」と少し面映ゆそうに言うと
「本当は偉そうに指図できるほど、なんでも知っているわけじゃないんだけど、君にとっての最善を選べるようにがんばるから。一緒に考えながら、一緒に強くなろう」
マスターと出会う前、僕たちの代の導き手は、どんな方だろうと想像した。勇敢な者。賢い者。慈悲深い者。周りを明るくする者など、過去には様々な導き手が来たらしいが、聖属性の僕が主戦力として用いられることは無いだろうと考えていた。
記録にある限り、魔王再封印のパーティーには必ず聖属性の者が含まれていた。しかしそれは主力ではなく、あくまでサポート役として。
チームに役割分担があるのは当然だ。聖属性は支援役だから、攻撃の要になれないのも当然。主戦力として活躍したいわけではない。ただ聖属性の者が支援役に甘んじている限り、国家間での聖王国の位置づけもそのまま。他の強国の陰に隠れる自らは力の無い弱小国だと侮られる。
魔王の再封印は無事に行わなくてはいけない。しかし安寧が長引くほど人々の中で魔への脅威は薄れていく。それに応じて神や聖なる力への畏敬も弱まる。
大陸で1、2を争う強国である火の国と水の国では、どちらも聖王国を吸収して、自分の国のものにしてしまおうという意見があるそうだ。
今は魔王の再封印以外では、どの国にも加担せず中立を保っている聖王国の支援魔法を、国盗り合戦に使いたいと目論んでいる。大陸を統一して、たった1人の支配者として君臨するために。
だから、いつまでも他の属性の陰に隠れているわけにはいかない。マスターが言ってくれたように聖属性だから極められる強さがあるなら、僕が最初に道を示したい。
魔王の居ない平和な時間を、人間同士の争いで埋めないために。他国の侵略に揺らがない1つの強固な国になって、力の無い人たちを理不尽な暴力から護る盾になれるように。
マスターと出会うまでは理想でしかなかったこと。神に祈るしかなかった平和を、今は自分の手で叶えられるかもしれない希望が生まれた。
だから僕はマスターを信じてついて行こう。鍛錬がどれほど厳しくても、神に背くかもしれない恐れと戦うことになっても。きっとマスターこそが僕の願いを聞き届けて、神が遣わしてくださった導き手に違いないから。
「でも食事の改善は可能ならであって必須ではないから、ユエルは自分の気持ちを大事にしていい。掟を破ることでかえって苦しむなら、優先すべきは肉体作りより君の心の安定だから」
どうしてマスターは、これほど僕のために心を砕いてくださるのだろう?
騎士の選定の時から不思議だった。エバーシュタインさんが僕を騎士ではなく回復役にしようとしたのは、僕の能力からすれば当然だった。
だけどマスターだけは、僕の密かな願いに気付いていたかのように、剣士として成長する機会を与えてくれた。そして今も僕のために陰で骨を折りながら、僕が忠誠と信仰の間で苦しむくらいなら、その努力を無にしていいと言ってくれる。
何が本当に正しいかは今も分からない。だけど僕の心で決めるなら
「それなら僕はマスターのご厚意を受けたいです」
「厚意を受けるって……食事を変えてくれるってこと?」
マスターは僕の心変わりに、かえって心配そうな顔で
「嬉しいけど、本当にいいの? 前はあんなに嫌がっていたのに」
「正直、今も少し不安です。でも自分の心で決めろと言うなら、僕は誰が決めたか分からない古い掟より、心から僕の成長を願ってくださるマスターの導きを信じたいです」
言葉にすると不思議と、これでいいのだと腑に落ちた。これが僕の本心だとマスターも感じてくださったのか「あ、ありがとう」と少し面映ゆそうに言うと
「本当は偉そうに指図できるほど、なんでも知っているわけじゃないんだけど、君にとっての最善を選べるようにがんばるから。一緒に考えながら、一緒に強くなろう」
マスターと出会う前、僕たちの代の導き手は、どんな方だろうと想像した。勇敢な者。賢い者。慈悲深い者。周りを明るくする者など、過去には様々な導き手が来たらしいが、聖属性の僕が主戦力として用いられることは無いだろうと考えていた。
記録にある限り、魔王再封印のパーティーには必ず聖属性の者が含まれていた。しかしそれは主力ではなく、あくまでサポート役として。
チームに役割分担があるのは当然だ。聖属性は支援役だから、攻撃の要になれないのも当然。主戦力として活躍したいわけではない。ただ聖属性の者が支援役に甘んじている限り、国家間での聖王国の位置づけもそのまま。他の強国の陰に隠れる自らは力の無い弱小国だと侮られる。
魔王の再封印は無事に行わなくてはいけない。しかし安寧が長引くほど人々の中で魔への脅威は薄れていく。それに応じて神や聖なる力への畏敬も弱まる。
大陸で1、2を争う強国である火の国と水の国では、どちらも聖王国を吸収して、自分の国のものにしてしまおうという意見があるそうだ。
今は魔王の再封印以外では、どの国にも加担せず中立を保っている聖王国の支援魔法を、国盗り合戦に使いたいと目論んでいる。大陸を統一して、たった1人の支配者として君臨するために。
だから、いつまでも他の属性の陰に隠れているわけにはいかない。マスターが言ってくれたように聖属性だから極められる強さがあるなら、僕が最初に道を示したい。
魔王の居ない平和な時間を、人間同士の争いで埋めないために。他国の侵略に揺らがない1つの強固な国になって、力の無い人たちを理不尽な暴力から護る盾になれるように。
マスターと出会うまでは理想でしかなかったこと。神に祈るしかなかった平和を、今は自分の手で叶えられるかもしれない希望が生まれた。
だから僕はマスターを信じてついて行こう。鍛錬がどれほど厳しくても、神に背くかもしれない恐れと戦うことになっても。きっとマスターこそが僕の願いを聞き届けて、神が遣わしてくださった導き手に違いないから。
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