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迷いの森の攻防

追い詰めたつもりが、追い詰められる私

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 カイルが街に行っている隙に、自分が迷いの森を出ることも考えた。しかし迷いの森は、自分の意思で出られないから迷いの森なのだ。

 カイルが街と迷いの森を自由に行き来できるのは、光属性特有の並外れた直感に加えて、ピィが道案内してくれるから。

 ところがピィに

「ピィ、お願い。カイルが居ない隙に、この森を抜けさせて」

 道案内を頼んでも、ピィはカイルの味方なので「ピッ」と、そっぽを向かれてしまう。

 私は迷いの森から出られない。流石にカイルが見るかもしれない場所で自殺はできない。かと言って昔のようにカイルの記憶を奪うことも難しいだろう。どうにかカイルが私を見放して、自分から去るように仕向けるしかない。

 そう考えた私は、ある雨の夜。マトモな男なら誰でも恐怖して逃げ出す作戦を決行した。

 カイルは普段、私に遠慮してテントの外で眠っている。けれど、その日は雨だったので、テントの中で寝るように私から声をかけた。

 防水加工されたテントの表面を、雨粒がザァザァと打つ。魔法で光量を調節できるランタンの薄明かりが、テント内をぼんやり照らす。

 そんな中。私はおもむろに身を起こすと、静かに眠るカイルの横で服を脱ぎだした。

 私としては男性に迫る時は、軽く衣服を緩めるか下着姿がベストだと思う。全裸はやる気満々すぎて「なに考えてんだ、コイツ」って感じで怖い。

 けれど今回の目的は、夜のお誘いの成功ではなく、カイルに恐怖や嫌悪を感じさせることだ。なのであえて全裸になると

「聖騎士様……」

 こちらに背を向けて横になっていたカイルに、後ろからピッタリと身を寄せて囁くと

「ま、魔女さん?」

 ビクッと振り向いた彼は、私の裸を目にして

「えっ!? なんで裸なんですか!?」

 バッと顔を逸らしたカイルの背中に、さらにむにゅっと乳房を押し付けると

「わっ、ちょっ!? ダメです、そんな恰好でくっついたら!」

 流石にカイルは身を起こして、テントの隅に逃げた。よし、いい感じだと、私は内心ほくそえみながら、四つん這いで彼に近づいて

「意地悪を言わないで触れさせてください。聖騎士様が恋しくて仕方ないんです」
「お、俺が恋しいって、どうして?」
「……あなたのように優しく美しい方に、これほど親身にされて勘違いしない女は居ないでしょう」

 その言葉は嘘ではなく本心だった。カイルは自分の価値を知らなすぎる。普通の女なら勘違いして、愚かな期待をしていただろう。

 この人は私が好きなんだ。私が好意を告げれば、喜んで一緒になってくれるはずだと。

 私のように寄る辺の無い女ならなおさら、男の庇護を望まないはずがないので

「そういうつもりじゃなかったと言うなら、これ以上心が動く前に去ってください。でないと、あなたのここを毎晩、欲しがるようになりますよ」

 カイルの足の上に乗って、思わせぶりに股間を撫でると

「ふぇぇ……?」

 薄暗闇の中でも、カイルが真っ赤になって目をグルグルさせているのが分かる。いや、混乱していないで逃げろと心の中でツッコみながら

「逃げるなら本当に今のうちですよ。男が奪うのは体だけですが、女が求めるのは人生ですから。そんなに私が心配なら、これからはずっと一緒に居て。あなたの子どもを産ませてください」

 私は彼を優しく押し倒すと、腹の上にまたがって

「子どもは何人欲しいですか、聖騎士様?」

 完全にマウントを取った状態で、妖しく微笑む。するとカイルは耐えられないとばかりに、自分の顔を両手で覆いながら

「あっ、あの、じゃあ、男の子と女の子を2人ずつ……」
「えっ?」
「えっ?」

 寝そべった彼の腹にまたがったまま、しばし固まる。硬直の解けた私は

「なんで逃げないんですか? ほぼ他人のような女に全裸で、子どもを産ませてと迫られて」

 一夜の誘いなら喜ぶ男も多いだろう。しかし行きずりの女に子どもを産ませてと迫られたら、マトモな男は青くなって逃げ出す。

 ところがカイルは熱っぽい目で私を見上げると

「魔女さんとは会ったばかりですが、他人だと思ったことはありません。実はこの森ではじめてあなたと出会った時、まるで遠い昔に失くした何かを見つけたような。欠けていた何かが埋まるような、とても不思議な感覚になったんです」

 気のせいだと言いたいところだが、実際に私は彼の失った何かだ。

 どうやら私は忘却の魔法を過信していたようだ。忘れたものは思い出せないだけで、消えて無くなるわけじゃない。記憶を封じても対象への好悪は、無意識の感覚として残るのかもしれない。

「一目見ただけの相手に心を奪われるなんて自分でも信じがたいけど、俺のキスであなたが目覚めたということは、そういうことなんだと思います。だからもし魔女さんが、本当に俺の子どもを産んでくれるなら嬉しいです」

 記憶を奪われながらも、好感度はそのままだったらしいカイルは、焦がれるような目で私の手を取り

「俺もあなたの人生が欲しいです」

 予想外に人生を求め返された私は
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