流されて地下アイドル~地味で陰キャなヒロインはイケメン大学生に溺愛されて困惑する~

知見夜空

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秋のお話

誠慈君の欲しいもの

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 9月は誠慈君の誕生日がある。

 クリスマスにはマフラーを、バレンタインにはチョコを渡したけど、異性にプレゼントを選ぶのって苦手だ。

 あまり高いと気を遣わせてしまいそうだし、安いものだと特別感が無い。

 考えすぎて外すよりは、と私は思い切って誠慈君に相談してみた。

 例によって私の部屋に来た時に尋ねると

「あ、ありがとう。俺の誕生日を覚えていてくれて」

 謙虚な誠慈君は、ただ私が誕生日を覚えていただけで喜ぶと

「でも俺は萌乃が祝ってくれるだけで嬉しいから、プレゼントはなんでもいいよ。強いて言うなら、萌乃の負担にならないものがいいな」

 自分は全財産を捧げる勢いなのに、私の懐は痛ませまいと思うんだな。

 あまり高額なものを買えないのは確かだけど、気持ちだけじゃなくてちゃんと誠慈君が喜ぶものをあげたい。

 だからちゃんと何が欲しいか、考えてみて欲しいと改めて頼むと

「俺が欲しいもの……」

 誠慈君は難しい顔で考え込んだ末に

「欲しいものって急に聞かれても、萌乃しか思いつかない……」
「私が欲しいって、どういう意味?」

 彼の片想いならともかく私たちは恋人同士だ。人間を完全に所有することはできないが、すでに限りなく彼のものである。

「ゴメン、自分でも分からないんだけど。萌乃が好きすぎて、もっと萌乃が欲しくなる……」

 誠慈君はそう言いながら、もどかしそうに私を抱きしめた。彼の艶っぽい声音に、欲情を感じた私は

「じゃあ、もっとエッチなことする?」
「わぁっ!? そういう意味じゃないんだけど!」

 私の率直な指摘に、誠慈君は飛びのくように離れた。

 ただ彼の真っ赤な顔を見れば、的外れではないと分かるので

「誕生日にものをもらうのと、いっぱいエッチするのだったら、どっちがいい?」

 猫のように忍び寄りながら問うと、誠慈君は「うぅ……」と目をグルグルさせた。

「遠慮しないで正直に言っていいよ? 誠慈君が誕生日に、本当に欲しいのは何?」

 重ねて問うと、誠慈君は火が出そうなほど真っ赤な顔で

「も、萌乃と……いっぱいエッチしたい……」
「話だけで待ち切れなくなっちゃうの、可愛い」

 下半身の変化を指摘すると、誠慈君は「うぁ……」と、か弱い声をあげた。もうけっこうこういうことをして来たのに、初々しさを失くさないのすごい。

 例によって最後まではできないけど、誕生日だし、いつもよりすごいことをしてあげたいなと

「あんまり嬉しくないかもだけど、私の裸でも見る?」

 裸に自信があるわけではないので遠慮がちに尋ねると、誠慈君は「えっ!?」と目を見開いて

「は、裸を見せてくれるの? それって全部?」

 驚き半分、期待半分といった感じで聞き返す彼に

「本当に何も着ていないところ、誠慈君が見たいなら見せる」

 「それがプレゼントでいい?」と確認すると、誠慈君は少しためらいがちに

「あの、俺は嬉しいけど、萌乃は本当にいいの? 誕生日だからって、裸を見せてもらって」

 私に無理をさせていないか心配らしい。かなり見たそうなのに、いつも私の気持ちを優先させてくれる。そんな彼の優しさが嬉しくて

「ダメなら自分から言わないよ」

 私は彼にそっと身を寄せながら

「私も誠慈君に、そろそろ全部見られちゃいたい」

 ちょっと自惚れっぽいけど、大好きな誠慈君を、もっと喜ばせたいから。私にあげられるものは、なんでもあげてしまいたい。

 そんな気持ちで口にしつつ

「でも前に胸は見せたし、今さらプレゼントにはならないかな」

 そもそも他人ならともかく恋人なら、そのうち自然と裸を見る。加えて私は、夏にすでに胸は見せている。そんなものをプレゼントにするのは、かえって誠慈君に悪い気がする。

 しかし考え直す私に

「なる! 全然なる!」

 誠慈君は咄嗟に否定したものの、恥ずかしくなったようで俯きながら

「……あの、がっついてアレだけど、萌乃の裸を見せてくれるなら、すごく見たい。だからいい? 誕生日プレゼントにねだっても」

 いつも慎み深い誠慈君だが、こういう時は意外とハッキリ求めてくれる。

 それはきっと彼自身、相手の気持ちが分からなくて不安になりやすい人だから。

 私が独り相撲かもと不安にならないように、自分も欲しいんだと言ってくれる。

 気持ちが通じている安心感に、私は「うん」と微笑みながら

「誕生日に私の全部、誠慈君に見せるね」

 と約束した。
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