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クォーツバード
小さな友だち
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私はカイルにクォーツ探しを手伝ってもらうことにした。
後日。私と一緒に魔物が生息する森に入ったカイルは、子ども用の剣を片手に
「俺、護衛って魔物と戦えって意味かと思った」
「子どもに殺しなんてさせないよ」
カイルには魔物に襲われた時の護衛を頼んだだけで、狩りとして殺させる気は無い。
本当は戦える者が居るなら、まだ生きている魔物を殺して奪うのが簡単だ。
けれどカイルは、まだ11歳だ。将来聖騎士になって誰かの命を摘むのだとしても、いま私が自分の代わりに手を汚させたくはない。
「仮に君が構わないとしても、落ちているクォーツを拾えるなら、まだ生きている魔物から無理に奪うことはやめよう」
魔物と言っても魔力量の多い生き物だ。人を害する者も居るが、それは動物も人間も同じこと。
他に方法が無いならともかく、無感覚に摘んでいい命では無い。
私の方針を聞いたカイルは嬉しそうに頬を緩めて
「俺も無闇に生き物を殺すのは嫌だから、アニスも同じで嬉しい」
どういう心境の変化か、彼は私を名前で呼ぶようになり、自分のことも呼び捨てにするように頼んだ。
これまでカイルは私を年上として慕っていたが、今は同じ目線に立ちたがっているようだ。なぜ、そうしたいのかまでは分からないが。
思案する私をよそに、カイルは急に話を変えると
「そうだ。せっかく森に来たんだから、アニスに俺の友だちを紹介するね」
そのまま森の奥に向かって「おいで! ピィ!」と大声で呼びかけた。
名前からして鳥か何かだろうと思ったが、カイルの呼びかけに姿を現したのは
「……えっ? その子が君の友だちなの?」
「うん。すごく綺麗で珍しい鳥でしょう?」
珍しいどころじゃない。それは絶滅したはずのクォーツバードだった。
クォーツバードは、その名のとおり全身がクォーツでできた手の平サイズの小鳥だ。
生きる宝石とも呼ばれる美しさもさることながら、小さな体に反してドラゴンやユニコーン並みの魔力貯蔵量を持つ。
観賞用としてだけでなく魔法アイテムの素材としても、とてつもなく貴重だった。
しかしその有用さに反して、クォーツバードには攻撃性がほぼ無い。
だから大昔に乱獲されまくって、とっくに絶滅したと考えられていた。
そんな幻の鳥とカイルは、どうして出会ったのか?
「アニスの時と同じだよ。1年前。誰かが助けを求めている気がして、この森に来たら、怪我をしたピィを見つけたんだ」
怪我したピィを見つけたカイルは、光魔法で治癒してあげた。それからはエサの代わりに、森で会うたびに魔力を与えているそうだ。
水晶細工のような小鳥の中で、黄金の光が揺れている様は、確かに筆舌に尽くせない美しさだった。
「ピィは人間に襲われて怪我をしたみたいなんだ。きっと綺麗だから欲しかったんだと思う」
クォーツバードの本当の価値は知らないものの、狩りの対象だと察したカイルは村の人たちにも秘密にしていた。
「せっかく自由に生きている鳥を籠に閉じ込めるのは可哀想だから、俺もたまにここに来て魔力を分けるだけにしているんだ」
カイルは指に止まったピィの頭を優しく撫でながら私を見て
「でもピィは本当に綺麗で珍しい鳥だから、アニスには見せてあげたかったんだ。他の人には内緒ね」
カイルは知らないようだが、絶滅したはずのクォーツバードは生きて捕らえれば10億。死骸でも3億の値が付くと言われている。
いわゆる一生遊んで暮らせる額だが
「……うん。君の考えどおり、その子はすごく貴重な鳥だから誰にも教えないほうがいい。もう人に追われないで済むように護ってあげて」
ピィの仲間は人間に乱獲されて死に絶えた。せっかく生き残ったこの子すら、人の手に落ちるのではあまりに悲しい。
カイルの言うとおり、この子だけでも鳥籠に閉じ込められるのではなく、自由に飛んでいて欲しかった。
私の返答に、カイルは少し照れたように笑って
「やっぱりアニスに見せて良かった。アニスなら俺の友だちを、ただ綺麗だねって一緒に見てくれる気がしたから」
クォーツバードが絶滅したはずの種であることは、カイルには伝えなかった。
カイルは詳しいことを知らずとも、ピィを人に見せるべきでは無いと考えているようなので、危険に晒される可能性は少ない。
それならカイルには、クォーツバードが人間によって乱獲されたことを今はまだ知らせたくない。いつか人や、この世界の残酷な面を知るとしても、今はまだ綺麗なものを、ただ綺麗だと無邪気に眺めさせてあげたかった。
後日。私と一緒に魔物が生息する森に入ったカイルは、子ども用の剣を片手に
「俺、護衛って魔物と戦えって意味かと思った」
「子どもに殺しなんてさせないよ」
カイルには魔物に襲われた時の護衛を頼んだだけで、狩りとして殺させる気は無い。
本当は戦える者が居るなら、まだ生きている魔物を殺して奪うのが簡単だ。
けれどカイルは、まだ11歳だ。将来聖騎士になって誰かの命を摘むのだとしても、いま私が自分の代わりに手を汚させたくはない。
「仮に君が構わないとしても、落ちているクォーツを拾えるなら、まだ生きている魔物から無理に奪うことはやめよう」
魔物と言っても魔力量の多い生き物だ。人を害する者も居るが、それは動物も人間も同じこと。
他に方法が無いならともかく、無感覚に摘んでいい命では無い。
私の方針を聞いたカイルは嬉しそうに頬を緩めて
「俺も無闇に生き物を殺すのは嫌だから、アニスも同じで嬉しい」
どういう心境の変化か、彼は私を名前で呼ぶようになり、自分のことも呼び捨てにするように頼んだ。
これまでカイルは私を年上として慕っていたが、今は同じ目線に立ちたがっているようだ。なぜ、そうしたいのかまでは分からないが。
思案する私をよそに、カイルは急に話を変えると
「そうだ。せっかく森に来たんだから、アニスに俺の友だちを紹介するね」
そのまま森の奥に向かって「おいで! ピィ!」と大声で呼びかけた。
名前からして鳥か何かだろうと思ったが、カイルの呼びかけに姿を現したのは
「……えっ? その子が君の友だちなの?」
「うん。すごく綺麗で珍しい鳥でしょう?」
珍しいどころじゃない。それは絶滅したはずのクォーツバードだった。
クォーツバードは、その名のとおり全身がクォーツでできた手の平サイズの小鳥だ。
生きる宝石とも呼ばれる美しさもさることながら、小さな体に反してドラゴンやユニコーン並みの魔力貯蔵量を持つ。
観賞用としてだけでなく魔法アイテムの素材としても、とてつもなく貴重だった。
しかしその有用さに反して、クォーツバードには攻撃性がほぼ無い。
だから大昔に乱獲されまくって、とっくに絶滅したと考えられていた。
そんな幻の鳥とカイルは、どうして出会ったのか?
「アニスの時と同じだよ。1年前。誰かが助けを求めている気がして、この森に来たら、怪我をしたピィを見つけたんだ」
怪我したピィを見つけたカイルは、光魔法で治癒してあげた。それからはエサの代わりに、森で会うたびに魔力を与えているそうだ。
水晶細工のような小鳥の中で、黄金の光が揺れている様は、確かに筆舌に尽くせない美しさだった。
「ピィは人間に襲われて怪我をしたみたいなんだ。きっと綺麗だから欲しかったんだと思う」
クォーツバードの本当の価値は知らないものの、狩りの対象だと察したカイルは村の人たちにも秘密にしていた。
「せっかく自由に生きている鳥を籠に閉じ込めるのは可哀想だから、俺もたまにここに来て魔力を分けるだけにしているんだ」
カイルは指に止まったピィの頭を優しく撫でながら私を見て
「でもピィは本当に綺麗で珍しい鳥だから、アニスには見せてあげたかったんだ。他の人には内緒ね」
カイルは知らないようだが、絶滅したはずのクォーツバードは生きて捕らえれば10億。死骸でも3億の値が付くと言われている。
いわゆる一生遊んで暮らせる額だが
「……うん。君の考えどおり、その子はすごく貴重な鳥だから誰にも教えないほうがいい。もう人に追われないで済むように護ってあげて」
ピィの仲間は人間に乱獲されて死に絶えた。せっかく生き残ったこの子すら、人の手に落ちるのではあまりに悲しい。
カイルの言うとおり、この子だけでも鳥籠に閉じ込められるのではなく、自由に飛んでいて欲しかった。
私の返答に、カイルは少し照れたように笑って
「やっぱりアニスに見せて良かった。アニスなら俺の友だちを、ただ綺麗だねって一緒に見てくれる気がしたから」
クォーツバードが絶滅したはずの種であることは、カイルには伝えなかった。
カイルは詳しいことを知らずとも、ピィを人に見せるべきでは無いと考えているようなので、危険に晒される可能性は少ない。
それならカイルには、クォーツバードが人間によって乱獲されたことを今はまだ知らせたくない。いつか人や、この世界の残酷な面を知るとしても、今はまだ綺麗なものを、ただ綺麗だと無邪気に眺めさせてあげたかった。
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