根来半四郎江戸詰密偵帳

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02 武士の体裁

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「こーこに居たか~半四郎~、やっと見つけたぞ~」、橋本は目を剥いていまにも食いかからんばかりである。
 「あっ、これは橋本様、よくそれがしが此処に居る事がお判りになりましたな」、「御前、深川の店子になったはいいが、大家に樽代は払ったのか?」。
  「何ですか?それは?」
   「大家に払う付け届けの謝礼金だ!御前が払わないからな、大家がな、竹橋の藩邸まで取りに来たわ!わしは上司として穴が有ったら入りたい心境じゃった」。
  「穴だったら掘るのは得意ですよ。鉄砲衆ですから」
  「うつけ者~!そんなこといっとらん!一朱と二分きっちり払え」、「え?!そんなに?」
 蕎麦屋のオヤジが、忙しく箸を動かしながら軽く咳払いをした。
 「橋本様、町方の朝は早いんです。明け六つともなれば納豆売りが来て始まる。近所迷惑になるので......」、「このうつけ者~、大体江戸詰の藩士は、藩の顔ともいうべきもの、御前のように鉄砲しか能のない放蕩下級藩士がなぜ選考されたのか?サッパリ解せぬわ」。
 「半四郎さん」、女の声がした。橋本が振り向くと、歳の頃は十六、七の妙齢の女性が慄然として立って居る。「誰この人?何だか怖い」。
 「ゆなちゃんか、それがしの上役なんだ」、ゆなは目を剥いて驚いた、「半四郎さんって、お武家さんだったんだ~!」、橋本はこの痴話を聴いてる内に更にキレた。
 「半四郎!御前、どうして留守居役の水野様の所に出仕して来ずに、下町で浪人風情の真似事ばかりしておるのだ。それで徳川譜代の臣と言えるか?」、橋本の唇はワナワナと震えている。
 「お堅いのですのです、あの方は、お口になさるのは、天下の御政道とか、藩政の是非であるとか、裃で読み書きは全く性に会いません」、「このうつけ者~、それが江戸留守居役というものだ、あちらがどうこうではなく、御前が合わせてお仕えするのが勤番武士の勤めじゃあ~!」。
 「それにこの町方風情の女子は何じゃ?」、「銭湯の亀屋で湯女をしてる、ユナで~す」、ゆながホオをプッと膨らませた。橋本は驚愕した、「半四郎~、貴様武士の身でありながら、湯女と交際しておるのか?恥を知れ、恥を!」。
  「すみません、橋本様、気力が全く湧きませぬゆえ留守居役の水野様には、江戸患いでしばらく病欠ということにしてくだされ」、橋本はやれやれといった調子で首を振った、「死んでしまえ半四郎~、いっそのこと」。
 橋本は待たせて置いた籠に載って竹橋方面へと去って行った。「橋本様~こんな夜分に籠で往復したらニ朱は下りませんよ~」、「うるさい!御前の知ったことか半四郎~、早う死ね~」、こうして江戸詰の上司と部下は罵りあいながら深夜の深川で別れた。
(続く)
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