こんな馬鹿でダメな男、好きなはずないから

知見夜空

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最終話・夏休みの宿題と

子どもの頃から本当はずっと

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 眠っている千堂を襲ったのがバレて、嫌われるのは嫌だ。怒られるのも嫌だ。でも

「どうしてこの状況でふざけられるんだ……。僕が何をしても、お前には笑いごとなのか……」

 小学生の頃と同様、コイツにとって僕の一喜一憂は娯楽なのかと思うと悲しくて

「どうしていきなり泣いてんの?」

 突然泣き出した僕に、千堂は流石に戸惑った顔をした。もう高校生なのに、僕のほうがコイツよりも体が大きいのに、子どもみたいに泣いてしまって情けないが

「だって僕ばかり、いつも振り回されてドキドキして嫌だ……。いつも僕ばかりお前が好きで……それなのに、お前は全く相手にしてくれないから嫌だ……」

 昔の記憶と今の想いがゴッチャになって溢れ出した。そんな僕に千堂は

「お前、自分が何を言っているか分かっている?」
「分からん……。お前のせいで頭がグチャグチャだ……」

 せめて顔を見られまいと俯く僕の横に、千堂はベッドから降りて膝をつくと

「ふざけて悪かったよ。お前がオタオタするのが面白いからって、いつもついからかいすぎる。泣かせてゴメンな」

 慰めるように頭を撫でると、僕を引き寄せて抱きしめた。予想外過ぎる対応に驚いて、取りあえず涙は引っ込んだが

「なんで僕を抱きしめるんだ? 僕があんまり馬鹿だから憐れんでいるのか?」

 頭の中は疑問符でいっぱいだ。だって僕はコイツにとって、こんな優しい対応をするような相手じゃない。しかし僕が顔を上げると、千堂は珍しく優しい顔で

「ただ馬鹿なだけのヤツに憐れみなんてかけないよ。お前が好きだから、泣かせて悪かったなって思うんじゃん」
「ふぇっ!?」

 好きの一言で顔面が発火する。それだけでも心が限界だったのに、千堂はスッと僕に顔を近づけると

「むっ、~っ!?」

 温かく柔らかな感触が僕の口を塞いだ。硬直する僕から顔を離した千堂に

「せ、千堂?」

 真っ白な頭で、ただヤツの名を口にすると

「お前の好きって、こういう意味かと思った。違う?」
「違わない……でも、なんでこんなことをしてくれるんだ? 男に好かれて気持ち悪くないのか?」

 千堂は女性が好きなはずだ。仮に男が好きだとしても、いつもからかっていた僕を好きなはずがない。しかし千堂は愛でるように、僕の髪を撫でながら

「あえて男に好かれたくはないけど、お前ならいいよ。面白いし、可愛いから」
「お、お前ならいいって、どういう意味だ? ただ好きでいることを許可するってことか? それとも……」
「泣くほど俺が好きなら、お前の情緒をグチャグチャにした責任を取ってやってもいいってこと。でも付き合いたいとは思ってない?」

 僕は自分から千堂に抱きつくと、ブンブン首を振りながら

「付き合いたくないはずがない」

 さっきとは別の感情で、込み上げて来る涙を堪えながら

「僕ばかり好きなのが惨めで否定していたけど、本当はずっとお前が好きだったんだ。子どもの頃からずっと、お前にしか心が動かないんだ」

 心の中でさえ認められないでいたことを、ようやく素直に口にできた。

 コイツと再会する前。味気ない日々を送っていた頃。

『もしや誠太郎様は、まだその初恋の君を想っていらっしゃるのでは? そのせいで他の魅力的な異性を前にしても、心が動かないのかもしれませんよ?』

 じいやにされた指摘が、けっきょく真実だった。唯一、僕を好きでないことが不満だっただけで、意地悪だけど優しいコイツが、男だろうと本当はずっと好きだった。

 その気持ちを認めると、胸の中のモヤモヤがスッと晴れた。僕の本音を聞いた千堂も

「そう。じゃー、責任を取って、お前は俺がもらってやろう。初恋もキスもそれ以上も、お前は一生に1人がいいんだもんな?」

 僕の頬に触れながら、明るく笑いかけてくれた。

「ぼ、僕の夢をお前が叶えてくれるのか?」

 僕の理想とは逆だが、少女漫画のような展開に胸が熱くなり、目の前がキラキラした。けれど千堂は、僕の喜びに水を差すようにニヤッと笑って

「でも楽な付き合いにはならないって覚悟しとけよ? これからも思いきり振り回してやるからな」
「恋人になってもお前の意地悪は治らないのか!?」
「治らないの。でも優しくイジメるよ? 嫌?」

 コイツの飴と鞭の使い分けは本当になんなんだろう。千堂と居ると、楽しくてムカついて。痛くて気持ち良くて。甘くて苦しい想いをさせられて感情が休まる暇が無いけど

「……お前が僕と付き合ってくれるならいい」

 僕は再び千堂に抱きついて、幸せに浸るように目を閉じると

「いじめられてやる……」

 と降服を宣言した。
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