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第7話・育成開始から半年
本気を出す騎士とたじろぐ主
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昨日。私は自分の臆病をユエルの年齢のせいにして、彼の告白を断った。こんな卑怯者は、勇敢で誠実なあの子には相応しくないと言う点では正解だ。
ただ拒絶の理由を自分ではなく、ユエルの未熟さにすり替えたのは本当に最低だった。
ゴメン。傷つけてゴメン。でも私には本当に君に選ばれるほどの価値は無いからやめて欲しいと、昨日は一晩中、ベッドの中で懺悔した。
頭の中は嵐だったが、日中の重労働のせいか、いつの間にか眠っていたらしく
「マスター、朝です。起きてください」
爽やかな少年の声で目を覚ます。瞼を開けると、ユエルは私の部屋の窓を開けながら
「おはようございます」
朝日よりも眩しい笑顔に、私は目をチカチカさせながら
「お、おはよう。元気そうだね?」
昨日の告白は無かったことにしたのか。それとも実は、あれは私の夢で実際は何事も無かったのか。2つの可能性で悩む私に
「はい。朝から愛しい人の顔を見られて嬉しいので」
笑顔で爆弾を落として来たユエルに
「えっ!? い、愛しい人って」
仰天する私に、ユエルは平然と
「マスターのことです。昨日も言ったはずですが」
「いや、そうだけど、もう諦めたんじゃ……」
「昨日はマスターの気持ちを伺って、返事を急かしたことを謝罪しただけです。あなたを諦めるとは一言も言っていません」
顏は微笑んでいるけど、目が笑っていない。一歩も引かないという断固たる決意をひしひしと感じさせるユエルに
「いやでも私には、君と結婚することはできないよ」
「でも結婚できないのは年齢のせいで、僕が嫌いなわけじゃないんですよね。むしろ惹かれる気持ちはあると言ってくれましたよね」
「いや、それは……」
なんとか弁解しようとするが、ユエルは畳みかけるように
「マスターの世界に限らず、この世界でも女性のほうが一回り上の夫婦は珍しいです。どちらも成人しているならともかく相手が子どもでは、例え合意でも周りは白い目で見るでしょう。だからマスターが僕の気持ちに応えられないと考えるのは理解できます」
「……それでも諦めないの? 12も年上の異世界人で、結婚するのに良い要素なんて1つも無いのに」
どこまでもネガティブな私に、ユエルは苛立ちもせず青空のように澄んだ瞳で
「あなたが好きです。それ以外の理由や利得は、僕には要りません」
優柔不断な私とは逆にキッパリと言ってのけると
「マスターに想いが伝わるように今日からがんばりますので、改めてよろしくお願いします」
いきなりの『がんばる宣言』に頭が真っ白になったものの、日中の訓練はいつもどおり真面目に行い、私語もほとんどなかった。ダンジョンに潜った時も
「今日は特殊部屋に行かないんですか?」
「いや、その……」
あからさまにビクつく私に、ユエルはちょっと意地悪に微笑んで
「またお題部屋に飛ばされたらと思うと怖いですか? 僕に襲われるかもしれないから?」
「ソ、ソンナコトナイヨ……?」
ユエルは元から威厳のある子だったが、今はこれまでとは違う圧を感じる。肉食獣に目を付けられた草食獣のようにキョドる私に、ユエルはやはり見た目に似合わぬ押しの強さで
「じゃあ、行きましょう? 特殊部屋。エリアボスも最強装備を作るための素材も、取り逃がすわけにはいきませんから」
特殊部屋のスイッチを前に、ユエルが突然「おおーっと! 手が滑ったー!」と叫んで、お題部屋のほうを押すということはなく、今回は普通にモンスター部屋に飛び、粛々とエリアボスを倒した。
あまりにこれまでどおりなので
「あれ? もしかして今までのことは全部私の妄想で、本当は何も起きていないのでは?」
と夕食の頃には錯覚するほどだった。
しかし1日が終わり、後は寝るだけと言う時間。続き部屋のドアがノックされた。何かと思ってドアを開けると、寝間着姿で枕を抱えたユエルが
「マスター。今日から僕も、一緒に寝ていいですか?」
「いいわけないよね!? と言うか、どうして突然そんなことを?」
思わず声を荒げる私に、ユエルはいたって平静に
「日中は鍛錬が最優先で、マスターと個人的な交流ができないので。夜に2人で話す時間を取りたいと思ったんです」
「いや、少し話すくらいならいいけど、一緒に寝る必要はなくない?」
「必要はありませんが、僕がそうしたいんです。マスターが好きだから、あなたのそばで眠りたい」
真っ直ぐこちらを見るユエルの瞳は、純粋な思慕に満ちていた。どうやら夜のお誘いというわけではなさそうだが
「いやでも自意識過剰かもしれないけど、何度かああいうことのあった相手と、一緒に寝るのはちょっと」
「マスターが警戒するのは当然ですが、相手の了解も得ずに無理やり手籠めにはしません。……と言いつつ、何度か襲ってしまっていますが、お題部屋のような過度の刺激を受けなければ、ちゃんと自制できますから」
ユエルは困り顔で私を見上げると
「ただもう少しだけ、あなたに近づきたいだけなんです。マスターの気配を感じながら眠りたい。あなたが困るようなことはしませんから……ダメですか?」
眉を下げながら首を傾げた。グイグイ部屋に押しかけたと思ったら、枕を抱えて「ダメですか?」と気弱にオネダリとか。戦闘の時と同様、緩急のある巧みな攻撃に私は
ただ拒絶の理由を自分ではなく、ユエルの未熟さにすり替えたのは本当に最低だった。
ゴメン。傷つけてゴメン。でも私には本当に君に選ばれるほどの価値は無いからやめて欲しいと、昨日は一晩中、ベッドの中で懺悔した。
頭の中は嵐だったが、日中の重労働のせいか、いつの間にか眠っていたらしく
「マスター、朝です。起きてください」
爽やかな少年の声で目を覚ます。瞼を開けると、ユエルは私の部屋の窓を開けながら
「おはようございます」
朝日よりも眩しい笑顔に、私は目をチカチカさせながら
「お、おはよう。元気そうだね?」
昨日の告白は無かったことにしたのか。それとも実は、あれは私の夢で実際は何事も無かったのか。2つの可能性で悩む私に
「はい。朝から愛しい人の顔を見られて嬉しいので」
笑顔で爆弾を落として来たユエルに
「えっ!? い、愛しい人って」
仰天する私に、ユエルは平然と
「マスターのことです。昨日も言ったはずですが」
「いや、そうだけど、もう諦めたんじゃ……」
「昨日はマスターの気持ちを伺って、返事を急かしたことを謝罪しただけです。あなたを諦めるとは一言も言っていません」
顏は微笑んでいるけど、目が笑っていない。一歩も引かないという断固たる決意をひしひしと感じさせるユエルに
「いやでも私には、君と結婚することはできないよ」
「でも結婚できないのは年齢のせいで、僕が嫌いなわけじゃないんですよね。むしろ惹かれる気持ちはあると言ってくれましたよね」
「いや、それは……」
なんとか弁解しようとするが、ユエルは畳みかけるように
「マスターの世界に限らず、この世界でも女性のほうが一回り上の夫婦は珍しいです。どちらも成人しているならともかく相手が子どもでは、例え合意でも周りは白い目で見るでしょう。だからマスターが僕の気持ちに応えられないと考えるのは理解できます」
「……それでも諦めないの? 12も年上の異世界人で、結婚するのに良い要素なんて1つも無いのに」
どこまでもネガティブな私に、ユエルは苛立ちもせず青空のように澄んだ瞳で
「あなたが好きです。それ以外の理由や利得は、僕には要りません」
優柔不断な私とは逆にキッパリと言ってのけると
「マスターに想いが伝わるように今日からがんばりますので、改めてよろしくお願いします」
いきなりの『がんばる宣言』に頭が真っ白になったものの、日中の訓練はいつもどおり真面目に行い、私語もほとんどなかった。ダンジョンに潜った時も
「今日は特殊部屋に行かないんですか?」
「いや、その……」
あからさまにビクつく私に、ユエルはちょっと意地悪に微笑んで
「またお題部屋に飛ばされたらと思うと怖いですか? 僕に襲われるかもしれないから?」
「ソ、ソンナコトナイヨ……?」
ユエルは元から威厳のある子だったが、今はこれまでとは違う圧を感じる。肉食獣に目を付けられた草食獣のようにキョドる私に、ユエルはやはり見た目に似合わぬ押しの強さで
「じゃあ、行きましょう? 特殊部屋。エリアボスも最強装備を作るための素材も、取り逃がすわけにはいきませんから」
特殊部屋のスイッチを前に、ユエルが突然「おおーっと! 手が滑ったー!」と叫んで、お題部屋のほうを押すということはなく、今回は普通にモンスター部屋に飛び、粛々とエリアボスを倒した。
あまりにこれまでどおりなので
「あれ? もしかして今までのことは全部私の妄想で、本当は何も起きていないのでは?」
と夕食の頃には錯覚するほどだった。
しかし1日が終わり、後は寝るだけと言う時間。続き部屋のドアがノックされた。何かと思ってドアを開けると、寝間着姿で枕を抱えたユエルが
「マスター。今日から僕も、一緒に寝ていいですか?」
「いいわけないよね!? と言うか、どうして突然そんなことを?」
思わず声を荒げる私に、ユエルはいたって平静に
「日中は鍛錬が最優先で、マスターと個人的な交流ができないので。夜に2人で話す時間を取りたいと思ったんです」
「いや、少し話すくらいならいいけど、一緒に寝る必要はなくない?」
「必要はありませんが、僕がそうしたいんです。マスターが好きだから、あなたのそばで眠りたい」
真っ直ぐこちらを見るユエルの瞳は、純粋な思慕に満ちていた。どうやら夜のお誘いというわけではなさそうだが
「いやでも自意識過剰かもしれないけど、何度かああいうことのあった相手と、一緒に寝るのはちょっと」
「マスターが警戒するのは当然ですが、相手の了解も得ずに無理やり手籠めにはしません。……と言いつつ、何度か襲ってしまっていますが、お題部屋のような過度の刺激を受けなければ、ちゃんと自制できますから」
ユエルは困り顔で私を見上げると
「ただもう少しだけ、あなたに近づきたいだけなんです。マスターの気配を感じながら眠りたい。あなたが困るようなことはしませんから……ダメですか?」
眉を下げながら首を傾げた。グイグイ部屋に押しかけたと思ったら、枕を抱えて「ダメですか?」と気弱にオネダリとか。戦闘の時と同様、緩急のある巧みな攻撃に私は
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