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第10話・波乱
南の森にて
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捜索をはじめてから3時間ほどになるが、ネフィロスからもらった探知機は、ほとんど反応を示さなかった。たまに反応があってもアルゼリオの魔防の数値から考えて、術をかけられるほどの力は無い相手だった。
一向に手がかりを得られず、やや疲れを感じて来た頃。
『律子』
頭の中に直接響くような不思議な声。
私は誰かの呼びかけに足を止めると、横手にある路地の奥に目をこらした。そこには薄暗がりにまぎれて、純白の衣服に身を包んだ美しい青年が立っていた。美しい容姿のせいか、白の長髪にピーコックグリーンの瞳という稀有な色彩のせいか、どこか神々しい雰囲気がある。
はじめて会う男が、どうして私の名を知っているのかと
「あなたは誰? どうして私の名前を?」
質問するも、彼は人目を避けるように路地に身を隠したまま
『由羽が危険だ。助けに行って。彼女は王都を出て南の森に居る』
こちらの質問に答える代わりに、用件だけを淡々と話した。
「ちょっと待って。由羽ちゃんが危険っていったい……」
私は相手が何者なのか? 由羽ちゃんが危険だとして男がなぜそれを知り、私たちに伝えに来たか知りたかった。けれど彼は何も答えないまま、ふっと姿を消した。
なんらかの魔法なのか? それとも人間ではないのか?
疑問を抱えて立ち尽くす私に
「マスター、どうしたんですか?」
足を止めた私に気付いて、ユエルたちが引き返して来た。私はユエルとカイゼルに
「いま知らない人から由羽ちゃんが危険だって、南の森に行けと言われて」
「相楽さんが?」
「怪しいな。相手は知らない人間だったんだろう? 助言どころか我々を誘い込む敵の罠かもしれないぞ」
カイゼルの意見にも一理ある。心象だけで物事を判断するのは危険だが、なんとなくさっきの人物は
「あの人が何者かは分からないけど、悪いものには見えなかった。それに由羽ちゃんが危険だと聞いて、放っておくわけにはいかないよ。南の森に行ってみよう」
王都を出て南にある森は、鬱蒼と生い茂る木々に蓋をされたように光を遮られて、昼間でも夜のように薄暗かった。僅かな光源を頼りに先に進むと、予想もしない光景が待ち受けていた。
「か、風丸!? どうしてクレイグと戦っているの!?」
森の少し開けた場所で、風丸とクレイグが激しく交戦していた。私が声をかけたのは風丸だったが、クレイグがこちらを振り向いて
「いきなり襲い掛かって来たんだ! アルゼリオを襲った犯人はアイツだ!」
「ええっ!?」
クレイグの訴えに、私とユエルは仰天した。そんな私たちの後ろから
「我々もクレイグに加勢しよう!」
カイゼルが剣を抜いて一歩進み出るが
「待って! 由羽ちゃんはどこなの!?」
由羽ちゃんの姿が見えないのに気付いて問うと、再びクレイグが口を開いて
「あの子も風丸に殺された! 俺の目の前でいきなり刺したんだ!」
由羽ちゃんが殺されたと聞いて、私は目の前が真っ暗になった。しかし、その思考の闇を切り裂くように
「嘘だ! 風丸さんが相楽さんを殺すはずがない!」
ユエルの言葉に、私はハッと我に返った。ゲームの風丸は最後にヒロインを裏切った。だけど、この世界で2人が積み上げて来た時間はニセモノじゃない。2人の絆を信じると決めた瞬間、ある違和感に気付く。どうして風丸はさっきから、一言も喋らないんだ? クレイグの言うとおり彼が犯人なら、逆に一度は弁解を試みるはずなのに。
違和感に気付いて風丸のステータスを確認すると
「ッ、ユエル! 風丸に『全快』をかけて!」
『全快』は全ての状態異常を一気に解除する魔法だ。風丸は『沈黙』で魔法を封じられたうえに『毒』に侵された状態だった。全く喋らなかったのも『沈黙』で声が出なかったせいだ。そんな風丸にクレイグは一方的に罪を着せようとした。つまり魔属性の使い手と組んでいたのは、風丸ではなくクレイグだ。
一向に手がかりを得られず、やや疲れを感じて来た頃。
『律子』
頭の中に直接響くような不思議な声。
私は誰かの呼びかけに足を止めると、横手にある路地の奥に目をこらした。そこには薄暗がりにまぎれて、純白の衣服に身を包んだ美しい青年が立っていた。美しい容姿のせいか、白の長髪にピーコックグリーンの瞳という稀有な色彩のせいか、どこか神々しい雰囲気がある。
はじめて会う男が、どうして私の名を知っているのかと
「あなたは誰? どうして私の名前を?」
質問するも、彼は人目を避けるように路地に身を隠したまま
『由羽が危険だ。助けに行って。彼女は王都を出て南の森に居る』
こちらの質問に答える代わりに、用件だけを淡々と話した。
「ちょっと待って。由羽ちゃんが危険っていったい……」
私は相手が何者なのか? 由羽ちゃんが危険だとして男がなぜそれを知り、私たちに伝えに来たか知りたかった。けれど彼は何も答えないまま、ふっと姿を消した。
なんらかの魔法なのか? それとも人間ではないのか?
疑問を抱えて立ち尽くす私に
「マスター、どうしたんですか?」
足を止めた私に気付いて、ユエルたちが引き返して来た。私はユエルとカイゼルに
「いま知らない人から由羽ちゃんが危険だって、南の森に行けと言われて」
「相楽さんが?」
「怪しいな。相手は知らない人間だったんだろう? 助言どころか我々を誘い込む敵の罠かもしれないぞ」
カイゼルの意見にも一理ある。心象だけで物事を判断するのは危険だが、なんとなくさっきの人物は
「あの人が何者かは分からないけど、悪いものには見えなかった。それに由羽ちゃんが危険だと聞いて、放っておくわけにはいかないよ。南の森に行ってみよう」
王都を出て南にある森は、鬱蒼と生い茂る木々に蓋をされたように光を遮られて、昼間でも夜のように薄暗かった。僅かな光源を頼りに先に進むと、予想もしない光景が待ち受けていた。
「か、風丸!? どうしてクレイグと戦っているの!?」
森の少し開けた場所で、風丸とクレイグが激しく交戦していた。私が声をかけたのは風丸だったが、クレイグがこちらを振り向いて
「いきなり襲い掛かって来たんだ! アルゼリオを襲った犯人はアイツだ!」
「ええっ!?」
クレイグの訴えに、私とユエルは仰天した。そんな私たちの後ろから
「我々もクレイグに加勢しよう!」
カイゼルが剣を抜いて一歩進み出るが
「待って! 由羽ちゃんはどこなの!?」
由羽ちゃんの姿が見えないのに気付いて問うと、再びクレイグが口を開いて
「あの子も風丸に殺された! 俺の目の前でいきなり刺したんだ!」
由羽ちゃんが殺されたと聞いて、私は目の前が真っ暗になった。しかし、その思考の闇を切り裂くように
「嘘だ! 風丸さんが相楽さんを殺すはずがない!」
ユエルの言葉に、私はハッと我に返った。ゲームの風丸は最後にヒロインを裏切った。だけど、この世界で2人が積み上げて来た時間はニセモノじゃない。2人の絆を信じると決めた瞬間、ある違和感に気付く。どうして風丸はさっきから、一言も喋らないんだ? クレイグの言うとおり彼が犯人なら、逆に一度は弁解を試みるはずなのに。
違和感に気付いて風丸のステータスを確認すると
「ッ、ユエル! 風丸に『全快』をかけて!」
『全快』は全ての状態異常を一気に解除する魔法だ。風丸は『沈黙』で魔法を封じられたうえに『毒』に侵された状態だった。全く喋らなかったのも『沈黙』で声が出なかったせいだ。そんな風丸にクレイグは一方的に罪を着せようとした。つまり魔属性の使い手と組んでいたのは、風丸ではなくクレイグだ。
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