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第4話・育成開始から3か月
勝手にカップリングしないで欲しい
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星月さんたちは、すぐに大広間を出たが、私と由羽ちゃんはその場に残り
「由羽ちゃん、大丈夫?」
「うぅ、律子さん」
いつも天真爛漫な由羽ちゃんだが、一方的に攻撃されて流石に堪えたようだ。私は彼女を労わるように肩に手を置きながら
「怖かったね。ゴメンね。何もしてあげられなくて」
「そんなことありません。律子さんは、すごく私を庇ってくれました」
私の謝罪に、由羽ちゃんは咄嗟にフォローしてくれたが
「ただ私のことはいいんですが、エバーシュタインさんの言っていたことが気になって。風丸が私のもとに来てくれたのは、例の能力のせいなんでしょうか? 私は無意識に、風丸を洗脳していたんでしょうか?」
しかし、その不安には私じゃなくて風丸自身が
「まだそんなこと言ってんのかよ。さっきも言っただろ。俺はマスターちゃんに特別な感情なんか無いってさ」
「ほ、本当ですか? ちっとも好きじゃない?」
由羽ちゃんの質問に、風丸はおどけたように笑いながら
「ちっとも好きじゃなーい。利用価値しか感じてなーい」
「やったー! 利用価値だったー!」
待遇目当てだと断言されたのに、由羽ちゃんは万歳して喜んだ。私は2人のやり取りに瞠目して
「そ、それは喜んでいいの? 由羽ちゃん」
「だって謎の力で人の気持ちを歪めてしまうほうが怖くないですか? 体は同じでも心が違ったら、その人はその人じゃなくなってしまいますし。私はこのままの風丸を好きになったので、風丸にはぜひこのままで居て欲しいですね!」
由羽ちゃんは手で風丸を示しながら、ハキハキと言い切った。今さらだけど由羽ちゃん、本人の前で好きって言っていいのかな? 単に推しに好きバレしていいのかと言う懸念だけでなく、さっき洗脳疑惑をかけられたばかりだ。特別な好意を明かせば、下心と受け取られるんじゃないかと冷や冷やした。
しかし風丸は、すでに由羽ちゃんの好意を知っているようで、好き発言には無反応だった。その代わり
「でも俺を操るんじゃなきゃ、なんのために俺を幸せにする力なんかもらったんだよ?」
疑わしそうな風丸とは対照的に、由羽ちゃんは曇りない笑顔で
「だって好きな人が幸せだと、自分も幸せじゃないですか。だから私は風丸が幸せだと、すごく幸せなんです」
私もユエルが好きなので分かるけど、ファンは推しの喜びも苦しみも、自分のことのように感じてしまう。特に由羽ちゃんは、ここに来る前から風丸の幸せを見たがっていた。
絶対に会えるはずの無い架空の存在だった頃から、惜しみなく愛していた人が生きて目の前に居る。由羽ちゃんは基本それだけで満足で、風丸が幸せだったらより嬉しいというのが、そのまま本音なのだろう。
けれど、ここまで言っても風丸には、由羽ちゃんの言動が不可解なようで
「……そういうところが、いつも分からねーんだよなぁ」
調子が狂うと言わんばかりに頭を掻いた。忍者という職業と例の裏切りエンドを踏まえれば、風丸は損得で物事を考えるタイプなのだろう。自分が愛を知らないから、愛で動く人の心理が理解できない。
表現は違うが、由羽ちゃんも私と同じ感想を持ったらしく
「風丸には推しがいないから分からないんでしょうね。でも推しを持つ者にとっては、推しの幸せが自分の幸せなんです。ねっ、律子さん」
「うん。まぁ、そうだね」
私たちのやり取りに、ユエルは少し驚いた顔で
「マスターにも推しという方がいらっしゃるんですか?」
思いがけず掘り下げられてギクッとする。本人への推しバレは避けたかったが
「心配しなくても大丈夫ですよ。律子さんの推しはユエル君ですから」
由羽ちゃん!? と私は思わず彼女を見た。オープンな由羽ちゃんと違い、私は真っ当な大人を装っている。潔癖なユエルの前では、特に尊敬できる主人で居たかったが
「えっ? ぼ、僕なんですか?」
自分が私の推しだと知って目を丸くするユエルに
「変な意味じゃないから誤解しないで欲しい」
慌てて取り繕おうとしたものの
「……ただ私も君を幸せにしたいし、君が夢を叶えるための力になりたいと思っている」
けっきょく私も由羽ちゃんと同じで、推し全力応援団なのだった。ユエルへの特別な好意を言外に認めると
「ま、マスター、ありがとうございます。そんな風に思っていただけるなんて、僕は果報者です」
いつも落ち着いたユエルには珍しく、照れたように頬を染めながら言った。ゲームでのユエルは性の乱れを取り締まる立場なので、意外とヒロインにさえ赤面することは無かった。推しを暴露された時は羞恥で死にそうだったけど、こんなレアな表情を見られたんだからいいかなと思った矢先。
「ああ、ユエ律はいいですね。荒んだ心が癒されます」
由羽ちゃんは私たちを見ながらニコニコと合掌した。この様子だとさっきの発言は、失言ではなく故意だったらしい。故意と言っても悪意は無いだろうが、彼らには分からないからって、勝手にカップリングしないで欲しい。二次元の年の差カップルは微笑ましいが、私とユエルの組み合わせは犯罪でしかない。
「由羽ちゃん、大丈夫?」
「うぅ、律子さん」
いつも天真爛漫な由羽ちゃんだが、一方的に攻撃されて流石に堪えたようだ。私は彼女を労わるように肩に手を置きながら
「怖かったね。ゴメンね。何もしてあげられなくて」
「そんなことありません。律子さんは、すごく私を庇ってくれました」
私の謝罪に、由羽ちゃんは咄嗟にフォローしてくれたが
「ただ私のことはいいんですが、エバーシュタインさんの言っていたことが気になって。風丸が私のもとに来てくれたのは、例の能力のせいなんでしょうか? 私は無意識に、風丸を洗脳していたんでしょうか?」
しかし、その不安には私じゃなくて風丸自身が
「まだそんなこと言ってんのかよ。さっきも言っただろ。俺はマスターちゃんに特別な感情なんか無いってさ」
「ほ、本当ですか? ちっとも好きじゃない?」
由羽ちゃんの質問に、風丸はおどけたように笑いながら
「ちっとも好きじゃなーい。利用価値しか感じてなーい」
「やったー! 利用価値だったー!」
待遇目当てだと断言されたのに、由羽ちゃんは万歳して喜んだ。私は2人のやり取りに瞠目して
「そ、それは喜んでいいの? 由羽ちゃん」
「だって謎の力で人の気持ちを歪めてしまうほうが怖くないですか? 体は同じでも心が違ったら、その人はその人じゃなくなってしまいますし。私はこのままの風丸を好きになったので、風丸にはぜひこのままで居て欲しいですね!」
由羽ちゃんは手で風丸を示しながら、ハキハキと言い切った。今さらだけど由羽ちゃん、本人の前で好きって言っていいのかな? 単に推しに好きバレしていいのかと言う懸念だけでなく、さっき洗脳疑惑をかけられたばかりだ。特別な好意を明かせば、下心と受け取られるんじゃないかと冷や冷やした。
しかし風丸は、すでに由羽ちゃんの好意を知っているようで、好き発言には無反応だった。その代わり
「でも俺を操るんじゃなきゃ、なんのために俺を幸せにする力なんかもらったんだよ?」
疑わしそうな風丸とは対照的に、由羽ちゃんは曇りない笑顔で
「だって好きな人が幸せだと、自分も幸せじゃないですか。だから私は風丸が幸せだと、すごく幸せなんです」
私もユエルが好きなので分かるけど、ファンは推しの喜びも苦しみも、自分のことのように感じてしまう。特に由羽ちゃんは、ここに来る前から風丸の幸せを見たがっていた。
絶対に会えるはずの無い架空の存在だった頃から、惜しみなく愛していた人が生きて目の前に居る。由羽ちゃんは基本それだけで満足で、風丸が幸せだったらより嬉しいというのが、そのまま本音なのだろう。
けれど、ここまで言っても風丸には、由羽ちゃんの言動が不可解なようで
「……そういうところが、いつも分からねーんだよなぁ」
調子が狂うと言わんばかりに頭を掻いた。忍者という職業と例の裏切りエンドを踏まえれば、風丸は損得で物事を考えるタイプなのだろう。自分が愛を知らないから、愛で動く人の心理が理解できない。
表現は違うが、由羽ちゃんも私と同じ感想を持ったらしく
「風丸には推しがいないから分からないんでしょうね。でも推しを持つ者にとっては、推しの幸せが自分の幸せなんです。ねっ、律子さん」
「うん。まぁ、そうだね」
私たちのやり取りに、ユエルは少し驚いた顔で
「マスターにも推しという方がいらっしゃるんですか?」
思いがけず掘り下げられてギクッとする。本人への推しバレは避けたかったが
「心配しなくても大丈夫ですよ。律子さんの推しはユエル君ですから」
由羽ちゃん!? と私は思わず彼女を見た。オープンな由羽ちゃんと違い、私は真っ当な大人を装っている。潔癖なユエルの前では、特に尊敬できる主人で居たかったが
「えっ? ぼ、僕なんですか?」
自分が私の推しだと知って目を丸くするユエルに
「変な意味じゃないから誤解しないで欲しい」
慌てて取り繕おうとしたものの
「……ただ私も君を幸せにしたいし、君が夢を叶えるための力になりたいと思っている」
けっきょく私も由羽ちゃんと同じで、推し全力応援団なのだった。ユエルへの特別な好意を言外に認めると
「ま、マスター、ありがとうございます。そんな風に思っていただけるなんて、僕は果報者です」
いつも落ち着いたユエルには珍しく、照れたように頬を染めながら言った。ゲームでのユエルは性の乱れを取り締まる立場なので、意外とヒロインにさえ赤面することは無かった。推しを暴露された時は羞恥で死にそうだったけど、こんなレアな表情を見られたんだからいいかなと思った矢先。
「ああ、ユエ律はいいですね。荒んだ心が癒されます」
由羽ちゃんは私たちを見ながらニコニコと合掌した。この様子だとさっきの発言は、失言ではなく故意だったらしい。故意と言っても悪意は無いだろうが、彼らには分からないからって、勝手にカップリングしないで欲しい。二次元の年の差カップルは微笑ましいが、私とユエルの組み合わせは犯罪でしかない。
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